電子タバコと関節リウマチのリスク

関節リウマチの患者様は、禁煙が大事です。しかし、電子タバコの場合はどうなのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

このページでは、現時点での関節リウマチに対する電子タバコの影響について解説します。

目次

電子タバコは、関節リウマチの発病を増やすリスクあり

電子タバコと関節リウマチ

電子タバコ(電子煙草、いわゆるVape)はニコチンを含む液体を加熱しエアロゾル(蒸気)として吸入する製品で、紙タバコに比べ有害物質が少ない「より安全な」ニコチン摂取法として普及してきています。

しかし、RAとの関連については近年になってようやくデータが出始めた段階であり、安全であるとは断言できません。

2022年に発表されたアメリカ合衆国の大規模横断研究(2016–2018年の行動リスク因子サーベイランス)では、現在電子タバコを使用している人は、全く使用したことがない人に比べて関節炎(RAを主とする炎症性関節炎)を有するオッズが有意に高いことが示されました。

E-Cigarette Usage and Arthritis in the United States, a Nationwide Cross-Sectional Survey

電子タバコ使用者の関節炎有病オッズ比(OR)は約1.8と推定されました。

紙タバコは吸わず電子タバコのみを使用している層でもオッズ比約1.3、一方で紙タバコとの二重使用者ではオッズ比約1.5と、それぞれ非喫煙者に比べ関節リウマチのリスクが増加しており、電子タバコでもリウマチのリスクとなる関連が認められています。このように、今のデータでは電子タバコ使用それ自体が関節リウマチなど炎症性関節炎のリスク因子となりうることが示唆されています。

電子タバコがRA発症リスクを高めるメカニズムは明確には分かっていませんが、いくつか考えられる点があります。まず、電子タバコの蒸気にも微細粒子や各種の化学物質が含まれており、完全に無害ではありません​。

研究によれば、電子タバコのエアロゾルには、タバコ煙に比べれば低濃度ながらもホルムアルデヒド、アクロレイン、トルエンなどの毒性物質が検出されます。これらは気道や肺に炎症反応を引き起こし、結果として関節滑膜への免疫学的影響(自己免疫反応の誘発)を及ぼす可能性があります。

また、電子タバコでもニコチンを摂取する点は共通であり、ニコチン自体が免疫系に与える作用(例:好中球の活性化やサイトカイン産生への影響)はRAの発症や進展に何らかの関与をする可能性があります。

もっとも、電子タバコとRAの因果関係については縦断研究が不足しており、現時点では「関連がある」という統計学的示唆にとどまります。しかし「紙タバコを電子タバコに置き換えればRAリスクが解消する」と考えるのは早計であり、むしろ電子タバコも紙タバコと同様にRA発症の潜在的危険因子になり得るとのエビデンスが出始めている状況です。

電子タバコと関節リウマチ

関節リウマチ治療における電子タバコの影響と、安全性へのリスク

既に関節リウマチを発症している患者において、電子タバコの使用が疾患経過に与える影響についての直接的な研究はまだ十分ではありません。

しかし、上述のように電子タバコもニコチンおよび種々の化学物質を含むことから、喫煙が及ぼす悪影響(炎症悪化、免疫反応の変調、治療反応性の低下など)が完全に起きないとは言い切れません。

電子タバコが紙タバコより有害性が低いとしても、「安全な代替」とみなすことには慎重になるべきです。特に関節リウマチ患者さんでは、電子タバコであっても使用を続けることは推奨されません。

電子タバコは確かにタールや一部の発がん物質を含まないため紙タバコより有害物質暴露は少なくなります。しかし前述の通り、蒸気中に含まれるホルムアルデヒドやアクロレインは肺や血管の炎症反応を引き起こし得ます。

これは関節リウマチの病態で重要な肺や粘膜の免疫反応(例えば蛋白のシトルリン化誘導や自己抗体産生)に影響する可能性があります。またニコチンの持つ血管収縮作用や交感神経刺激作用は心血管系リスクを高め、RA患者に多い動脈硬化の進行に寄与し得ます。さらに、電子タバコ使用に伴う急性の肺障害(EVALI: 電子タバコ関連肺障害)が若年者で報告されていますが、免疫抑制療法中のRA患者が同様の肺障害を起こした場合、重症化する恐れがあります。

現時点で電子タバコへの切り替えがRAの疾患活動性を改善したり予後を向上させたりするというエビデンスは存在しません。それどころか、紙タバコ・電子タバコいずれの形態であってもニコチン曝露自体を断つことがRA患者の健康には重要です。実際、前述の研究では禁煙により将来的なRA発症リスクが時間とともに低減しうること、またRA患者においても禁煙者は喫煙者に比べ疾患活動性や心血管リスクの指標が改善する傾向が示されています。

喫煙と関節リウマチ

できれば、「紙タバコよりマシ」という理由で電子タバコを続けるのではなく、可能な限り早期に完全な禁煙(Vapeも含めたニコチン依存からの離脱)を目指すことが推奨されます。

医療従事者は電子タバコも含めた喫煙のリスクについて患者に教育し、ニコチンパッチ等の代替療法や禁煙プログラムへの参加など、禁煙達成のための支援を提供することが望まれます。

まとめ、関節リウマチ患者さんでは電子タバコよりも禁煙が推奨されます

紙巻きタバコの喫煙は関節リウマチ発症リスクを確実に高める環境因子であり、特に抗CCP抗体陽性のRAについてその影響が顕著です。長年の喫煙によるリスクは禁煙によって徐々に低下しますが、完全に非喫煙者と同等になるまでには数十年を要し、禁煙後30年経過してもなお若干のリスク上昇が残存することが報告されています。また、喫煙はRAの病勢を悪化させ、治療効果を減弱させる傾向があり、心肺を中心とした合併症リスクも増大させます。​

一方、電子タバコに関しても、現在得られているエビデンスからは関節リウマチに対して安全な代替品とみなすべきではありません。初期の研究で電子タバコ使用と関節リウマチリスク上昇との関連が示唆されており、含有する化学物質による長期影響も不明です。

総合的に、RAの予防と管理の観点からは紙タバコ・電子タバコのいずれも避けることが最善であり、喫煙者は禁煙することが望まれます。禁煙により将来的なRA発症リスクの低減や疾患コントロールの改善が期待できるため、医療現場でも積極的な禁煙支援策を講じる必要があります。

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