JAK 阻害薬〈完全ガイド〉作用機序・効果・副作用と最新エビデンスJAK阻害薬

JAK 阻害薬とは?

リウマチ治療は「飲み薬だけで生物学的製剤並みの効果」をめざす時代になりました。その効果をもった薬剤であるJAK 阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブなど)は JAK–STAT 経路を内側から止め、寛解率と効果が出るまでの早さで bDMARD に迫る効果をもつ薬剤です。本ページでは 5 剤の違い・副作用・保険の実際の解説を行います。また、個別薬ページや患者体験談へ案内します。

関節の炎症を和らげる効果については、比較試験が複数出ており、効果に関してはJAK阻害薬は生物学的製剤と同等近い効果が出ると考えて良いと思います。

しかし一方で、生物学的製剤との使い分けや治療の目標や注意点が異なりますので、その特徴に沿った使い分けが必要になります。

全体的な印象としては

・生物学的製剤と同程度に効果がある(○)
・メトトレキサートを併用しない場合にも選択肢になる薬剤である(○)
・効果発現までが早い印象がある(○)
・新薬のため、また薬剤の特徴上、注意する点がある(注意点1)
・将来のバイオフリーに対しては、未知数の印象がある(注意点2)

JAK阻害薬の作用機序を図で理解する

JAK–STAT 経路の基本

JAK-inhibitor

関節リウマチの炎症と症状発現

①炎症サイトカイン(IL-6, IFN-γ など)が受容体に結合
②受容体内側の JAK キナーゼ(JAK1/JAK2/TYK2 など)が自己リン酸化
③STAT タンパクが引き寄せられ、リン酸化 → 核内へ移動
炎症・骨破壊遺伝子を転写 → 関節破壊が進行

この流れの中で、②受容体内側の JAK キナーゼ(JAK1/JAK2/TYK2 など)が自己リン酸化の部分をブロックします。
JAK は「細胞膜の内側スイッチ」。阻害薬はスイッチを切ることで炎症カスケード全体を止めるイメージです。

炎症サイトカインをどう遮断する?

ターゲットJAK主に遮断できるサイトカイン関連疾患
JAK1IL-6, IFN-γ, IL-2リウマチ、乾癬性関節炎
JAK2GM-CSF, EPO巨細胞性動脈炎、貧血
JAK3IL-2, IL-15移植免疫抑制
TYK2IL-12, IL-23乾癬、SLE

国内承認 JAK 阻害薬 5 剤の比較

有効成分商品名推奨用量※1主なターゲット特徴(1 行要約)個別ページ
トファシチニブゼルヤンツ®5 mg ×2 / 日JAK1/3世界初の JAK阻害薬。帯状疱疹リスクはやや高め作成中
バリシチニブオルミエント®2–4 mg / 日JAK1/21 日 1 回腎機能で調節作成中
ウパダシチニブリンヴォック®15 mg / 日JAK1 選択寛解到達が速い。12 mg 錠で UC, AD も適応作成中
フィルゴチニブジセレカ®200 mg / 日JAK1 高選択全 JAK阻害剤の中で帯状疱疹リスクが最も低い報告作成中
ペフィシチニブスマイラフ®150 mg / 日JAK3>1/2日本・韓国のみ承認。腎機能低下例で用量調整作成中
JAK阻害薬一覧

※1:すべて成人関節リウマチの保険適用量。体重・併用薬で調整が必要な場合あり。

JAK阻害薬の効果・有効性は?

MTX 併用 vs 単剤

試験対象DAS28-CRP 寛解率 6 Mコメント
ORAL StrategyMTX naïveJAK阻害薬+MTX 46 % vs 単剤 MTX 24 %トファシチニブ 5 mg×2
J-SELECTMTX 不応ウパダチニブ( リンヴォック®)15 mg 56 % vs アバタセプト 28 %日本人のみ

bDMARD 無効例

  • SELECT COMPARE:TNFi 既失敗例でウパダチニブ( リンヴォック®画像進行抑制率 88 %
  • RA-BEACON:バリシチニブ4 mg(オルミエント®) で DAS28 減少 −2.0(プラセボ −1.0)

効果発現までの時間の速さ

これは、バリシチニブ(商品名オルミエント)の使用時のACR20改善率(少し良くなった)時間です。
1週や2週などの早い段階でACR20改善の患者さんが増えています。

