関節リウマチの食事療法と最新エビデンス|リウマチ専門医が解説

関節リウマチ患者さんの治療におすすめな地中海食を解説します

関節リウマチを食事で改善させたい、自然な治療方法で、自分でできることで改善させたい、という気持ちを持って見えるかたはとても多くいらっしゃいます。このページでは、そういった食事を探して見える関節リウマチ患者様向けの、症状緩和や炎症抑制に有用とされる地中海式食事について解説します。​

地中海食のメリットとなる、具体的な食事内容は次のような食品です。

  • 青魚(脂肪の多い魚) – サバ・イワシ・サケなどの脂肪魚はオメガ3脂肪酸(EPA/DHA)を豊富に含み、抗炎症作用があります​。オメガ3は炎症メディエーターの生成を抑制し、痛みや朝のこわばりを軽減する効果が報告されています。週に1~2回程度の脂肪魚摂取が推奨されます​
  • オリーブオイル – 一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)やポリフェノールを含むエキストラバージン・オリーブオイルは抗炎症・抗酸化作用を持ちます​。地中海食では調理やドレッシングに日常的に使用し、炎症マーカーの低下に寄与する可能性があります​
  • 野菜・果物 – ビタミンCやE、ポリフェノールなど抗酸化物質を豊富に含み、体内の酸化ストレスと戦うことで関節の炎症を和らげると考えられます。特に緑黄色野菜やベリー類、柑橘類は積極的に摂取が勧められます。目安として1日5皿以上の野菜・果物を摂ることが推奨されています​
  • 抗酸化作用のあるスパイス(ウコン《クルクミン》やショウガなど)も補助的に炎症を抑える効果が示唆されています​
  • 全粒穀物・豆類・ナッツ – 食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富で、腸内環境の改善と抗炎症につながります​。全粒粉の穀物やオートミール、豆類は血糖値の急上昇を抑え、CRPやIL-6といった炎症マーカーを低下させる関連が報告されています。食物繊維は短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌を増やし、免疫の調整に寄与します。また、大豆製品やナッツ類は良質なたんぱく源でありながら、炎症を悪化させにくい脂質プロファイルを持つため、動物性脂肪の代替として適しています。
  • 発酵食品(プロバイオティクス) – ヨーグルト、乳酸菌飲料、味噌・漬物などの発酵食品は腸内の有益菌を増やし免疫機能をサポートすると期待されています。いくつかのRCTでは乳酸菌(L. caseiなど)サプリメントの併用により炎症が軽減し関節の機能が改善したとの報告もあります​。プロバイオティクスの効果は個人差がありますが、腸内環境を整える食品として適量を取り入れることが推奨されています。

以上のような食品を組み合わせた地中海式の食事パターンは、RA患者の炎症と痛みを和らげ、全身の健康を支えるため推奨されています​

実際、抗炎症食(地中海食や植物性中心の食事)を続けた群では通常食の群に比べ疼痛や腫れのある関節数が有意に減少したとのメタ分析結果があります​。さらに体重減少効果もみられ、肥満解消を通じて関節負荷や炎症性サイトカイン産生を減らすメリットも期待できます​

