
R1乳酸菌を飲んでみてもいいですか?免疫を強くするとリウマチは悪くならないですか?

とてもよくいただく質問なので、まとめてみますね!
総じていうと、企業の研究が主体のため、報告されるほどの効果があるかは疑問が残りますが、少なくとも悪さはしないかと考えます。
プロバイオティクス(主に乳酸菌やビフィズス菌などのヒトに有益な働きをする微生物を含む製品(食品・サプリメントなど)のことを指し、「十分な量を摂取することで、摂取する人間の健康に有益な効果をもたらす生きた微生物」として考えると、悪くないのではないかと思います。ただ、リウマチ治療の補助的な役割とか投げるとよいです。
R1乳酸菌とは:明治プロビオヨーグルトR-1などに使用されている「1073R-1乳酸菌」は、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1という乳酸菌株です。この乳酸菌は外膜外に多糖体(EPS)を大量に産生する特徴があり、そのEPSが体内で免疫系を活性化することが知られています。
R1乳酸菌で発酵したヨーグルトを摂取すると、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性を高め、唾液中のIgA(免疫グロブリンA)を増加させるなど、生体の感染防御力を高める効果が報告されており、これらは小規模・企業研究であるものの、R1乳酸菌を飲んでもよいか?というご質問をよくいただきます。
健常者を対象とした研究でR1乳酸菌含有ヨーグルトの継続摂取によりNK細胞活性が有意に上昇し、風邪などの感染症リスクが低減したことが確認されています。またマウスを用いた実験では、R1乳酸菌のEPSがインフルエンザウイルスの増殖抑制に働くと報告があります。
R1乳酸菌が及ぼす炎症・自己免疫への影響
R1乳酸菌の免疫賦活作用は、感染防御だけでなく免疫の調節にも関与すると考えられます。特に注目すべきは、炎症性サイトカインの制御です。関節リウマチ(RA)の自己免疫モデルであるコラーゲン誘発関節炎(CIA)マウスを用いた研究では、R1乳酸菌で発酵させた発酵乳の経口投与によって関節炎の発症が有意に抑制されました
この研究では、R1乳酸菌を摂取したマウスでリンパ節細胞からのIFN-γ(インターフェロンγ)産生が低下し、さらにマウスの補助細胞から産生される炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、MCP-1)の量も減少したと報告されています
つまり、R1乳酸菌は過剰な炎症反応を抑制し、自己免疫による関節炎症状を軽減する方向にいく可能性はあります。この効果はR1乳酸菌が産生するEPSによる免疫調節作用に起因すると考えられ、実際にR1乳酸菌由来の多糖体にも関節炎悪化を抑える報告があります。
さらに、その他のプロバイオティクス研究からも乳酸菌が免疫バランスを整える可能性が示唆されています。例えば、ある乳酸菌(L. casei)の投与は関節炎モデルマウスで関節の腫れや骨破壊を抑え、IFN-γやIL-17など炎症性サイトカインを減少させたとの報告があります
また別の乳酸菌株では自己免疫を促進するTh17細胞を減少させ、炎症を抑える制御性T細胞(Treg)や抗炎症サイトカインIL-10を増加させた例もあります。プロバイオティクス全般で見れば、複数のランダム化試験において、腸内細菌叢の修飾(プロバイオティクス摂取)がRAなど自己免疫疾患の多臓器炎症を改善したとの報告もあり、腸内細菌の改善(R1に限らずプロバイオティクスは)はR1乳酸菌にも通じる「免疫調節による抗炎症効果」の可能性を示唆しています。
要約すると、R1乳酸菌は免疫を単純に活性化するだけでなく、過剰な炎症反応を和らげる方向に作用し得るということです。免疫系を適度に刺激しつつも、病的な自己免疫反応を抑える――このような免疫恒常性の回復にR1乳酸菌が寄与している可能性があります。
有効性・安全性の個人差:プロバイオティクス全般に言えることですが、その効果や影響は人によって異なります。R1乳酸菌で体調が良くなったと感じるRA患者さんもいれば、何も変化を感じない人、稀に合わない人もいるでしょう。現状で重大な副作用は知られていませんが、摂取してみて違和感があったり症状が悪化した場合は中止すべきです。
「治療」ではなくあくまで補助:R1乳酸菌は健康維持に役立つ食品成分ですが、関節リウマチそのものを治療するものではありません。免疫力を高めれば自己免疫病が治るというものではなく、食品で病態を逆転させるだけの劇的な免疫改善は減じて鵜的でないことは知っておきましょう。そのため、R1乳酸菌摂取によって病気が治ると過信してしまい、既存の治療を自己判断で中断するといったことは絶対に避けるべきです。
自己免疫疾患における「免疫力を高める」とは、無秩序に免疫全体を増強することではなく、「乱れた免疫応答を正常化し、防御機構を維持すること」を意味すべきでしょう。関節リウマチの進行や症状に対しては、むやみに免疫を煽るのではなく、免疫のバランスを取ること(=免疫力の質的向上)が重要であり、R1乳酸菌のような介入もこの文脈で捉えるべきだと言えます。
現時点で、関節リウマチ患者自身を対象にしたR1乳酸菌の本格的な臨床試験や論文報告は多くありません。主な知見は前述したようにマウスを用いた基礎研究レベルのものや、健常者あるいは他疾患での免疫指標に関する研究です。例えば狩野ら(2002年)の研究では、DBA/1マウスのコラーゲン誘発関節炎モデルに対し1073R-1乳酸菌発酵乳を経口投与し、有意な関節炎抑制効果を報告しています。しかしヒトのRA患者を対象とした同様の試験結果は見当たらず、効果の有無や安全性については今後の検証が必要です。
医師の見解としては、「適量のヨーグルト摂取自体は健康に良い習慣だが、関節リウマチに劇的効果を期待するのは難しく、あくまで補助的に考えるべき」といった慎重なコメントが多いようです(アスクドクターズQ&Aなどより)。
現在得られている研究知見および専門家の意見を総合すると、R1乳酸菌は関節リウマチ患者にとって概ね安全に利用できるプロバイオティクスであり、補完療法として有望ではあるものの、明確な臨床効果を断言するにはエビデンスが不十分です。
したがって、関節リウマチ患者がR1乳酸菌を取り入れる場合は、主治医と相談の上で自身の病状を観察しつつ利用すること、そして標準治療の代替ではなく補助として位置付けることが大切です。
参考文献
Interactions between Gut Microbiota and Immunomodulatory Cells in RA
Kano et al. (2002), Cytotechnology, 40:67–73 – 1073R-1乳酸菌発酵乳投与によるサイトカイン
明治ヨーグルトライブラリ R-1株の免疫作用説明meiji.co.jp
日本リウマチ財団Q&A「免疫を上げるとリウマチは悪化しますか?rheuma-net.or.jp
Li et al. (2024), Front. Immunol. – プロバイオティクス治療のRAへの有効性に関するシステマティックレビュー
Liu et al. (2018), MDPI Nutrients – プロバイオティクスによるRA含む炎症疾患の多臓器炎症改善