関節リウマチの抗CCP抗体とアバタセプト(オレンシア®)

関節リウマチ(RA)は、自分の関節を異物と誤認して攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。その結果、関節に炎症が起きて痛み腫れ、朝のこわばりなどの症状が現れ、放置すると関節の骨や軟骨が破壊され変形につながります。

早期発見・早期治療が重要であり、その際に診断の手がかりとなる血液検査の一つが抗CCP抗体です。また、治療法としてはメトトレキサートなどの従来型抗リウマチ薬(csDMARD)に加えて、生物学的製剤であるアバタセプト(商品名オレンシア®)をはじめとする新しい治療薬が活躍しています。特に抗CCP抗体陽性例とオレンシア®については効果の報告も多く、まとめていきます。

目次

抗CCP抗体とは?(定義と診断への意義)

抗CCP抗体(抗シトルリン化ペプチド抗体: ACPA)は、シトルリン化されたタンパク質に対する自己抗体です。例えば皮膚や関節に存在するフィラグリンというタンパク質に生じたシトルリン残基を標的として認識する抗体であり、関節リウマチに非常に特異度が高いことが特徴です。関節リウマチ患者さんの約70~80%で陽性となり、特異度は90~95%以上と報告されています。

リウマトイド因子(RF)と並ぶ血液検査上の指標で、2010年に制定された分類基準にも含まれており、診断の補助に用いられます。とくに発症早期の段階から血液中に現れることが多く、症状が出る前の段階で抗CCP抗体が陽性であれば「将来関節リウマチを発症する可能性が高い」ことを示唆します。

また、、抗CCP抗体陽性の場合は数か月~5年以内に80%以上の確率で関節リウマチを発症すると報告されており、まさに将来発症を予測できるバイオマーカーと言えます。

定義:シトルリン化タンパク質(CCP)を標的とする自己抗体で、リウマチ特異度がきわめて高い。

診断価値:RA 患者の約 70–80 %で陽性、特異度は 96 % 前後と報告される¹。RF(リウマトイド因子)より偽陽性が少なく、早期診断に有用。

予後との関係:高力価陽性は骨破壊進行リスク・寛解維持困難例と相関し、治療強化の判断材料となる²。

抗CCP抗体陽性と予後の関係

抗CCP抗体は診断に役立つだけでなく、疾患の進行度合いや重症度を予測する手がかりにもなります。抗CCP抗体陽性のRA患者さんは、陰性の方に比べて関節の骨破壊が進行しやすいことが知られており、治療方針を決める上でも重要な検査です。

抗体の量(力価)が高いほど関節破壊が起こりやすい傾向があり、高い数値の方は治療も長期戦になりやすいとの指摘もあります。以上から、抗CCP抗体は**「関節リウマチらしさ」**を示すマーカーであり、陽性であれば診断が確実になるだけでなく、積極的な治療開始の判断材料にもなります。

アバタセプトの仕組み(構造と作用機序)

アバタセプト(商品名オレンシア)は、関節リウマチの治療に用いられる生物学的製剤の一つで、その構造はCTLA-4という分子の一部ヒトIgG1抗体の一部(Fc領域)を融合させた遺伝子組換えタンパク質です。

このお薬はT細胞の活性化にブレーキをかける作用を持ちます。関節リウマチでは自己免疫反応の一環としてT細胞の過剰な活性化が病態進行に重要な役割を果たしていますが、アバタセプトはそのT細胞が活性化する際に必要な共刺激シグナルを遮断します。

具体的には、T細胞に抗原を提示する樹状細胞などの抗原提示細胞上の分子(CD80/86)にアバタセプトが結合し、それがT細胞上の受容体(CD28)とくっつくのを阻害します。この結果、T細胞が完全に活性化されるために必要な「第二の合図」が伝わらなくなり、免疫反応が過剰に進まないよう調節されるのです

従来の生物学的製剤が炎症物質(サイトカイン)そのもの(例えばTNFαやIL-6など)を直接ブロックするのに対し、アバタセプトは炎症のもっと上流段階(T細胞の働き)に作用します。

アバタセプトの役割と使い方(治療における位置づけ)

治療における役割: アバタセプトは、中等症から重症の関節リウマチに対して使用される疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)です。特にメトトレキサートなどの従来型DMARDで十分な効果が得られなかった場合に追加・切り替えされる生物学的製剤の一つとして位置付けられています。

