メトトレキサートの脱毛がどうしても気になる場合の対処方法まとめ

目次

1. メトトレキサート(MTX)の脱毛について

メトトレキサートの治療に伴い、時々脱毛が出現される患者様がいらっしゃいます。

そういった方で、脱毛が悩みである方や、対処したいという方向けの方法を解説します。

悩みの重さは人それぞれあると思います。対処方法もあります。そのため、気になっている方はご相談ください。

1-1. 脱毛は起こりうるのか、メカニズム

  • MTXの作用
    MTXはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)やチミジル酸合成酵素などを阻害することで、細胞増殖に必要な核酸合成を抑制します。その結果、免疫調節作用を発揮し、関節リウマチの炎症や破壊を抑える効果があります。
  • 脱毛の原因
    同じく細胞増殖の盛んな毛母細胞のDNA合成や細胞分裂も抑制されるため、脱毛毛髪の細さ・コシの弱まりなどが副作用として起こり得ます。
    また葉酸の減少が関係し、ホモシステインなどの蓄積による毛母細胞への障害も一因と考えられています。

1-2. 発生頻度・リスク要因

  • 一般的には軽度の脱毛が多く、完全な脱毛に至るケースは稀です。ただし、用量依存的に副作用が強くなる傾向があります。メトトレキサートの量が多いほど、脱毛の頻度が増えます。
  • 週16mgのような中~高用量では、脱毛のリスクが上がりやすいとされています。
  • 脱毛の報告頻度は一般的には1~10%程度とされることが多いです。
  • 抗がん剤として用いる高用量のMTX(白血病やリンパ腫などでの投与)では脱毛頻度が増えますが、関節リウマチでの低用量ではそこまで頻度は高くありません。
  • 葉酸(フォリアミン)を併用していない場合などでは、頻度が増えることがあります。

1-3. メトトレキサートの脱毛への対処法

  1. 葉酸または葉酸誘導体(フォリアミン/ロイコボリン)併用
    • MTX服用後24~48時間後に葉酸を内服することで、副作用(口内炎や肝障害、脱毛など)が軽減されることがあります。フォリアミンの量調整で改善する方もいます。
  2. 投与量の調整
    • MTX投与量を減量することで脱毛を軽減できることも多いです。ただし、現状量がリウマチにとって必要な量の場合もあるため、関節炎に対して今の量で効果が得られている場合は医師と相談が必要です。
  3. 治療薬の置き換え
    • MTXによる副作用が強い場合や無効例では、タクロリムスやバイオ製剤(JAK阻害薬、IL-6阻害薬等)に切り替える選択肢があります。

これらの方法で改善しない場合は、どうしても脱毛が嫌だという場合は、他の薬への置き換えなどの方法もあります。
※リウマチの病勢や状態によって異なりますが、メトトレキサートを使用しない治療方法として悪化しない場合で解説します。メトトレキサートは関節リウマチにとってアンカードラッグ(鍵となる薬)ですが、使用できない場合でも治療方法はあります。


2. タクロリムスやバイオ製剤(JAK/IL-6阻害薬)への置き換え

2-1. タクロリムス(プログラフなど)

  • 作用機序: カルシニューリン阻害薬として、T細胞の活性化を抑え、炎症を抑制する。
  • 特徴
    • MTXが使えない・使いにくい場合の第2選択的な位置づけとして使用されることがある。
    • 腎機能に注意が必要(腎障害や高K血症などの副作用)。
    • 抗リウマチ作用はやや穏やかで、MTXほどの国際的なスタンダードではないものの、日本では比較的長く使用実績がある。ほぼ同等程度と評価されている。
  • 単剤使用: 可能。MTXを併用せずに用いることも多い。
  • メリット: 脱毛リスク自体はMTXよりも低いとされる。
  • デメリット: 効果発現や効果持続の点で、バイオ製剤やJAK阻害薬に比べやや劣るとする報告もある(その分バイオ製剤よりは安い)。

2-2. JAK阻害薬

代表例:トファシチニブ(ゼルヤンツ)、バリシチニブ(オルミエント)、ペフィシチニブ(スマイラフ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、フィルゴチニブ(ジセレカ)など

  • 作用機序: 細胞内シグナル伝達経路のうち、Janus kinase (JAK)を阻害することでサイトカインシグナルを遮断し、炎症を抑える。
  • 特徴
    • 経口製剤であることが多く、注射が不要という利点がある。
    • 単剤使用でも有効性が高いとされている(MTX併用で効果増強が見られるケースもあるが、MTX必須ではない)。
    • メトトレキサートよりも治療効果は高い(その分薬価も高い)
    • 効果発現が比較的速い(2~4週程度で効果を感じることが多い)。
    • 安全性面では、感染症リスク(ヘルペス、帯状疱疹など)、血栓症リスクなどに注意が必要。

2-3. IL-6阻害薬

代表例:トシリズマブ(アクテムラ)、サリルマブ(ケブザラ)

