乾癬性関節炎（かんせんせいかんせつえん、Psoriatic Arthritis: PsA）は、皮膚の病気「乾癬」に関連して起こる関節の炎症性疾患です。わかりやすく言うと、乾癬の皮膚症状に加えて関節が腫れたり痛んだりする状態です。かつての見解では日本人には少ないとされていましたが、最近の研究では日本人でも乾癬患者さんの約10～15％がこの関節炎を発症するとされ、30～50代で多くみられます
主な症状は、指先や膝などの関節の痛み・腫れ、朝のこわばりなどで、乾癬の赤い発疹や銀白色のフケ状の鱗屑（りんせつ）が皮膚に現れることも特徴です。
参考画像：乾癬性関節炎の患者さんの手。指がソーセージのように腫れる「指趾炎（ダクチリティス）」や爪の変色・変形が見られます。乾癬性関節炎ではこのように皮膚症状（爪の変化や発疹）と関節症状（指の腫れ）が同時に起こることがあります。指先だけでなく、膝や肘、足首などにも関節炎が生じることがあります。痛みや腫れの程度は人によって様々ですが、慢性的に続くことが多いです。
乾癬性関節炎の症状に男女差はあるの？
乾癬性関節炎は男女どちらにも起こりますが、近年の研究で男性と女性とでは症状の出方に違いがあることがわかってきました。女性患者の方が手や足など複数の関節に症状が出る「多関節炎」になりやすく、男性患者は背骨や仙腸関節など背中まわりの関節炎（いわゆる脊椎炎）を起こしやすい傾向があります
また感じる症状の重さにも差があり、女性の方が痛みや疲労感が強く、日常生活への支障が大きいと報告されています。例えば女性患者は男性患者より「関節が痛くて家事や仕事がつらい」「疲れやすい」と感じる割合が高い傾向があるのです
一方で男性患者は背中のこわばりなどが目立つケースが多いです。このように、同じ乾癬性関節炎でも男女で症状の現れ方や辛さの感じ方に違いがあることがわかります。
治療効果にも男女差があるのか？
治療についても、男女差が見られる可能性がある報告もあります。乾癬性関節炎の主な治療法の一つに生物学的製剤（いわゆる「バイオ医薬品」）があります。中でも抗TNFα薬（TNF阻害薬）は、活動性の高いPsAに対する第一選択肢として使われることが多いお薬です
ところが、ある研究ではTNF阻害薬の効果が男性の方が高く、女性では効果が出にくい傾向が示されました。簡単に言えば、同じTNF阻害薬を使っても女性患者の方が症状が十分に改善しにくい可能性があります。
もちろん個人差がありますが、もし標準的な治療で効果が不十分な場合（特に女性の場合）、別の薬効の生物訳的製剤（例えばIL-17やIL-23を標的とする生物学的製剤など）に切り替えるなど対策をとるなどで対処していく必要があります。
大切なのは、患者さん一人ひとりに合った治療法を根気強く見つけていくことです。男女の違いを踏まえて、最適なアプローチを検討していく必要があります。
今後の研究と治療の展望
男女で症状や治療反応が異なる原因はまだ十分に解明されていません。ホルモンバランスの違い、免疫反応の差、遺伝的な要因、さらには女性に多い線維筋痛症などの合併症の影響など、様々な仮説がありますが決定的な答えは出ていないのが現状です。このため、今後さらなる研究によって「なぜ男女差が生まれるのか」を探っていくことが重要です。男女差をしっかり理解できれば、それぞれに合わせたオーダーメイドの治療法を選択したり、新しい治療薬の開発につなげたりできるかもしれません
症状や治療の感じ方には個人差も大きいですが、自分の状態に合ったケアを受けられるよう、気になることは遠慮せず相談してみてください。専門医として、最新の知見も踏まえて、あなたにベストな治療を一緒に考えていきます。
LANCET RHEUMATOLOGY-Sex-related differences in psoriatic arthritisより