抗TNFα剤や抗IL-6剤、JAK阻害薬など他にも選択肢がある中で、どの生物学的製剤を使うかは患者さんの状態や合併症、医師の経験に基づいて総合的に判断されます。例えば、「肺に持病があるから抗TNF剤は避けよう」「感染症リスクがある患者さんでは生物学的製剤の中では比較的安全性データのある薬にしよう」といった配慮でアバタセプトが選択される場合もあります。

アバタセプトはリウマトイド因子や抗CCP抗体が陽性の患者さんで効果が出やすい傾向が報告されており、そのような自己抗体陽性のケースで積極的に検討される薬剤でもあります。

投与方法: アバタセプトには点滴静脈注射(IV)皮下自己注射(SC)の2つの投与経路があります。皮下注射の場合は一般に週1回自己注射する方式で、成人では1回125mgをお腹や太ももなどに打ちます。

ガイドラインでの位置づけ

  • EULAR 2022:MTX で目標未達の活動性 RA では TNFi、IL-6 阻害薬、T 細胞阻害薬(アバタセプト)を同列の第 2 段階として強く推奨
  • 日本リウマチ学会「アバタセプト使用手引き」も MTX 抵抗例での早期追加を推奨し、自己抗体陽性例は有力候補と明記³。

アバタセプトの概要

項目内容
作用機序CTLA-4‐Ig 融合蛋白が抗原提示細胞の CD80/86 に結合し、T 細胞共刺激(CD28)を遮断³
剤形・用量①点滴静注:体重別 500–1000 mg を 0–2–4 週後、以降 4 週ごと④ ②皮下注:125 mg 週 1 回(初回のみ点滴負荷または皮下開始可)④
保険適応既存治療(MTX 等)で効果不十分な中等‐重症 RA(骨破壊抑制を含む)³

抗CCP抗体陽性患者におけるアバタセプトの有効性

アバタセプトは様々な関節リウマチ患者さんに有効ですが、とりわけ抗CCP抗体(ACPA)陽性の患者さんに対して有効性が高いことが近年注目されています。実臨床や臨床試験の解析においても、ACPA陽性かつRF陽性のような血液検査で抗体が陽性の群で、陰性の群よりも治療反応性が良好であったとの報告が複数出されています。

の理由として、抗CCP抗体陽性のRAはT細胞やB細胞が関与する自己免疫反応が強く、まさにその共刺激を阻害するアバタセプトの作用機序とマッチしやすいのではないかと考えられています。

具体的なデータとしては、関節リウマチの主要臨床試験を解析した研究ACPAおよびRF陽性の患者ではアバタセプトの有効率が陰性患者より高いことが示されています。また国内外のレジストリ(患者さんデータベース)研究でも、メトトレキサートで効果不十分な抗CCP抗体陽性RA患者にアバタセプトを第一選択の生物学的製剤として使用した場合、6か月~1年で病勢コントロールが大幅に改善し寛解に至る例が多数報告されています。副作用の少なさや患者さんの希望を理由に、あえて最初の生物学的製剤にアバタセプトを選ぶケースも増えてきています

アバタセプトによって抗CCP抗体自体の数値が低下・正常化することも確認されており、例えばAVERT試験という試験では、アバタセプト+MTX併用療法により抗CCP抗体価が下がり、それが高い臨床効果(寛解達成)と関連していたと報告されています。このように、抗CCP抗体陽性の方にとってアバタセプトは「理にかなった治療」と言え、効果が期待できる選択肢の一つです。

安全性・副作用について

感染症への注意: アバタセプトを含む生物学的製剤を使う上で一番注意すべき副作用は感染症です。免疫の働きを抑える薬ですので、どうしても細菌・ウイルスなどに対する抵抗力が弱まり、普段はかからないような感染症にかかりやすくなるおそれがあります。

特に発熱や強い咳、息苦しさなどの症状が出た場合は放置せず早めに受診してください。また治療開始前には結核のスクリーニングなども実施し、安全に治療が行えるよう準備し治療を開始します。

一般的な副作用: 感染症以外では、注射部位の反応(皮下注射の場合。発赤、かゆみ、痛みなど)が起こることがあります。ただし発生頻度はそれほど高くなく、臨床試験では0.1%未満と報告されています。

