癌やリンパ腫の持病がある場合の関節リウマチ治療の考え方【診療ガイドラインより】

目次

複数疾患の診断と関連性の理解

・関節リウマチの治療中に、癌や悪性リンパ腫になった。
・癌や悪性リンパ腫の既往があり、関節リウマチを発症した。


このように、癌と関節リウマチが併存する場合、それぞれの疾患の特徴や相互作用を理解することで、治療方針の両立をすることも可能です。

免疫系に関連する各疾患の関係を理解し、総合的な治療計画を立てることで、より良い治療効果が期待できます。

抗がん剤治療と関節リウマチの薬との兼ね合いが心配です

医師 高杉

癌になると、リウマチの治療ができないと思ってしまう方もいらっしゃいますが、方法はいくつかあり、2024年のEULAR(ヨーロッパリウマチ学会)からガイドライン推奨も出ていますので紹介します。

関節リウマチの基本的な症状と特徴

関節リウマチは自己免疫疾患の一つで、関節の炎症と関節破壊(変形)が特徴的な病気です。

医師 高杉

・痛みと腫れを取る
・変形を抑制する

この2つが関節リウマチ治療では大切です。

各疾患の診断基準と重症度評価

それぞれの疾患には明確な診断基準があり、定期的な評価が必要です。

免疫系への影響と相互作用

各疾患の治療は免疫系に影響を与えるため、慎重な管理が必要です。

複数の病気があると治療が難しそうで不安です

医師 高杉

免疫系への影響を考慮しながら、最適な治療法を選択していきます

治療法の選択と組み合わせ

癌やリンパ腫がある場合でも、関節リウマチの治療は可能です。

専門家との緊密な連携のもと、各疾患の状態を考慮した治療計画を立てることが重要です。

複数の病気の治療を同時に受けることに不安を感じます

医師 高杉

リスクがなるべく増えず、効果が出るような方法を考える必要があります

EULAR 炎症性関節炎と癌の既往歴のある患者に対する治療ポイント

基本原則 (Overarching Principles)
内容合意レベル平均(SD)高合意率(≥8/10)
AEULARの炎症性関節炎(RA、SpA)管理の推奨事項に基づく9.6 (0.7)96%
B炎症性関節炎患者において新規または再発癌が発生する可能性がある9.9 (0.2)100%
C患者、癌、基礎疾患の特徴に基づく個別の癌再発リスク評価が必要9.8 (0.6)100%
Dリウマチ専門医が癌の既往歴のある炎症性関節炎患者の管理に責任を持つ9.7 (0.7)96%
E治療は最適な結果を目指し、患者とリウマチ専門医の共同決定に基づく必要がある9.7 (0.8)96%
考慮すべきポイント (Points to Consider)
内容合意レベル平均(SD)高合意率(≥8/10)
1癌の既往歴のある患者の炎症性関節炎を効果的に治療することは、悪性腫瘍の潜在的リスクを減らすために重要8.9 (2.1)85%
2治療不十分な炎症活動に関連する合併症のリスクと、標的抗リウマチ療法関連の癌再発の潜在的リスクのバランスを取る必要がある9.8 (0.5)96%
3リウマチ専門医は、癌の治療に関わる他の専門医と協力して共同管理すべき9.5 (1.1)96%
4寛解状態の癌患者では、適切な標的抗リウマチ治療を遅延なく開始可能9.4 (0.9)92%
5癌の既往歴のある患者では、JAK阻害薬とアバタセプトは治療の代替手段がない場合のみ慎重に使用可能8.9 (1.1)84%
6固形癌の既往歴のある患者で標的抗リウマチ療法が必要な場合、TNF阻害薬が他の治療選択肢より好ましい9.2 (1.3)88%
7リンパ腫の既往歴のある患者で標的抗リウマチ療法が必要な場合、B細胞除去療法が他の治療選択肢より好ましい9.3 (1.1)92%
8非寛解の悪性腫瘍と活動性炎症性関節炎のある患者では、標的抗リウマチ療法の開始は患者、癌専門医、リウマチ専門医の共同決定に基づく必要がある9.8 (0.5)100%

癌の既往歴のある患者における炎症性関節炎の効果的な治療の重要性について

主なポイント:

  • 慢性炎症(リウマチの病勢が悪いこと)は特定の癌のリスクを高める可能性がある
  • 癌の既往があるという理由で関節炎の治療が不十分になると、これも癌のリスク因子となる
  • 特に関節リウマチ患者のリンパ腫について、以下が判明している:
    • 疾患活動性が高いとリスクが上昇
    • DMARDs(抗リウマチ薬)の使用自体はリスク上昇と関連しない
  • したがって、炎症性関節炎を適切に治療することで、新規または再発癌のリスクを低減できる可能性がある

