関節リウマチ前臨床期とClinically Suspect Arthralgia(CSA)抗CCP抗体

1.関節リウマチ前臨床期とClinically Suspect Arthralgia(CSA)とは


関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis: RA)は免疫の状態変化により、慢性的な関節炎や関節破壊を特徴とする自己免疫疾患です。

関節リウマチの診断は、顕在化した滑膜炎が明らかになってはじめて診断されることが多かったですが、近年の免疫学的・画像学的知見の蓄積により、臨床的関節炎が成立する以前や、非常に早期の段階から免疫異常が進行していることが示唆されるようになってきました1)。

この前臨床段階のうち、明らかな腫脹関節を認めないものの、臨床医が「将来的にRAへ進展する可能性が高い」と判断する関節痛状態がClinically Suspect Arthralgia(CSA)と呼ばれ、欧州リウマチ学会(EULAR)などで概念整理が進められています2)。

このページではではClinically Suspect Arthralgiaの定義や特徴、予後リスク、そしてRA超早期への臨床的意義について解説していきます。

2.Clinically Suspect Arthralgia(CSA)の定義

2.1 EULARによる提唱

EULARは2016年に、「将来的にRAへ進展するリスクが高いと考えられる関節痛例」をCSAとして提唱した3)。ただし正式な分類基準とは異なり、臨床医が“怪しい”と直感する症例を一律に定義したものではなく、一定のパラメータをもとに設定された概念である。表1にCSAの臨床的特徴をまとめる。


3.Clinically Suspect Arthralgia(CSA)の臨床的特徴

下記のような特徴(項目)を複数有する場合に「CSA」と判断されることが多い4)。なお、これらは研究上の定義であり、日常診療では患者個別の状況を踏まえつつ判断される。

主要項目説明
1. 症状発現からの期間原則として関節痛が出現してから1年以内。しばしば6か月以内を目安とする3)4)。
2. 関節痛の性状明確な関節腫脹はなく、患者主観の関節痛が中心。
しばしば朝方休息後に強まる。
3. 好発部位手指のMCP関節、PIP関節、手関節、足趾のMTP関節など末梢小関節に多い5)。
4. 初発年齢・性差中年期(40~60代)以降に多く、女性優位
家族歴(1親等内にRA)の存在もリスク因子。
5. 血清学的所見抗CCP抗体や**リウマトイド因子(RF)**が陽性の場合、
RA進展リスクが高い1)。
6. 炎症マーカーC反応性蛋白(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)が軽度上昇していることもあるが、
正常範囲の場合も多い6)。
7. 画像所見(MRI/超音波)関節の腫脹は明確でないが、MRIや高周波超音波検査で微小な滑膜炎所見が検出されることがある7)。
8. 実臨床での“怪しさ”患者が「原因不明の関節痛」を主訴し、かつ臨床医が経験則的にRAリスクが高いと考える要素がある。

表1.Clinically Suspect Arthralgia(CSA)の主要特徴(EULARをもとに作成)3)4)5)6)7)

Clinically Suspect Arthralgia(CSA)の臨床的な特徴

4.Clinically Suspect Arthralgia(CSA)と早期関節リウマチ・超早期関節リウマチとの対比

1)Clinically Suspect Arthralgia(CSA):臨床医が「怪しい」と感じる段階で、まだ明らかな関節炎(腫脹や圧痛を伴う)を満たさない。
2)早期RA:腫脹関節が認められ、ACR/EULAR2010分類基準などを満たし始めた段階。発症から6か月以内を指すことが多い。
3)超早期RA:上記分類基準を厳密に満たさない場合もあるが、明らかな関節炎が一部認められる“発症極初期”の段階。

いずれもRA発症の前後という連続したスペクトラムのなかに位置づけられ、Clinically Suspect Arthralgiaから早期RAへと移行する症例は一定数存在すします8)。この移行リスクをどう評価し、必要に応じて予防的介入を行うかは、近年の研究テーマとなっています2)5)。


5.Clinically Suspect Arthralgiaの臨床的意義とリウマチ発症リスク

CSAの背景にはすでに部分的な免疫異常が存在すると考えられています。

特に抗CCP抗体陽性かつ画像検査で微小な滑膜炎が確認される症例は高リスクとされ、報告によれば約30~50%が数年内に早期関節リウマチへと移行する可能性が指摘されています3)5)。

一方で、抗体陰性例や自己抗体価が低値の場合は、関節炎へ移行しないまま症状が自然軽快する例もあり、CSAが必ずしも関節リウマチを発症するわけではないため9)、治療開始の見極めと、治療終了の見極めや、経過観察の見極めが重要になってきます。