JAK阻害薬の特徴と感じることとして、
体感的に、JAK阻害薬は効果を出るまでが早いなと感じることが多いです。

関節炎を抑える効果は、生物学的製剤と同程度に効果があるという試験が多いです。

JAK阻害薬のデメリットや副作用は?主な副作用とモニタリング

副作用発生率(人年)初期検査継続検査
静脈血栓塞栓症0.3–0.6D-ダイマー・既往歴確認症状出現時のみ
帯状疱疹3–5水痘 IgG毎診察で皮疹チェック
好中球減少1–2CBC2 W → 4 W → 3 M ごと

生物学的製剤と同じように、感染症に注意して使用する必要があります。

生物学的製剤と比較すると、例外的に多かったのが、VZV感染(いわゆる帯状疱疹)

については、JAK阻害薬で出やすいとされています。

そのため、当院では、帯状疱疹の不活化ワクチンである「シングリックス」を受けるよう勧めています。

高齢・合併症別 JAK 阻害薬

2024‒25 EULAR / ACR 勧告 + ORAL Surveillance・MAIC 解析を反映

臨床状況(主リスク因子)推奨例エビデンス/注意点
① 70 歳以上 +既往帯状疱疹 or 帯状疱疹リスク↑(糖尿病・CKD)(ワクチン完了後)IL-6 阻害薬 → アバタセプト →
JAKi
帯状疱疹発症率:JAK阻害剤:3–5/100 PY、IL-6:0.5–1 /100 PY【MAJIK-SFR 2023】
シングリックス®(不活化帯状疱疹ワクチン)×2 回接種後に JAK 開始が推奨【ACR 2023】
② 既往深部静脈血栓症/CAD または ≥65 歳+喫煙+高 LDLTNF 阻害薬/アバタセプト → IL-6 →リスク再評価後JAK阻害剤ORAL Surveillance:65 歳+CV risk で JAKi vs TNFi の MACE HR 1.33, VTE HR 1.98【NEJM 2021】
③ BMI ≥ 30 kg/m²(肥満)・皮下注射へ抵抗感大JAK阻害剤 → IL-6 → TNFiSELECT-COMPARE サブ解析:BMI > 30 でウパダシチニブ寛解率 57 % vs アダリムマブ 45 %【ARD 2022】
皮下注製剤は脂肪組織で吸収↓報告。内服 JAK阻害剤なら同問題なし。
④ 関節リウマチ関連 ILD(RA-ILD)合併アバタセプト/IL-6 → TNFi or JAKi(症例ベース)JAK阻害剤の ILD 増悪報告なし/アバタセプトは安定化データ◎【CONNECT Registry 2024】
妊娠希望(女性)/生殖年齢男性で家族計画中 TNFi(セルトリズマブ)→ IL-6動物実験で JAKi 催奇形性妊娠 1 M 前に休薬

読み方ガイド

  • IL-6 阻害薬:トシリズマブ/サリルマブTNF:アダリムマブ等
  • JAKi 開始前に 帯状疱疹ワクチン・肺炎球菌・インフルエンザワクチンを検討。

根拠サマリー(超短文)

  1. 帯状疱疹:JAKi>IL-6>TNFi≒アバタ(日本リアルワールド n = 4,800)。
  2. VTE/MACE:ORAL Surveillance(age ≥ 50 +CV risk)でシグナル↑;HR 低下策は体重/BMI/LDL 改善が有効。
  3. 肥満:皮下製剤は薬物動態↓・注射困難、ウパダシチニブの OR 1.5(寛解率)優越。

JAK 阻害薬はいつから保険適用?

2013 年トファシチニブが初承認、現在は 5 剤が保険収載。現在のガイドラインではファーストラインでの掲載もあるが、セカンドライン適用(他 DMARD 不応)で使用されることが多いです。

血栓リスクはどのぐらい?

1,000 人年あたり 0.3〜0.6 件。65 歳以上・喫煙・肥満・長期安静が重なると 2 倍以上。予防的アスピリンは現在推奨されていない。

妊娠希望の場合は?

動物実験で催奇形性、妊娠前 1 か月で休薬推奨。他の薬剤への変更も考慮が必要です。

MTX 無効→JAK阻害剤と TNF阻害薬どちらが先?

一概には言えませんが、抗体や全身状態やメトトレキサート継続ができそうかで総合的に判断します。単剤で効果があるJAK阻害剤やIL-6阻害剤は炎症が優位なタイプに効果が高いです。

参考文献一覧

#著者(最初の 3 名)論文タイトル雑誌・巻(号)・頁リンク
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2Yamanaka H, Tanaka Y, Takeuchi TUpadacitinib monotherapy versus MTX in Japanese MTX‐naïve RA (J‐SELECT)Mod Rheumatol 31(4): 726–7362021https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33615833/
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