寛解VS疾患活動性の残存状態における関節変形のリスク比
関節リウマチ(RA)の治療において、寛解を達成することは関節破壊のリスクを減らすために極めて重要です。寛解状態と疾患活動性が残存している状態では、関節の変形に関するリスクが大きく異なります。当院ではリウマチ専門外来で関節超音波検査も実施していることから多く経験することですが、【患者様が我慢できる痛み】と【寛解状態】は異なることが多く、【将来の変形予防】のためには寛解状態を解説し、治療目標を立てていただくことが重要なため解説します。
寛解状態
寛解状態では、関節リウマチの炎症活動がほぼ完全に抑制されているため、関節の破壊や変形が進行するリスクが著しく低下します。寛解を維持することで、関節の健康を長期にわたり保つことが期待され、関節破壊の進行が抑えられます。
寛解基準とよばれる基準が複数あるため、それぞれ解説します。
疾患活動性が残存している状態
一方で、疾患活動性が残存している場合(たとえば低〜中等度の活動性が持続している場合)、関節に炎症が続いており、その結果として関節破壊や変形が進行するリスクが高くなります。研究によると、疾患活動性が中等度以上の場合、関節破壊のリスクは寛解状態と比べて約2倍以上に上ることが示されています。この状態が長く続くと、関節の変形が進行し、日常生活の中での障害が顕著になる可能性が高まります。
3つの寛解(臨床的寛解・構造的寛解・機能的寛解)
一般的に寛解基準と言われる場合は、臨床的寛解のことを指します。
この、臨床的寛解を維持することによって、構造的な変化を防ぎ(構造的寛解)、機能的寛解(社会生活)を維持できると考えます。
寛解状態のほうが変形リスクが低い
(Ten-year radiographic and functional outcomes in rheumatoid arthritis patients in remission compared to patients in low disease activity Arthritis Research & Therapy 25(1))より引用
横軸ー時間
縦軸ー変形スコア
赤色ー寛解
緑色ー低疾患活動性
青色ー中疾患活動性以上
臨床的寛解の寛解基準の代表的なものを紹介します
寛解基準は複数あり、代表的な寛解基準を示します。(当院ではSDAI寛解またはBoolean寛解を用いて治療目標としています)
SDAI寛解について
SDAI(Simplified Disease Activity Index)寛解とは、関節リウマチ(RA)の活動性を評価する指標のひとつであり、患者の症状がほぼ完全にコントロールされている「寛解」状態を示す基準です。SDAIは、RAの治療目標の達成度を数値化し、寛解の達成状況を確認するために用いられています。普段の診療での使用しやすさや、自分でも計算しやすい指標になります。
SDAIの構成要素 SDAIは、以下の項目を合計することで算出されます:
- 圧痛関節数(TJC28):28関節のうち圧痛のある関節の数
- 腫脹関節数(SJC28):28関節のうち腫脹のある関節の数
- 患者の全般的な自己評価(PtGA):患者自身が評価する疾患活動性のスコア(0〜10スケール)
- 医師による全般的な評価(PGA):医師が評価する疾患活動性のスコア(0〜10スケール)
- C反応性蛋白(CRP):炎症の程度を示すCRP値(mg/dL)
SDAIの合計スコアは、上記の各要素のスコアを合計することで得られます。
SDAI寛解基準 SDAI寛解の基準は、SDAIスコアが3.3以下であることです。この基準を満たすことで、関節リウマチの寛解状態に達したと見なされます。
SDAI寛解の特徴と利点
- 厳格な基準:SDAI寛解は非常に厳格な基準であり、患者の関節炎症が極めて低いレベルに抑えられていることを示します。
- 評価の多角的視点:SDAIは、患者自身の評価と医師の評価、さらには関節の圧痛・腫脹数、CRP値を含むため、疾患の活動性を総合的に評価することができます。
- 治療目標としての価値:寛解は関節リウマチ患者にとって重要な治療目標であり、寛解の達成により痛みや炎症のコントロールができ、生活の質の向上が期待されます。
CDAI寛解について
CDAI(Clinical Disease Activity Index)寛解は、関節リウマチ(RA)の疾患活動性を評価するための指標の一つであり、寛解状態を判断するために使用されます。CDAIは、関節リウマチの治療のゴールとして、炎症活動を抑え、関節機能を維持することを目指す上で重要な指標です。SDAI寛解からCRPがない状況というイメージになります。
CDAIの構成要素 CDAIは、以下の4つの要素の合計スコアで算出されます:
- 圧痛関節数(TJC28):28関節のうち圧痛のある関節の数
- 腫脹関節数(SJC28):28関節のうち腫脹のある関節の数
- 患者の全般的な自己評価(PtGA):患者自身による疾患活動性の評価スコア(0〜10スケール)
- 医師の全般的な評価(PGA):医師による疾患活動性の評価スコア(0〜10スケール)
CDAI寛解基準 CDAI寛解の基準は、CDAIスコアが2.8以下であることです。この基準に達することで、患者は寛解状態にあるとみなされます。SDAI寛解からCRPがない状況というイメージになります。
