関節リウマチ治療におけるドラッグフリー寛解の達成率と予測因子|

『いつか、薬を辞められるか』。これは、関節リウマチ患者さんの多くが本当は希望している状態だと思われます。

当院でも、可能な限りこの状態を目指していきたいと考えています。

このページでは、実際にドラッグフリー寛解について、現時点でわかっていることを解説します。

目次

早期関節リウマチ(発症早期)でのドラッグフリー寛解

初期治療により寛解に至った早期RA患者の一部では、治療薬を中止しても寛解を維持できる「ドラッグフリー寛解(薬剤なしでの寛解維持)」に到達します。

ただしその割合は決して高くありません。

たとえば、オランダのLeiden早期関節炎コホートでは約15%の患者がDMARDを中止しても持続的寛解を達成し、一方イギリスのERASコホートでは約9%に留まりました(1)。

同様に、近年の分析でも**早期RA患者全体の約20%**が最終的にDMARDフリー寛解に到達し得ると報告されています(4)。オランダのBeSt試験(発症2年以内のRAを4つの治療戦略で治療)では、寛解状態が6か月持続した患者でDMARDを中止する戦略を取り、**4年時点で13%が薬剤中止後も寛解を維持しました(1)。

5年時点では全体で14%が薬剤フリー寛解に達し、特に開始時からインフリキシマブ併用療法を受けた群では19%**と最も高い割合でした(3)。

これらの結果から、早期からの厳格な治療戦略により一部患者で薬剤中止が可能になるものの、大多数では薬物療法の継続が必要です。実際、約80〜90%の早期RA患者は薬剤中止すると再燃するため(1)(4)、2022年のEULAR勧告でも再発リスクの観点から安易なDMARD完全中止は推奨されていません(4)。

生物学的製剤で寛解中の患者における治療中止

生物学的製剤(bDMARD)によって寛解を達成している患者において、これらの薬剤を中止できれば副作用リスクや経済的負担の軽減につながります。

しかし、重症例であるほど薬剤中止後の寛解維持は難しく、成功率は限られます。TNF阻害剤については、寛解維持下で中止した場合でも約半数の患者は1年後も寛解または低疾患活動性を維持できるとの報告がありますが(9)、裏を返せば残り半数は1年以内にリウマチの再燃を経験します。

例えばインフリキシマブ中止試験(RRRスタディ)では約44%の患者が1年間再燃なく低疾患活動性を維持できた一方で、中止群の56%で病勢悪化がみられたと報告されています(9)。

さらに、生物学的製剤と従来型DMARDの両方を中止する真のドラッグフリーとなると成功率はより低下します。インターロイキン6受容体阻害剤(トシリズマブ)の寛解患者を対象としたACT-RAY試験では、寛解維持下でトシリズマブを中止できた患者は約50%いましたが、その後メトトレキサートも含め全ての抗リウマチ薬を中止して半年以上寛解を維持できた患者はわずか5.9%に留まりました(8)。中止後に84%の患者が再燃しましたが、多くは再度トシリズマブを再開することで改善し、X線進行も最小限に抑えられています(8)。

またT細胞共刺激阻害薬(アバタセプト)についてのAVERT試験では、寛解導入後に全治療を中断し6か月寛解を維持できた割合は、アバタセプト+MTX併用群で14.8%、MTX単独群で7.8%と報告されています(7)。

バイオフリーについて

以上より、生物学的製剤で寛解中の患者では治療中止後の再発(リラプス)率が高く、慎重な判断と経過観察が必要です。

寛解導入療法後の薬剤中止(インダクション後の維持)

発症早期の患者に対し寛解導入療法(集中的治療)を行った後、維持療法を省略して完全に薬剤中止を試みる戦略も検討されています。早期RAに対するPRIZE試験では、まず50mgエタネルセプト+MTX併用で52週間治療し寛解導入後、その後39週間かけて減量群(25mgエタネルセプト+MTXまたはMTX単独)とプラセボ群(全て中止)に無作為化しました。最終的に治療中止後約1年(寛解導入開始から計117週)時点で、当初より完全中止した群の22%が寛解を維持し、段階的減量群では維持率が30〜42%と高くなりました(6)。この結果は徐々に減量した方が薬剤中止後の寛解維持率が高まる可能性を示唆します(6)。

