メトトレキサート(MTX)とリンパ増殖性疾患(LPD)― 患者さんが知っておきたい“もしも”の話 ―
▼この記事のポイント(2分で概要)
- LPD は稀な副作用:RA 患者さん 1,000 人あたり 0.7 人程度。
- 66〜70%は MTX を止めれば自然に小さくなる。
- DLBCL と CHL で対応が変わる:CHL は再発率が高く慎重なフォローが必要。
- 再発予防には「早期発見+主治医との情報共有」 が最重要。

目次
メトトレキサートは関節破壊を止める“切り札”だが、免疫も弱める
メトトレキサートの働き
メトトレキサートは週1回の服用/自己注射で免疫のブレーキをかけ、炎症物質を作り過ぎないようコントロールします。
関節リウマチ(RA)治療の世界標準薬であり、日本でも7割以上の患者さんが使用しています。
リンパ増殖性疾患はなぜ起こる?
免疫が弱まると、潜んでいた EB ウイルスが再び活発化したり、腫瘍化しかけたリンパ球を排除しにくくなります。
その結果、リンパ球が異常増殖しLPD(リンパ節や臓器の腫れ)として現れることがあります。
数字で見るメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患
項目 | 主な国内データ* |
---|---|
発症頻度 | 0.07 件 / 100 人年 |
平均発症年齢 | 約 65 歳(女性>男性) |
主な病理型 | DLBCL 53% / CHL 22% |
自然消退率 | 66.7%(24 週以内) |
5 年生存率 | 自然消退群 91.5% / 化学療法群 67.2% |
* LPD-WG 多施設共同研究 232 例の解析より
セルフチェック:こんな症状が 2 週間以上続いたら要相談
- 首・わき・足の付け根の ビー玉以上のしこり
- 37.5 ℃以上の微熱、夜間の発汗、急な体重減少
- 口内や咽頭の治りにくい潰瘍
- 長引く咳や息切れ
- 血液検査でリンパ球急減・LDH 上昇を指摘
ワンポイント
「いつもの腫れと違う」「原因不明の発熱が続く」と感じたら、まず主治医へ連絡をしましょう。
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患診断ステップ
- 薬剤中止 – MTX と他の免疫抑制薬を一旦止める
- 血液・画像検査 – 血球数 / LDH / CRP / sIL-2R、CT など
- 組織生検 – リンパ節や潰瘍を一部採取し病理型を決定
- 24 週観察 – 約 2/3 がこの期間で自然消退
悪性度が高い場合は血液内科と連携し 早期に化学療法 を検討します。

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患後の治療パターンと 関節リウマチ治療薬の組み直し
自然消退した場合
- 免疫を強く抑えない サラゾスルファピリジン や イグラチモド を併用
- 病勢が強ければ トシリズマブ(IL-6 阻害) や アバタセプト(両論あり) へ切り替え
- 観察研究で 継続率が高く、再発率も低め と報告
自然消退しなかった/再発した場合
- CHOP+リツキシマブ 等の標準化学療法
- 寛解後は弱い csDMARD (±ステロイド最小限)で 関節リウマチ をコントロール

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患 再発を防ぐ生活 7 カ条
- 定期フォロー:治療後 2 年は 3-6 か月ごと、その後は年 1 回
- 感染対策:手洗い・うがい、帯状疱疹ワクチンの相談
- 十分な睡眠とたんぱく質
- 禁煙
- 過度の飲酒を控える
- 無理のない運動:ストレッチや水中ウォーキング
- 自己判断で薬を減らさない
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患 よくある質問(FAQ)
Q1 MTX を服用するのが怖い…
A:LPD は非常に稀で、多くは中止のみで治まります。関節破壊を防ぐメリットの方が大きいので自己中断は避け、主治医と相談してください。
Q2 自然消退後の検査間隔は?
A:最初の 2 年は 3-6 か月ごと、その後は年 1 回の血液・画像検査が一般的です。
Q3 家族にうつる?遺伝する?
A:LPD 自体は感染症ではありません。遺伝的リスクもごく限定的です。

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患まとめ ― 恐れ過ぎず、見逃さず
- LPD は稀、しかも 3 人に 2 人は MTX 中止だけで治る
- 「リンパ節の急激な腫れ」「原因不明の熱」が続いたらすぐ受診
- 早期発見と血液内科連携で 5 年生存率 90%超
- リンパ増殖性疾患後の関節リウマチ治療は “止める” ではなく “方法を変える”
参考資料
- 宮村知也.MTX 関連リンパ増殖性疾患の病態と対策.第 22 回博多リウマチセミナー資料(2023)
- LPD-WG Study Group(全国 30 施設共同)多施設後ろ向き研究報告書 2022.
- 日本リウマチ学会薬剤安全委員会.メトトレキサート安全使用指針 2024 改訂版.
- — ほか国内外主要ガイドラインより再構成。