避けるべき食品

関節リウマチの炎症悪化を招く可能性がある食品や、腸内環境に悪影響を与えるとされる食品はできるだけ控えることが望まれます​。

  • 赤身肉・加工肉 – 牛肉や豚肉など赤身肉の過剰摂取やハム・ソーセージ等の加工肉は、飽和脂肪や高度加工由来の添加物により炎症反応を促進する可能性があります。実際、西洋型の食生活(赤身肉や動物性脂肪の多い食事)はRA発症リスクの上昇や症状悪化と関連するとの報告があります。RA患者では赤身肉の頻度を月1~2回程度に留めるなど制限することが推奨されています。
  • 過剰な食塩 – 塩分の高い食事は腸内の免疫バランスを崩し、炎症性の免疫細胞(Th17細胞など)を増やす可能性が指摘されています。またステロイド治療中の患者では高血圧や骨量減少を助長するため、塩分はできるだけ控えめにするべきです。加工食品やスナック菓子、塩蔵食品の摂取を減らし、日常料理でも減塩を心がけます。
  • 糖質・甘い飲料 – 清涼飲料水や菓子類など高糖質・高GI食品は血糖値スパイクによる全身性炎症の誘発や、余分なカロリーによる肥満促進につながります​。肥満は脂肪組織から炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6)が放出されRAの疾患活動性を悪化させるため、砂糖たっぷりの飲料やデザートは控えることが望ましいです​。特に糖質制限が必要な合併症(糖尿病など)がある場合は尚更注意します。
  • トランス脂肪酸・加工油脂 – 市販の菓子類、揚げ物、マーガリン等に含まれるトランス脂肪や過度に加工された植物油は、血中の炎症マーカー上昇や血管機能障害を引き起こすことが知られています​。これらの脂肪は可能な限り摂取を避け、調理油はオリーブオイルやキャノーラ油など良質な油に置き換えることが推奨されます。
  • アルコール(過度の飲酒) – 適量の飲酒であれば関節リウマチに大きな悪影響は及ぼさないとの報告もありますが、大量の飲酒は肝機能障害や免疫低下を招き、抗リウマチ薬との相互作用も懸念されます。特にメトトレキサートなど肝代謝される薬剤を服用中の場合は飲酒量に注意が必要です。一般には節度ある飲酒(適量のワインなど地中海食の範囲内)が勧められ、週に数日は休肝日を設けるよう指導されています。
  • カフェイン(過剰なコーヒー) – コーヒーそのものがRAを悪化させる明確なエビデンスは定まっていませんが、ある疫学研究ではコーヒー高摂取者でリウマチ因子(RF)陽性RAのリスクが上昇する可能性が示唆されました​。そのためコーヒーの飲み過ぎは控えめにし、1日数杯程度に留めることが無難です​。緑茶やハーブティーなどカフェインレスでポリフェノールを含む飲料に置き換えるのも一案です。

以上のような食品・飲食物はRAの炎症を悪化させたり治療の妨げになる恐れがあるため、できる範囲で減らす・避けることが推奨されます。ただし過度な制限による栄養不足も問題なので、次章の栄養素を考慮しつつバランスを取ることが大切です

3. 栄養素の役割

関節リウマチ患者さんの食事では、特定の栄養素を意識することで炎症コントロールや免疫調整に寄与できる可能性があります。エビデンスから考える主な栄養素とその役割は以下の通りです。食事に関しては、よりよい食事を考えている方の参考になれば幸いですが、食事だけに固執しすぎないこともまた大切です。