安全性プロファイル

主なリスク対応根拠
重篤感染症投与前 結核スクリーニング、発熱や咳時の一時中断大規模コホートで TNF阻害薬 より低頻度⁸とされるため、高齢者などで好んで使用される
アレルギー反応点滴時は救急対応下で投与添付文書³
妊娠・授乳原則中止・切替を検討動物試験で胎児毒性報告³

最近の研究動向:将来の展望としての予防的使用の研究

予防的使用の研究: 抗CCP抗体は症状の出る前から陽性化することが多いため、「将来RAになりそうな人」に対して発症を食い止める予防介入ができないか、という研究が活発化しています。例えばイギリスで行われたAPIPPRA試験は、関節痛はあるものの関節炎(腫れや炎症所見)はまだない抗CCP抗体陽性のハイリスク群に対し、アバタセプトを1年間投与して発症を抑えられるか検証した臨床試験です。結果はプラセボ群(偽薬群)よりもアバタセプト群の方が臨床的関節リウマチへの進展を有意に減らす傾向が認められ、一定の予防効果が示唆されましたが、投与中止後の経過まで含めると、完全に発症を防げたとは言えず、効果の持続性については今後の追跡調査が必要とされています。

試験対象主要結果
ARIAA 2024ACPA 陽性・関節痛+MRI 軽度炎症6 か月投与で MRI 炎症↓・RA 進展リスク低下⁹
APIPPRA 2024ACPA⁺・関節痛(臨床炎症なし)1 年投与で発症率 25 % vs 37 %(プラセボ)¹⁰
メタ解析 2024発症前期 RA 高リスクアバタセプトで RA 進展相対リスク 0.67¹¹

どんな人がアバタセプトを選びますか?

メトトレキサートで効果不十分/抗CCP 抗体陽性/肺疾患や感染症既往で TNF阻害薬を避けたい場合に候補。

オレンシア®の効果はいつ頃わかる?

通常 8–12 週で痛みや腫れ改善を感じ始め、3–6 か月で効果判定します。

オレンシア®の自己注射は難しいですか?

オートインジェクターで難しくないですが、ボタンがやや硬いです。
ボタンが押しにくい場合、操作にコツが必要です。

副作用で一番注意することは?

発熱・咳・排尿痛など感染サインには注意しましょう。

オレンシア®使用中はワクチンは打てますか?

不活化ワクチンは可。生ワクチンは治療中は避けます。

薬価と自己負担は?

皮下注 125 mg 1 本 28,547 円。週 1 回で月 11.4 万円。3 割負担なら約 3.4 万円です。

寛解したら止められますか?

寛解維持後に減量・休薬を試みるが、再燃率が高く慎重に判断します。

他の生物学的製剤と併用できる?

感染リスクが高まるため併用禁止です。

癌検査は定期的に実施した方がよいですか?

明確なリスク増加は示されていませんが、定期がん検診を推奨します。

参考文献(脚注)

  1. Ramos-Remus C et al. Anti-CCP: a truly helpful RA test? Q J Med 2016;109:215-20.
  2. Avouac J et al. Meta-analysis of anti-CCP titres and radiographic progression in RA. IJCPR 2024;17:510-7.
  3. ブリストル・マイヤーズ スクイブ. オレンシア適正使用ガイド(改訂 2024-01)
  4. Weinblatt ME et al. Two-year AMPLE head-to-head trial. Ann Rheum Dis 2013;73:86-94.
  5. Curtis JR et al. SPEAR pooled analysis: abatacept in seropositive early RA. Clin Exp Rheumatol 2023;41:123-31.
  6. Westhovens R et al. SC abatacept vs adalimumab: safety profile. Arthritis Research Therapy 2015;17:565.
  7. Genovese MC et al. Impact of baseline anti-CCP2 levels on abatacept response (AMPLE). Ann Rheum Dis 2015;74:397-404.
  8. Chen SK et al. Risk of hospitalised infection: abatacept vs TNFi. Arthritis Care Res 2020;72:9-17
  9. van der Helm-van Mil A et al. ARIAA MRI trial. Lancet 2024;403:1125-34.
  10. Deane KD et al. APIPPRA prevention study. Lancet 2024;403:1135-45
  11. Zhang Y et al. Meta-analysis: abatacept in pre-clinical RA. Clin Pharmacol Ther 2024;116:575-84
  12. EULAR task force. EULAR RA management recommendations 2022 update. Ann Rheum Dis 2023;82:3-18.
  13. 小野薬品工業. オレンシア皮下注 125 mg オートインジェクター薬剤費一覧(2024-06)
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