播種性淋菌感染症(Disseminated gonococcal infection)

急性の他関節炎(沢山の関節が腫れて痛む)の鑑別疾患である、播種性淋菌感染症(Disseminated gonococcal infection)について解説します。

播種性淋菌感染症とは、性感染症である「淋菌」の感染後に出現する関節炎です。

 

関節リウマチと似た関節の腫れと痛みが出てきますが、淋菌の検査をしなければ見つけることができません。

当院でも淋菌検査ができる体制が出来たため、播種性淋菌感染症について解説します。

 

播種性淋菌感染症とは

未治療の淋菌(N. gonorrhoeae)感染症のうち、0.5-3%が播種性感染となります。

40歳頃まで方に多く、健康な人におこる、急性の多発関節痛•関節炎の原因になります。

 

男女比でいうと、頻度は女性のほうが男性の3倍多く、その半数は月経期間中におこります。産後におこることもあるとされます。

血液培養が陽性となるのは全体の1/3程度であり、免疫複合体やその他の間接的な免疫反応も関節炎の病態に関与すると考えられています。

 

播種性淋菌感染症の関節炎症状

1.滑膜炎、皮膚炎、多発関節痛の3徴を起こすパターン

滑膜炎は、手足の指や手首•足首に出現しやすいです。

皮疹は75%で認められるが、疼痛がなく、10個弱のことががほとんどとされます。

関節液は白血球が少なく、炎症を認めない場合が多い。培養も陰性の事が多い。

一方、血液培養は陽性となることが多いです。

 

2.皮膚病変を伴わない化膿性関節炎

1.に続いておこり、こちらも手足の指や手首•足首に多い。

多くは左右非対称性です。

関節液は白血球を多数認め、培養も陽性となる事が多いです。しかし一方で、こちらは血液培養は陰性となる事が多いです。

 

 

播種性淋菌感染症の治療

淋菌の治療はセフトリアキソンを単回投与ですが、播種性淋菌感染症の場合は治療期間が1週間以上になります。

 

【淋菌感染症】

<泌尿生殖器・直腸・咽頭の感染>

・150㎏以下ではCTRX500mg単回筋注

・150㎏以上ではCTRX1g単回筋注

・咽頭感染に第2選択はない。咽頭感染の全患者で7-14日後に治癒を確認。

 

・泌尿生殖器、直腸感染でcephalosporinアレルギーの場合、gentamicin240mg単回筋注+azithromycin2g単回経口

・治療後も症状が続く場合は培養を行い耐性確認。

 

<播種性淋菌感染症:Disseminated gonococcal infection>

・関節炎または関節炎・皮膚炎:24時間毎CTRX1g筋注/静注、7日。

・第2選択:cefotaxime 1g(クラフォラン、セフォタックス0.5,1.0g/V)静注8時間毎、7日。

・症状改善24-48時間後、経口薬に変更、計7日間でも可。

 

<淋菌性結膜炎>

・CTRX1g単回筋注

・眼を単回生食洗浄

 

 

淋菌感染症と播種性淋菌感染症

早期発見のためには、淋菌について解説する必要があるため解説します。

 

一般的な淋菌感染症は、潜伏期間は2-5日、最長2週間程度で症状が出現します。

 

ですが、男性の方は症状は出やすいとされていますが、男女ともに生殖器以外の感染の場合は症状が出にくく、また女性では無症状の場合もあります。

 

現在は淋菌・クラミジア同時検査が行えるため、性感染症が疑われる場合は早期診断・治療が必要です。

 

 

淋菌の診断

症状がある部位からの分泌物や初尿を用います。(尿道分泌液、初尿、直腸スワブ、咽頭スワブ、頚管分泌液など)

 

淋菌(生殖器およびそれ以外)の検査には拡散増幅検査(NAATs : Nucleic acid amplification tests)が感度90%以上、特異度98%以上で優れた方法とされています。

※NAATsは核酸増幅検査で、NAATsの中にPCRや等温核酸増幅法(LAMP法、NEAR法)があります。当院の場合はPCR検査です。

 

淋病では、男性では初尿を用いますが尿道スワブでも可とされています。

女性では膣スワブが自己採取も楽で感度が高いです。自分で取るのが難しい場合、子宮頸部内(endocervical)スワブや排尿を最低1時間我慢しての初尿(first catch urine)20-30mlでもよいとされています。

 

淋菌は米国ではとても増えていて、2019年米国で淋病は616,392例発生(188.4例/10万人/年)、2015年から19年にかけて男性で60.6%、女性で43.6%と激増したという報告があります。

 

 

淋菌は男女の咽頭、直腸、眼、尿生殖器に感染し、泌尿生殖器以外の部位に感染した場合では無症候が多いことです。男性での無症候率は55.7%-86.8%と推定されています。

 

そして、女性での感染の86.4%-92.6%が無症候とされています。女性では膣からの分泌、膣掻痒、出血(intermenstrual bleeding)、月経過多(menorrhagia).腹痛や性交疼痛症(dyspareunia)は骨盤内炎症疾患(PID:pelvic inflammatory disease)を示唆します。

 

 

あちこちの関節に痛みがあり、関節リウマチの検査では陰性だったという場合、稀に播種性淋菌感染症の場合があります。

 

痛みが持続する場合や、淋菌による症状が心配な場合はご相談ください。