  • オメガ3脂肪酸(EPA/DHA): 魚油に含まれるオメガ3系多価不飽和脂肪酸は、炎症性サイトカインやプロスタグランジンの産生経路に干渉し抗炎症作用を示します​。関節リウマチにおいて最も研究されてきた栄養素の一つで、複数の臨床試験やメタ解析により朝のこわばり時間の短縮、関節痛の軽減、圧痛関節数・腫脹関節数の減少などが報告されています​。例えば、論文レベルではオメガ3補給により早朝のこわばりや疼痛、血沈(ESR)の改善が有意に認められたと結論しています​。魚を十分に食べられない場合、医師と相談の上で魚油サプリメントを利用することも選択肢です。
  • 抗酸化物質(ビタミン類・ポリフェノール): 関節リウマチ患者さんの関節では酸化ストレスによる組織ダメージが起こっており、ビタミンC・E、セレン、ポリフェノールなどの抗酸化栄養素がこれを緩和すると考えられます。果物や野菜に含まれるビタミンCやフラボノイド類、緑茶のカテキン、オリーブオイル中のオレオカンタールなどは炎症性サイトカインの産生抑制活性酸素種の除去に寄与する可能性があるという報告や。近年、ポリフェノールのサプリメント(例:クルクミン[ウコン]、レスベラトロール[ブドウ由来]、ケルセチン[タマネギ由来]等)が関節リウマチに及ぼす影響を調べたランダム化比較試験なども報告されています。ネットワークメタ解析では、クルクミン補充によりプラセボ対照で有意に腫脹関節数・圧痛関節数が減少したとの結果もあり、抗酸化作用を通じた症状改善が示唆されています​。ただし抗酸化サプリ単独で疾患を抑え込むほどの効果は確認されておらず、食品から幅広い抗酸化成分を摂取することが推奨されています。
  • ビタミンD: ビタミンDは骨代謝に加え免疫調節作用を持つ脂溶性ビタミンです。RA患者ではビタミンD不足がしばしばみられ、低ビタミンD状態は疾患活動性の高さと関連する可能性があります。ビタミンDの十分な補給(食事や適度な日光浴、必要に応じサプリ)は骨粗鬆症予防の観点から必須であり、さらに免疫系への作用によってRAの炎症を和らげる潜在的効果が報告されています。実際、ビタミンD補充とプラセボを比較した試験ではDAS28スコアなど疾患活動性指標の僅かな改善が認められた例もあります。ただし効果の大きさには議論があり、2022年の包括レビューでは「ビタミンD補給は関節リウマチに有益との中等度のエビデンスがあるが、臨床的意義は小さい可能性が高い」とされています。したがってビタミンDは骨の健康維持を目的に十分量を確保しつつ、副次的に炎症抑制を期待する位置づけです。ガイドライン上も、特にステロイドを長期使用する場合や高齢患者ではビタミンDとカルシウムの併用が推奨されています。
  • その他の重要栄養素:
    • カルシウム・良質タンパク質: 関節リウマチは炎症性疾患であると同時に、炎症や活動性低下により骨粗鬆症や筋力低下を招きやすい疾患です。乳製品や小魚、大豆製品などカルシウム源を意識して摂取し、骨密度低下を防ぐことが大切です​。また、筋力維持のためにも魚・大豆・脂肪の少ない肉など良質のタンパク質を十分に取る必要があります​。特に病勢が強く食欲不振に陥るときでも、タンパク質と必須アミノ酸の不足が起きないよう工夫します。
    • 鉄・葉酸: 慢性炎症に伴う貧血(慢性疾患に伴う貧血)やメトトレキサート治療に伴う葉酸不足がRAでは問題となりえます。レバーや赤身肉、緑葉野菜など鉄分・葉酸を含む食品を取り、必要に応じてサプリメントで補うことも検討します。貧血が進行すると全身倦怠感が強まりQOLが低下するため、血液検査を踏まえた栄養管理が重要です。日本人女性の方は潜在性鉄欠乏という鉄欠乏状態の方も多いことが知られています。
    • 食物繊維: 前述の通り食物繊維は腸内環境を整え、抗炎症に働く物質の産生を促します​。野菜・果物・海藻・きのこ・全粒穀物などから1日20g以上の食物繊維摂取を目指します。十分な食物繊維摂取は心血管リスクや肥満の是正にも有益で、関節リウマチ患者さんの合併症予防にもつながります​。

以上のように、特定の栄養素(オメガ3、ビタミン、ミネラルなど)に配慮した食生活はRAの病勢コントロールを栄養面から支える重要な柱です​ただし、単一の栄養素では効果が限られることも多く、全体としてバランスの取れた食事の中で適量を摂取することが強調されています​

実際、エビデンスの体系的レビューでは「食事療法の効果は個人差が大きく明確な結論には至らない」とされるものの、複数の有益な栄養素を組み合わせた健康的な食事を心がけることはリスクが低く推奨されると結論づけられています​

4. 食事パターンと臨床効果

関節リウマチに対して検討されている主な食事パターンとして、地中海式食事、プラントベース食(菜食)、断食療法などが報告されています。それぞれの特徴とエビデンスを解説します。

