「動注療法」は、指先の関節(ヘバーデン結節)に痛みや腫れを起こす“もやもや血管”だけを狙って、お薬をほんの少量だけ動脈の中に流し込み、炎症を静める最新の治療法です。
直接患部に届くため、全身へ回る薬の量はごくわずかです。そのため、一般的な内服や点滴で心配される「耐性菌(薬の効きにくい菌)が増えるリスク」は、現在までの報告ではほとんど見られていません。処置は日帰りで行え入院の必要はありません。
POINT
- 痛みやこわばりの改善が期待でき、日常生活がラクに
- お薬の total 量は通常の抗生剤治療の 1%未満
手の変形性関節症(ヘバーデン結節)の痛みの改善方法を探している、けど副作用や耐性菌への不安がある、という方は、当院のページを参照ください。
視点 | エビデンス | 評価 |
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① 患者レベルでの実感染・耐性菌出現 | 手指OA TAE 9例✕2セッション(計18手)、感染・MDR報告 0件【1】 IP/PIP OA 92例、フォロー最長12 か月でも感染報告なし【3】 整形領域TAE 431例(IPM/CS176件を含む)、重篤感染 0件【2】 | 観察上0%。95%信頼上限≈0.5%(600処置に1件以下) |
② 抗菌薬曝露量 | 手指では IPM/CS 250 mg以下/1セッション(500 mg粉末を10 mLに溶解、最大5 mL注入=250 mg)【1】 | 定常静注コース(1 g×4/日×7 日=28 g)の <1 % |
③ 薬理学的特性 | 粒径平均29 µm、90 分以内に完全溶解(in vitro)【4】 | 超短時間で局所に滞留→全身へ拡散しにくい |
④ 公衆衛生上の懸念 | Carbapenemは“最後の砦”薬剤。AMR憂慮ありと学会誌で言及【5】 | 手技の普及拡大に伴う理論リスクは残存 |
※IPM/CS=イミペネム/シラスタチン混懸液を一時的塞栓材として利用。
総合リスク評価
- 個々の患者で耐性菌を生む可能性は極めて低い
- 単回・少量・局所投与で全身選択圧がほぼかからない。
- これまでの公開症例・シリーズで MDR菌発生報告は皆無。
- ただし公衆衛生的には“ゼロ”とは言えない
- Carbapenem使用自体が AMR 対策の最前線にあるため、「非感染症目的での常用」は国際的に推奨されにくい。
- 代替となる非抗菌性の吸収性マイクロスフェア(QS-GSPs, RM など)でも疼痛改善効果は同等との報告【2】。
実務上のリスク最小化チェックリスト
項目 | 推奨 |
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用量 | 原則 250 mg(5 mL)以内/手、2回目は≤150 mg(3 mL) |
セッション間隔 | ≥4 週空け、年2–3回までに制限 |
デバイス管理 | 24G穿刺→20 分観察で抜去。持続カテ留置は行わない |
周術期抗菌薬 | 追加静注は不要(手技自体がβ-ラクタム) |
廃液処理 | 残液は非下水廃棄。院内薬剤廃棄ルールで焼却/高温蒸解 |
症例登録 | 感染イベントを追跡し、年次で外部報告(学会・院内ICT) |
代替塞栓材の検討 | 多関節・反復手技が見込まれる場合はQS-GSPs等へ切替え |
まとめ
- 現時点の臨床データでは、ヘバーデン結節に対するIPM/CS動注で耐性菌が問題化した例は報告されていない。
- **患者個々のリスクは<0.5 %**と推定されるが、Carbapenem乱用抑制の観点からは症例選択と用量最少化が必須。
- 普及が進むにつれて AMR 影響評価が求められるため、将来的には非抗菌性・吸収性塞栓材へのシフトが望ましい。
参考文献
- Lee SY et al. Hand OA TAE 短期成績. Diagn Interv Radiol 2024. PMC
- van Zadelhoff TA et al. 3種一時塞栓材の比較安全性. JVIR 2025 ahead-print. PubMed
- Kubo T et al. DIP/PIP OA 92例動注後成績. Cardiovasc Interv Radiol 2023. PubMed
- Nakamura H et al. IPM/CS粒子の溶解挙動. CVIR Endovasc 2024. SpringerOpen
- Genicular Artery Embolization Case Report—AMR考察. Life 2025. mdpi.com