参考:Arthritis Rheum 2006;54:692–701. doi:10.1002/art.21675

医師 高杉

リウマチの治療がきちんとできていないことは、癌再発のリスクをむしろ上げてしまう可能性があるのです。

2. 治療のバランスの重要性

関節リウマチを適切に治療しない場合の、関節リウマチ進行のリスク

  1. 関節への影響
    • 不可逆的な関節の損傷
    • 機能障害
  2. 全身への影響(合併症)
    • リウマチの病勢が悪いことは、心血管系の合併症リスク上昇と死亡率増加させる
    • リウマチの病勢が悪いことは、感染症リスクの上昇
    • リウマチの病勢が悪いことは、NSAIDs(消炎鎮痛薬)、ステロイドの過剰使用による合併症を増やすことにつながる

つまり、「癌の既往があるから治療を控えめにする」という単純な判断ではなく、炎症をコントロールすることの重要性と、治療による癌再発リスクを総合的に評価して、個々の患者に最適な治療方針を決定する必要があるということです。

従来の治療薬と使用上の注意点

従来型抗リウマチ薬は、癌やリンパ腫の既往歴がある場合も使用できます。

これらの薬剤は、一般的に安全に使用できると考えられています。

生物学的製剤による治療の可能性

生物学的製剤に関しては、【これから知見が集積していく】という段階ではあるものの、TNF阻害薬やIL-6阻害薬に関しては比較的【がんの再発を増やさない】ということが報告されています

参考:DANBIO(ARD2018)、関節リウマチで癌既往のある方の生物学的製剤と2次癌

そのため、必要であれば癌やリンパ腫の治療歴がある患者さんにも有効な選択肢となりうる時代になってきました。


IL-6などは報告によって良いデータもあります。https://ard.bmj.com/content/early/2024/12/20/ard-2024-225982#ref-24

ですが、現時点ではJAK阻害薬とアバタセプトの使用に関しては、慎重であるべきとされています。その理由としては

JAK阻害薬では、①がん既往歴のある患者さんでの具体的なデータが不足していること、②ORAL試験で、がん既往歴のない関節リウマチ患者でもがんの発生率増加が報告されたというのがあるため、現時点ではそのようになっています。特に以下の患者さんでは他に適切な治療選択肢がない場合のみ使用するようEMAが勧告しています:

癌後にJAK阻害剤の再開を注意する場合 

65歳以上の方
心臓発作や脳卒中などの心血管リスクが高い方
喫煙者または長期喫煙歴のある方
がんリスクが高い方

アバタセプトに関しては、作用機序が抗がん免疫療法(いわゆるチェックポイント阻害薬)と逆の効果を持つ薬剤であり、癌の出現に関しては作用機序的な懸念が残っていることがあげられます。また、7つの観察研究のうち5つで、他の治療法と比較してがん発生率の若干の増加が報告されています。(ただし、2つの研究では有意差は見られませんでした)

参考:Montastruc F, et al. The risk of squamous cell carcinoma with abatacept compared with other biologics in patients with rheumatoid arthritis: A cohort study. Semin Arthritis Rheum. 2019;48(5):840-848.

投与開始前には、癌やリンパ腫の再発リスクを慎重に評価する必要があります。

抗がん剤との併用における留意事項

抗がん剤治療中の関節リウマチ治療では、免疫抑制作用と抗リウマチ作用を見極めたうえで、
免疫機能への影響を考慮した投薬調整が必要です。

具体的には、抗がん剤の一部は抗リウマチ作用を持つものや、関節痛を和らげる作用がある薬剤があります。

それらの薬の状況から、関節リウマチへの治療効果を見極めるということも必要になってきます。

医師 高杉

実際には

①どんな癌で、どのような状態か
②現在の抗がん剤の状態
③関節リウマチの治療状況
④関節リウマチの病勢

で治療方法を決めていく、オーダーメイドの治療が必要と考えています。

よくある質問(FAQ)

関節リウマチと癌・リンパ腫が同時に見つかった場合、治療は可能ですか?

関節リウマチの治療は、癌やリンパ腫の治療と並行して行うこともできます。治療薬の種類と関節リウマチの病勢を定期的な検査で経過観察をしながら、よりよい予後を目指し治療を進めることができます。

生物学的製剤は使用できますか?

癌やリンパ腫の状態が安定していれば、生物学的製剤の使用は可能な場合もあります。ただし、投与開始前には詳細な検査を行い、定期的なモニタリングを実施します。

抗がん剤との併用で気をつけることはありますか?

抗がん剤治療中は免疫力が低下するため、感染症のリスクが高まります。手洗いうがいや感染予防(肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンなど)に気をつけることが必要です。また、白血球数と感染リスクには関係があるため、定期的な検査が必要です。

定期検査はどのくらいの頻度で必要ですか?

血液検査と病勢の評価は1ヶ月ごとがよいかと存じます。症状や治療内容に応じて、検査の頻度を個別に設定します。

日常生活で特に気をつけることはありますか?

バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、十分な休息を取ることが大切です。禁煙は必須で、ストレス管理も重要です。過労や感染症には特に注意が必要です。

症状が悪化した場合はどうすればよいですか?

関節の急な腫れや痛み、発熱などの症状が出現した場合は、すぐに担当医に連絡してください。関節内注射などの方法で、痛みを短期間に取る方法もあります。

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