  • 地中海式食事: 野菜・果物、魚介、オリーブオイル、全粒穀物、豆類、ナッツ類を中心とし、赤身肉や加工食品、過剰な乳製品・甘味を控える食パターンです​。地中海食は抗炎症作用がある栄養素を豊富に含むため、RA患者に有益と考えられています。実際、RCTにおいて地中海食を12週間続けた群では、通常食群に比べて関節痛の軽減、DAS28スコア改善、HAQ(健康評価質問票)スコア改善、CRP低下などが有意に認められました​。また2022年のACR(米国リウマチ学会)ガイドラインでも、RA患者に対し正式に推奨される唯一の食事法が地中海式食事でした​。メタ分析でも他の食事法に比べ痛みの改善効果が大きい傾向が示されています。さらに地中海食は心血管疾患予防にも効果的で、関節リウマチ患者さんで問題となる動脈硬化リスクの低減にもつながる点が利点です​。総じて地中海食は関節リウマチにおいて最もエビデンスが蓄積された食パターンと言えます。
  • プラントベース食(菜食): 肉類を避け野菜や果物、穀物、豆類中心の食事が関節リウマチに有用とする報告もあります。特にビーガン(完全菜食)やラクトベジタリアンなどは、動物性脂肪や炎症を誘発しうるアラキドン酸の摂取が減る一方で、抗酸化物質や食物繊維の摂取量が増えるため抗炎症的に働くと考えられます​。実際、RA患者24名を対象に4週間の超低脂肪ビーガン食を与えた試験では、炎症マーカーの改善が示唆されています​。また、有名なRCTでは7-10日間の断食療法+その後3-4ヶ月のグルテンフリー・ビーガン食を経て、その後はラクトベジタリアン食へ移行した群が、通常食群と比較して痛み、朝のこわばり時間、腫脹関節数、圧痛関節数、CRPなど多くの指標で有意な改善を示しました​さらに別のRCT(Hafströmら2001年)でも1年間のグルテンフリー・ビーガン食群が対照群より有意に症状が改善しACR20レスポンスを達成した割合が高かったと報告されています。総合的なレビューでも「菜食や元素食(消化に負担の少ない食事)は症状を緩和する可能性がある」と結論付けられています。ただし菜食主義を続ける場合、タンパク質やビタミンB12、鉄分など不足しやすい栄養素の補給に留意する必要があります。また長期的持続可能性は個人の嗜好に左右されるため、無理のない範囲で部分的菜食を取り入れる(例:平日は菜食、週末は魚を摂るペスコベジタリアンなど)工夫も考えられます。現時点では、栄養摂取不足のリスクも含めてガイドラインには掲載されていないです。
  • 断食療法(ファスティング): 一定期間カロリー摂取を極端に制限する断食は、炎症を一時的に抑える効果がいくつかの研究で示唆されています​。断食によりケトン体が増加すると抗炎症作用を持つ経路が活性化し、また腸内細菌叢の変化や免疫細胞のリセット効果が考えられます。上述のように断食を導入部に用いた食事介入試験では、断食開始から比較的速やかに関節症状の改善がみられています​が、現時点でのエビデンスはまだ十分ではありません。断食は実施に当たって栄養失調や脱水のリスクもあるため、行う場合は専門家の指導の下で慎重に進めることが大切です。
  • その他の食事法の報告と現時点でのエビデンス
    • 元素食: アレルゲンや食物繊維を極力除去した完全栄養食(ドリンク剤等)で一時的に腸を休める方法です。一部の研究でRA症状の改善が示唆されていますが、日常生活で長期間取り入れるのは困難です。
    • グルテンフリー食: セリアック病ではありませんが、小麦グルテンに敏感なRA患者ではグルテン除去で症状が和らぐとの報告があります。前述のビーガンRCTでも食事からグルテンを除去していました​。ただし一般のRA患者全員にグルテンフリーを推奨するだけのエビデンスは現時点では不足しています​。
    • 抗炎症ダイエット: 明確な定義はありませんが、オメガ3を多く含む食品や低GI食品、フィトケミカル豊富な植物性食品を組み合わせ、炎症を促す食品(本章「避けるべき食品」)を排除する食事法です。地中海食や和食は自然にこのパターンに近いと言えます。近年の研究では「抗炎症ダイエット」を実践した群で関節痛や機能スコアが有意に改善したとの報告があります​。
    • 減量食: 食事療法というより体重管理の一環ですが、BMI過剰の関節リウマチ患者では減量自体が炎症を低減し症状を改善する重要な手段です​。低カロリー・高たんぱくの食事や運動療法との組み合わせで適正体重に近づけることが目標です。

以上のように様々な食事パターンが試みられていますが、共通するのは「高栄養価な食品を多く、炎症を誘発する食品を少なく」という点です​

地中海式や菜食を問わず、「加工度の低い植物性食品と魚介類を中心に据えたバランスの良い食事」を心がける食事はよいと考えます。

5.体重管理と生活習慣

適切な体重の維持も関節リウマチの予後に影響する重要な要素です。肥満は関節への物理的負担を増やすだけでなく、脂肪組織から分泌されるサイトカインやホルモン(例えばTNF-α、IL-6、レプチンなど)によって全身の炎症状態を高め、関節リウマチの症状や疾患活動性を悪化させる可能性があります。実際、肥満のRA患者は標準体重の患者に比べて寛解(症状が落ち着いた状態)を達成しにくいことが、多施設共同研究の追跡調査で示されています。また、肥満は治療反応性の低下とも関連するため、体重を減らすことで薬物療法の効果が向上しうるとの指摘もあります。