  • 作用機序: 炎症性サイトカインであるIL-6の作用を阻害する。
  • 特徴
    • MTX併用が困難な患者にも単剤で有効というエビデンスがある。
    • 関節破壊の進行抑制効果も示されている。
    • 注射製剤(点滴静注または皮下注)であるため、通院頻度や自己注射のリテラシーなどを考慮する必要がある。
    • 感染症リスクや消化管穿孔リスクなどに注意。

3. 薬価と治療効果の両面からの比較

以下に、参考となる主な薬剤の薬価(おおよそ月額換算)特徴を一覧にまとめます。
※薬剤費は2025年前後の概算イメージであり、実際の薬価や改定により変動します。また、用量は標準的な例であり個人差があります。

自己負担割合を最後に掛け算してください

薬剤名作用機序用量例*1薬価目安2(円/1か月)
(自己負担割合での調整前)
MTX併用の要否特徴・備考
メトトレキサート(リウマトレックス等)免疫調節(抗葉酸)6~8mg/週程度(最大16mg/週まで)3,000~5,000円併用の標準コストが安く、RAの第一選択薬。ただし脱毛などの副作用も発現しうる
タクロリムス(プログラフ等)カルシニューリン阻害1~3mg/日8,000~15,000円単剤使用も可日本での使用実績が長い。腎機能・血中濃度管理が必要
トファシチニブ(ゼルヤンツ)JAK阻害 (JAK1/3)5mg×2回/日 (または11mg 1日1回製剤)150,000~180,000円単剤でも高い効果経口JAK阻害薬の代表例。帯状疱疹リスクや血栓など注意
バリシチニブ(オルミエント)JAK阻害 (JAK1/2)2mg~4mg/日100,000~180,000円単剤でも高い効果腎機能低下時に用量調整が必要。アトピー性皮膚炎などへの適用もある
ウパダシチニブ(リンヴォック)JAK阻害 (JAK1選択)15mg/日 (症状に応じ30mg/日)180,000~220,000円単剤でも高い効果比較的新しいJAK阻害薬。選択性が高いが重症例では感染リスクに注意
フィルゴチニブ(ジセレカ)JAK阻害 (JAK1選択)100~200mg/日120,000~180,000円単剤でも高い効果最近登場のJAK阻害薬。腎機能・性機能等への影響が注目されている
トシリズマブ(アクテムラ)IL-6阻害皮下注 162mg 2週に1回 or 点滴4週毎100,000~180,000円程度単剤でも高い効果IL-6を強力に阻害。CRPや炎症マーカーが速やかに低下。自己注射または点滴通院
サリルマブ(ケブザラ)IL-6阻害150~200mg 2週に1回皮下注100,000~160,000円程度単剤でも高い効果トシリズマブ同様にIL-6阻害。注射間隔が2週ごと

*1:用量はあくまで標準的な例であり、患者ごとに調整されます。
*2:薬価(概算)は、処方量や薬価改定、製剤ごとの差異、自己負担割合によって実際とは異なる場合があります。


4. まとめ:脱毛対策と治療薬選択

  1. MTXによる脱毛への基本的対処
    • 葉酸・ロイコボリン併用
    • MTX減量
    • その他の脱毛ケア(シャンプー選びや育毛剤など生活面での配慮)
  2. MTXからの切り替えを検討すべき状況
    • 脱毛などの副作用が強く、QOLに影響が大きい場合
    • 肝障害、腎機能障害などでMTX継続が困難な場合
    • MTXで十分な治療効果が得られない場合
  3. タクロリムスへの置き換え
    • 比較的低コスト~中コストで、脱毛リスクはMTXよりも少ない
    • 腎機能や血中濃度のモニタリングが重要
    • 効果は穏やかとも言われるが、日本の臨床現場では一定の使用実績
  4. JAK阻害薬への置き換え
    • 単剤使用可能で効果が高い。錠剤で内服しやすい
    • 薬価は高額であり、重篤な感染症リスクへの注意が必要
    • MTXに劣らないか、あるいはそれ以上の効果を示すことが多い
  5. IL-6阻害薬への置き換え
    • 単剤でも効果が高く、炎症マーカーを速やかに低下させる
    • 注射製剤なので通院や自己注射が必要
    • 感染症リスクや注射製剤特有の副作用に留意

最後に

  • 脱毛対策はまずはMTXの投与方法(葉酸併用・減量)の工夫で軽減が図れるケースがありますが、効果が不十分な場合や重篤な副作用が続く場合は、他のDMARDsやバイオ製剤、JAK阻害薬への切り替えを検討する方法があります。
  • 薬価の面では、MTXが圧倒的に安価ですが、効果や安全性、副作用の問題で使いづらい場合には、タクロリムスやJAK阻害薬、IL-6阻害薬を含めた選択肢があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
  • 治療方針の決定には、患者さんの病状や合併症の有無、感染症リスク、経済的負担などを総合的に考慮して、リウマチ専門医と十分に相談することが重要です。
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