Boolean寛解(ブーリアン寛解)
Boolean寛解(ブーリアン寛解)という基準もあります。ブーリアン寛解は関節リウマチ(RA)の疾患活動性を評価するための厳格な寛解基準の一つです。患者の疾患が効果的に管理され、関節炎症の症状がほぼ完全にコントロールされた状態を指します。この寛解基準は、治療のゴールの一つとして設定され、患者の生活の質向上を目指しています。
Boolean寛解基準は、以下の4つの項目がすべて満たされた場合に達成されたとみなされます:
- 圧痛関節数(TJC28):28関節のうち圧痛のある関節の数が1以下であること。
- 腫脹関節数(SJC28):28関節のうち腫脹のある関節の数が1以下であること。
- 患者の自己評価(PtGA):患者自身が評価する疾患活動性のスコア(0〜10スケール)が1以下であること。
- CRP(C反応性蛋白):CRP値が1mg/dL以下であること。
これらの基準すべてが満たされた場合にのみ、Boolean寛解が達成されたとみなされます。この評価方法は厳格であり、他の基準に比べて関節リウマチの寛解を厳密に確認するためのものです。
Boolean寛解の特徴と利点
- 厳格な評価基準:Boolean寛解は非常に厳しい基準であるため、達成が難しいですが、達成できた場合には患者の関節炎症がほとんど存在しない状態であることを示しています。
- 生活の質の向上:寛解を目指すことにより、患者の痛みや関節の損傷を最小限に抑え、生活の質(QOL)を向上させることが期待されます。
- 治療のゴール:この基準は、関節リウマチの治療における明確な目標となり、治療の進捗を客観的に評価することが可能です。
Boolean寛解の課題と問題点 Boolean寛解基準は厳格であるため、すべての患者が達成できるわけではありません。やや厳しすぎる目標と評価されることもあります。特に一部の患者様では、すでに重症の症状を持つ期間が長かった方などが、既存の関節破壊が進んでいる場合、寛解基準を満たすことが難しいことがあります。また、患者様の自己評価(PtGA)が寛解の達成に大きく影響するため、患者の主観的な症状や他の持病などの影響での感じ方によって結果が左右されることもあります。
まとめ
Boolean寛解は、関節リウマチの治療における重要な目標であり、疾患活動性の非常に低い状態を示しています。この基準を達成することで、患者は痛みや関節機能の低下から解放され、日常生活の質が向上します。しかし、その厳しさから、治療目標に関しては治療方針や患者個々の状況に応じた柔軟な治療が求められます。Boolean寛解を目指すことは、関節リウマチ患者の長期的な健康管理と関節の保護にとって重要な取り組みです。
DAS28寛解について
DAS28(Disease Activity Score 28)は、関節リウマチ(RA)の疾患活動性を評価するためのスコアであり、寛解状態の判断にも用いられる指標です。DAS28は、患者の関節炎の活動性を数値で評価することで、治療の効果や病気の進行度を把握し、治療の調整に役立てます。以前はこの寛解指標が頻用されていましたが、計算式が複雑であることも含め、最近ではSDAIやCDAIが使われる機会が増えています。
DAS28の構成要素
DAS28は、以下の要素を用いてスコアを算出します:
- 圧痛関節数(TJC28):28関節のうち圧痛が認められる関節の数
- 腫脹関節数(SJC28):28関節のうち腫脹が認められる関節の数
- CRP値またはESR値(C反応性蛋白または赤血球沈降速度):炎症の程度を示す血液検査の結果
- 患者の自己評価(PtGA):患者自身による全体的な健康状態の評価(通常0〜100mmのビジュアルアナログスケール)
これらの要素を用いて算出されるDAS28スコアは、関節リウマチの活動性を評価するための基準として使われます。
DAS28CRP=0.56×√TJC28+0.28×√SJC28+0.36×ln(CRP+1)+0.014×PtGA+0.96
DAS28ESR=0.56×√TJC28+0.28×√SJC28+0.70×ln(ESR)+0.014×PtGA
DAS28寛解基準
DAS28寛解の基準は、DAS28スコアが2.6以下であることです。この基準を満たす場合、関節リウマチの症状が非常に抑えられている状態、つまり「寛解」に達していると判断されます。
DAS28スコアの分類
- 寛解(Remission):2.6以下
- 低疾患活動性(Low Disease Activity):2.6 < DAS28 ≤ 3.2
- 中等度疾患活動性(Moderate Disease Activity):3.2 < DAS28 ≤ 5.1
- 高疾患活動性(High Disease Activity):5.1以上
DAS28スコアが低いほど、関節リウマチの活動性が少ないことを示し、寛解状態は最も低いスコアに該当します。
当院では、寛解評価や相談外来も実施できます。
現在寛解しているか心配、できれば寛解の確認をし、安心して治療を継続したいという方もみえるかと思います。
当院では、そういった相談も承っているので、いつでも御相談ください。