全身性強皮症(全身性硬化症)の各抗体毎の癌の割合を知ることで、全身性強皮症(SSc)患者で、どれくらい癌検索の重みづけをするべきか考えてみる朝活です。
Annals of rheumatic disease(Impact Factor: 12.811) 2018の、Autoantibodies and scleroderma phenotype define subgroups at high-risk and low-risk for cancerを中心としています。
http://ard.bmj.com/content/early/2018/04/20/annrheumdis-2018-212999
全身性硬化症の抗体毎で癌に差があるか?
今回のClinical Question(臨床上の疑問)は、
全身性強皮症で癌は増えるのか?
全身性強皮症の抗体毎で差があるか?
です。この疑問の背景としては、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体のように、癌の合併頻度が高い抗体が知られてきているため、どの自己抗体が出ているか毎に、癌のスクリーニングの重みづけを自分たちで考えることで、より早期に癌の合併を見つけられるかもしれないこと、過剰検査で患者さんの負担がかからないようにできればな、という考えです。
結論(今回の論文の結論)としては、一般人口と比べ
RNAポリメラーゼⅢでは癌が多い
全身性強皮症全体だと、統計的優位差はないがやや多い
抗セントロメア抗体だと、やや少ない
抗Scl-70抗体だと、ほぼ同じくらい
上記の抗体が陰性の全身性強皮症だと、やや多い
でした。
研究の方法(Method)
Johns Hopkins Scleroderma Center for their first visit between 1 January 2000 and 31 December 2015
Johns Hopkinsの強皮症センターで、2000年1月1日から2015年12月31日までの初診患者で、強皮症の診断は1980年のACRクライテリアまたは2013年のACRクライテリアを満たす例を対象にしています。
その数2383人!。臨床情報や、血清検査を、初診時から半年おきにレビューし、解析しています。
これらの患者さんを
①抗セントロメア抗体
②抗antitopoisomerase-1抗体(抗SCL-70抗体)
③抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
④ほかの抗体または陰性(①②③以外)
の4種類に分け、解説しています。
Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) registry, a nationally representative sample of the US population. Cancer)と比較し、SIR(standardised incidence ratios):つまり一般人口と比較して、どれくらいなりやすいかを調べています。
全身性強皮症の抗体の重複は少な目
ちなみに、この論文で興味深かったのは、抗体が2つ以上の陽性例は2383人中34人という点です。
14 patients were positive for both anticenp and antipol, 6 for anticenp and antitopo and 14 for antipol and antitopo.
※ちなみに、データがない症例に関しての解析は、③のそのほかの抗体群からは除外して、全身性強皮症症全体に入れています
全身性強皮症の自己抗体と癌の関連
このように綺麗なグラフが印象的でした。
抗セントロメア抗体陽性患者では、青色のようにやや少なく、
抗Scl-70(3つ目)では、おおむね変わらず、
抗ポリメラーゼⅢ抗体(4つ目)では有意に増加し、
3つとも陰性の場合は、やや増加しています。
臨床像も合わせると、
全体としては、Limited SScだと少な目
抗セントロメア抗体+Limited SScは有意に少ない
抗RNAポリメラーゼⅢ抗体+Diffuse SScは有意に多い
発症±3年の期間では、RNAポリメラーゼⅢ+Dissuse SScはさらに多い
3種の抗体陰性SScはLimitedでも多い
となりました。
First, while patients with scleroderma did not have an increased overall risk of cancer compared with the general population, antipol-positive patients with diffuse scleroderma and CTP-negative patients with limited scleroderma are at increased risk for cancer at scleroderma onset.
全体としては、SScで癌が増えるわけではない。抗RNAポリメラーゼⅢ抗体と抗体陰性+Limitedの場合は増える
Second, scleroderma patients with antipol antibodies may have increased risk of different types of cancers depending on whether they have limited or diffuse
抗RNAポリメラーゼⅢ抗体は、いろいろな癌腫で発症のリスクになる。乳癌や肺癌でも増えていることがグラフ付で記載されているので、そちらも参考になります。
Third, patients with anticenp antibodies may have a decreased risk of cancer.
抗セントロメア抗体では、むしろ少なくなる傾向
なぜ自己抗体陰性の全身性強皮症で悪性腫瘍が多いのかーanti-RNPC3 Antibodyー
この論文では、
①抗セントロメア抗体
②抗antitopoisomerase-1抗体(抗SCL-70抗体)
③抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
④ほかの抗体または陰性(①②③以外)
と分けて、④の抗体陰性群では癌が多い傾向にありました。
その原因として、anti-RNPC3 Antibodyについて本文で言及がありましたので、少し調べてみました。ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY Vol. 69, No. 6, June 2017, pp 1306–1312のAnti–RNPC‐3 Antibodies As a Marker of Cancer‐Associated Sclerodermaでは、抗セントロメア抗体に比べてOR 4.3でcancer riskが高い(anti-polymerase Ⅲと同程度のリスク)の抗体として知られていました。
現時点(2018年5月時点)では、anti-RNPC3 抗体は保険で測定できない抗体です。では、どのような時に疑うべきでしょうか。anti-RNPC3抗体が原因の場合は、他の3つの抗体(抗セントロメア抗体、抗Scl-70抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体)は陰性です。つまり、3つの抗体が陰性の全身性強皮症の場合に、この抗体の可能性を一考する必要があります。
anti-RNPC3 Antibody皮膚の分布としては、Limitedが75%、Diffuseが25%で、Limited SScが多いです。(Limitedなので、肘膝より下の硬化の分布の全身性硬化症の場合が多い)ただし、肺病変の合併が88%(Nが少ないが割合は多め)でした。筋障害の合併も4割ほどと他の抗体(10%前後)よりも多かったです。
そして、臨床上もう一つ重要な点が抗核抗体のパターンで、
Although anti–RNPC-3 autoantibodies are not commercially available for clinical use, indirect immunofluorescence patterns on ANA testing may provide insights into autoantibody associations in CTP-negativepatients who might have this specificity. Of the 12 anti–RNPC-3–positive patients, 11 had available data on ANA patterns. Nine (81.8%) of the 11 patients had a speckled ANA pattern
In a recent study of 16 CTP-negative scleroderma patients with coincident cancer, 25% of the patients were found to have autoantibodies to RNPC-3, a member of the minor spliceosome complex
とあるように、抗核抗体陽性、ほかの抗体陰性で、Speckled パターンの抗核抗体陽性で要注意です。
抗核抗体Speckledで、皮膚はLimited(肘膝より遠位)、肺病変や筋病変合併例は、癌の多い抗体であるanti-RNPC-3抗体の場合を考慮する
と言えそうです。そういう時は癌のスクリーニングを健常者よりもより意識したほうが良いかもしれません。
まとめ
抗RNAポリメラーゼⅢ抗体は癌が増える
抗Scl-70抗体はそれほど変わらない
抗セントロメア抗体は、癌の合併がやや少ない(ほかの報告ではやや増える報告もある)
抗体のパターンに関わらず、Diffuseの方が、癌が全体に増える傾向
抗体陰性のLimitedの場合も増える傾向(特にSpeckled patternの場合は抗RNPC3抗体かもなので、注意を要し、肺や筋症状の合併も併せて評価する)
というのが、今回の論文の主旨でした。
全身性強皮症患者さんの癌スクリーニングの考え方の一つとして、当科の朝活をシェアさせていただきました。