一方、超早期RAに対するEMPIRE試験では発症3か月以内の患者にエタネルセプト+MTX併用またはMTX単独で寛解導入を図りましたが、最終的に両群とも薬剤中止後に持続寛解に至った患者は約3.6%と極めて少数で、生物学的製剤併用による上乗せ効果は認められませんでした(5)。以上のように、寛解導入後の薬剤中止試験では概ね薬剤フリー寛解達成率は20%前後であり、大部分(約80%)の患者は治療中止により再燃してしまうのが現状です。寛解導入療法後の中止成功例の検討では、より寛解が深い(DAS28やMRIや関節リウマチ超音波で無症状に近い)こと寛解期間が長いことが再燃リスク低減に関連するとの解析もあります(6)。

実際、AVERTやPRIZEのデータではベースラインの疾患活動性が低く寛解までの期間が短い患者ほど薬剤中止後の寛解維持率が高い傾向が示されています(7)。

ドラッグフリー寛解の予測因子

複数の研究から、薬剤中止後も寛解を維持できる患者の特徴が明らかになっています。共通して報告される良好な予測因子には、発症から寛解までの期間が短い(早期治療介入)ことや自己抗体陰性であることが挙げられます(2)(3)。具体的には抗CCP抗体陰性やリウマトイド因子陰性の患者では、薬剤を中止しても疾患が再燃しにくい傾向があります(2)。

またX線上の関節破壊が軽微で機能障害(HAQスコア)が低いこと、男性であること、喫煙習慣がないことなども薬剤フリー寛解の独立予測因子として報告されています(2)(3)。

さらに、治療開始時の疾患活動性(例えばDAS28スコア)が低いほど寛解後の維持率が高いことも示されています(3)(7)。

一方、生物学的製剤治療下の寛解患者における中止成功例では、超音波検査で滑膜炎の残存がないことやIL-6など炎症マーカーの低値が再発しにくい群で認められるなど、残存炎症の少なさが鍵となります。

総じて、早期かつ軽症で自己抗体陰性の患者ほどドラッグフリー寛解に到達しやすい一方で、そうでない患者では再発リスクが高く長期的な薬物療法管理が必要となります。


参考文献:

  1. van der Kooij SM et al. Ann Rheum Dis. 2009;68(6):914-921. 4年間の厳格治療により13%が治療薬なしで寛解維持達成。
  2. van der Woude D et al. Arthritis Rheum. 2009;60(8):2262-2271. 早期RAコホートにおける持続的DMARD中止寛解の頻度(15%/9%)と予測因子(抗CCP陰性、短症状期間など)。
  3. Klarenbeek NB et al. Ann Rheum Dis. 2011;70(6):1039-1046. BeSt試験5年フォロー:寛解導入戦略間での薬剤フリー寛解率比較(全体14%、生物併用群19%)。
  4. Heutz JW et al. Lancet Rheumatol. 2025;7(4):e252-e260. 2つの早期RAコホート解析:約20%がDMARDフリー寛解達成可能だが、生物製剤を要した群では達成率低く、EULAR推奨では再燃リスクから完全中止は推奨されず。
  5. Nam JL et al. Ann Rheum Dis. 2014;73(6):1027-1036. EMPIRE試験:発症超早期RAへのエタネルセプト併用療法で寛解誘導するも、78週時点の薬剤フリー寛解率は両群3.6%と差異なし。
  6. Emery P et al. Arthritis Rheum. 2013;65(10):S665. PRIZE試験:エタネルセプト+MTXで寛解導入後の段階的中止により最終的に最大42%が寛解維持、一方で即時中止群では22%に留まる結果。
  7. Emery P et al. Ann Rheum Dis. 2015;74(1):19-26. AVERT試験:早期かつACPA陽性RAにおいて、アバタセプト+MTX群の14.8%が治療中止6か月後も寛解維持(MTX群7.8%)、低疾患活動・低HAQの患者で成功率高い。
  8. Huizinga TW et al. Ann Rheum Dis. 2015;74(1):35-43. ACT-RAY試験:トシリズマブ+MTX治療で寛解を達成した患者の50%がトシリズマブ中止可能であったが、最終的な薬剤フリー寛解達成率は5.9%にとどまる(中止患者の84%が再燃) 。
  9. Tanaka Y et al. Ann Rheum Dis. 2010;69(7):1286-1291. RRR試験:インフリキシマブにより低疾患活動性となったRA患者での投与中止試験において、約半数が1年間再燃なく維持する一方、残り半数で再燃を認めた。
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