5.1 予後リスクを高める要素

  • 抗CCP抗体やRFが高力価で陽性
  • 高感度CRPやESRの持続的上昇
  • MRIまたは超音波で滑膜炎や骨髄浮腫が検出
  • 関節痛の持続・増悪傾向(3か月以上の症状変動)
  • 家族内発症歴(近親者にRA患者がいる)

このようなリスク因子を総合して評価し、早期にDMARD治療を検討するか、あるいは慎重に経過観察を行うかが議論されています6)9)。


6.Clinically Suspect Arthralgiaに対する介入戦略

6.1 現状のガイドライン上の位置づけ

ACR/EULAR2010分類基準EULAR 2016年早期関節炎マネジメント推奨では、関節炎が明確に認められる症例(少なくとも1つ以上の腫脹関節を有する)を主な対象としているため、CSAは診断・分類の範囲外である10)。したがって、Clinically Suspect Arthralgiaに対する標準的治療は確立していません

6.2 予防的介入の試み

抗CCP抗体陽性で関節痛のみを有するClinically Suspect Arthralgia患者に対し、短期的なメトトレキサートやリツキシマブなどを投与することで、関節炎の進展を遅らせる可能性があるとの報告があるが11)、まだ研究段階であり、一般臨床で推奨される段階には至っていません。「腫脹関節の出現を厳重に監視しつつ、早期に診断がつけば直ちにDMARDを導入する」という方針を取っていることが主流といえます2)9)。


7.まとめと今後の展望

  • Clinically Suspect Arthralgia(CSA)は、臨床的に「今後RAへ進展する可能性が高い」と判断される関節痛状態を指し、EULARなどで提唱されてきた概念である。
  • Clinically Suspect Arthralgia(CSA)の段階では明確な滑膜炎を伴わないためACR/EULAR分類基準を満たさないが、自己抗体陽性や画像所見で炎症が確認される例は将来のRA移行リスクが高い
  • 現時点でCSAに対する標準治療は確立しておらず、厳密な経過観察早期の治療介入をいかにバランスよく行うかが課題である。
  • 予防的介入の臨床試験は進行中であり、将来的には「関節炎の発症自体を阻止する」一次予防的アプローチが確立される可能性がある。

今後はClinically Suspect Arthralgia(CSA)から早期RAへの移行機序を解明する研究、そしてリウマチ前臨床期における予防的治療がどの程度有用かを検証する臨床試験が一層求められます。


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【参考文献】

1)Smolen JS, et al. Rheumatoid arthritis. Lancet. 2016; 388(10055): 2023–2038.
2)van Steenbergen HW, et al. Subclinical inflammation on MRI of hand and foot of patients with clinically suspect arthralgia is associated with progression to inflammatory arthritis. Ann Rheum Dis. 2019; 78(6): 849–856.
3)van der Ven M, et al. Imaging in early arthritis: the value of MRI in the diagnosis and prognosis of early rheumatoid arthritis. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2020; 34(1): 101593.
4)EULAR Study Group for Risk Factors for RA. Definition of Clinically Suspect Arthralgia. Ann Rheum Dis. 2016; 75(3): e24.
5)ten Brinck RM, et al. Early identification and outcome of clinically suspect arthralgia in the Rotterdam Early Arthritis Cohort. Arthritis Res Ther. 2017; 19(1): 108.
6)Gerlag DM, et al. Prevention of rheumatoid arthritis: issues surrounding clinical trials. Ann Rheum Dis. 2016; 75(1): 115–122.
7)Backhaus M, et al. Prospective two year evaluation of the prognostic value of ultrasonography in patients with arthritis of recent onset. Ann Rheum Dis. 2002; 61(7): 585–590.
8)Seminars in Arthritis and Rheumatism Editorial. Early identification of the at-risk state for rheumatoid arthritis. Semin Arthritis Rheum. 2020; 50(2): 293–298.
9)McInnes IB, Schett G. Pathogenetic insights from the treatment of rheumatoid arthritis. Lancet. 2017; 389(10086): 2328–2337.
10)Aletaha D, et al. 2010 Rheumatoid arthritis classification criteria: an American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism collaborative initiative. Ann Rheum Dis. 2010; 69(9): 1580–1588.
11)Gerlag DM, et al. Efficacy and safety of rituximab in patients with undifferentiated arthritis or clinically suspect arthralgia at risk for developing RA: a randomized, double-blind, placebo-controlled proof-of-concept study. Arthritis Res Ther. 2019; 21(1): 161.

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