そのため、減量は過体重の関節患者さんにおいて重要な目標となります。適度なカロリー制限と栄養バランスの取れた食事、定期的な運動を組み合わせることで無理のない減量を目指します。体重が減少すると関節への荷重ストレスが軽減されるだけでなく、炎症性物質の産生も減少し、症状の改善や関節機能の維持につながります。生活習慣全体を見直し、禁煙やストレス管理といった他の要因も含め包括的に取り組むことが、RAの長期管理には有益です。

6. ガイドラインの推奨比較(ACR・EULAR・日本)

米国リウマチ学会(ACR)と欧州リウマチ学会(EULAR)、および日本リウマチ学会等が公表している最新の推奨やガイドラインにおける食事に関する記載を比較します。

  • ACR(米国): 2022年に発表された関節リウマチの治療ガイドラインでは、運動やリハビリ、食事など非薬物療法の推奨が初めて盛り込まれました。この中で 「地中海式食事」を条件付きで推奨 し、それ以外の特定のダイエット(例えばパレオダイエットやケトジェニックなど)については有効性の十分な根拠がないとして推奨しない姿勢を示しています​。投票パネルは地中海食の抗炎症効果と心血管リスク低減のエビデンスを重視し、この食事法を支持しました​。一方で「サプリメントよりもまず食品から栄養を摂取する(Food first)」ことを強調し、特定のサプリメントの routineな推奨は行っていません(必要な場合のみ医師の判断で補う)。ACRはまた、食事療法は薬物療法の“補完”的役割であることを明言し、食事のみで関節リウマチを制御しようとしないよう釘を刺しています。標準治療の上に、食事療法を補完的に考えることが重要です。
  • EULAR(欧州): 2021年にEULARはリウマチ性疾患全般の生活習慣に関する推奨をまとめ、その中で食事についても言及しました​。EULARは「健康的でバランスの取れた食事」を推奨し、特定の食事法よりも栄養バランスと適正体重の維持を重視しています​。文献検討の結果、RAを含む多くのリウマチ疾患で食事療法のエビデンスは限定的であり、「明確な効果を持つ単一の食事要因は無い」という結論でした。そのためEULARは減量が必要な患者ではカロリー制限を、痩せすぎの場合は栄養強化を図りつつ、全般に地中海食を参考にしたバランス食**を取るよう提案しています​。
    また「少量から適度のアルコール摂取はRAの転帰を大きく損ねない可能性が高い」としつつ、喫煙は明確に有害であるため禁煙を強く推奨しています​。まとめるとEULARのスタンスは、「食事は大事だが決定打ではない。一般的な健康食を心掛け、体重を適正に保つこと」が基本線です。
  • 日本リウマチ学会(および国内の指針): 日本では関節リウマチ治療ガイドラインに食事療法単独の章立てはありませんが、患者向け資料などで極端な食事療法への注意喚起とバランス食の重要性が説かれています。日本リウマチ学会や関連団体は「関節リウマチが特定の食事で治るものではない」と断った上で、「健康に過ごすには栄養バランスの取れた食事が基本」としています。具体的には主食・主菜・副菜をバランスよく配置し、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維を過不足なく摂取する日本型の食事を推奨しています。特に合併症予防の観点から、貧血対策に鉄分、骨粗鬆症対策にカルシウムとビタミンD、筋力維持に良質なたんぱく質を十分摂るよう呼びかけています。また体重コントロールの重要性も強調され、肥満は関節への負担と炎症悪化に繋がるため減量を、逆に痩せすぎは感染症リスクを高めるため適正体重までの栄養摂取を助言しています。日本の患者さん向け情報では「これだけは食べてはいけない」という食品は特に無く、何でも偏りなく適量を食べることが勧められています​。ただし嗜好品では塩分や糖分の多いものは控え、アルコールも薬剤との兼ね合いで節度を守るよう指導されます。総じて日本における推奨は欧米のガイドラインと大きな差は無く、「栄養バランスの良い食生活で全身状態を整え、薬物療法をサポートする」という位置づけです。

まとめ: 2020年以降のエビデンスと各ガイドラインは、「関節リウマチの食事療法は補助的な役割であり、薬物療法に代わるものではないが、適切な食事は合併症リスクの軽減に有益である」点で一致しています​。ACRでは、地中海食の有益性への言及がやや多くなっています。

炎症を抑える食品(魚、オリーブオイル、野菜果物など)を積極的に摂り、炎症を悪化させる食品(加工肉、過剰な糖・脂肪・塩分)は控えるという基本的な食習慣の改善が、科学的根拠に裏付けられた関節リウマチの食事療法のポイントといえるでしょう。​

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