六君子湯の特徴
胃もたれ、胃のチャポチャポ、吐き気、食欲不振、お腹のゴロゴロ、軟便などに用いられます。
胃腸の働きをよくする「四君子湯(シクンシトウ)」に、胃の中の「水(スイ)」の滞りを改善する「二陳湯(ニチントウ)」を加えた漢方薬です。
構成されている生薬のうち、朮(ジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、人参(ニンジン)、半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ)、甘草(カンゾウ)の6種類を6人の君子に見立てて「六君子湯」と名付けられました。
中国・宋時代の「和剤局方(ワザイキョクホウ)」に記されています。
次のような人に有効です。
- 体力があまりない人
- 胃腸が虚弱
- 食後に眠くなる
- みぞおちのつかえ感がある
六君子湯の作用・効果
人参(ニンジン)、蒼朮(ソウジュツ)と茯苓(ブクリョウ)は胃腸の働きを助け、体力を増進する作用があります。
半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ)は痰をとり、嘔気を抑える作用があります。大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)は胃腸を補い、他の生薬との調和作用があります。
近年、薬理作用において、慢性胃炎、神経性胃炎、胃食道逆流症で有効な効果が認められました。さらに、胃の切除手術を受けた後に起こる逆流性食道炎に対する効果も報告されています。
似たように食欲低下がある時の漢方薬の使い分けとしては、人参湯は下痢が強い時に、補中益気湯は疲れがより強い時に向いているとされます。六君子湯は作用機序が検討されている処方で、受容性弛緩、胃排出能、胃粘膜血流などの改善の効果や、抗うつ作用も知られています(半夏による効能が効いているのではと考えられています)。
打ち身の覚え もないのに紫斑ができやすいような人に効くのでは、ということは興味深いです。伝統医学 Vol.11 No.4(2008.12)
胃腸症状に対する六君子湯の効果
また、胸焼け、嘔気、嘔吐、げっぷ、腹部膨満感、食欲不振などの潰瘍のない消化不良患者さん248例を対象に六君子湯を4週間投与したところ、約80%の改善度を示したとの報告があります。(参考文献 慢性胃炎などの不定の消化器愁訴にたいするツムラ六君子湯の臨床評価1991)
機能性胃腸症では、漢方医学でいう、「水滞」「気うつ」「気虚」という状態に当てはまるケースが多く、これが六君子湯がよく効くと考えられています。それに加えて下腹が痛い、便秘しやすい、肌が荒れているなどの症状の方に対しては「瘀血」に対する漢方薬を追加または変更した方がうまくいくケースもあります。
癌の化学療法に対する副作用に対する六君子湯の効果
Gastroenterology 134:2004─2013, 2008で、シスプラチンという抗がん剤に対して食欲低下を起こしたマウスに対し、六君子湯を使用し、食欲が戻ったと報告されています。食欲亢進ホルモンであるグレリンの分泌が抑制されないように働く、というのが六君子湯の効果が起こる機序であると考えられています。
グレリンは、成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS-R)という部分に作用します。それによる成長ホルモン分泌促進作用だけでなく、食欲亢進作用消化管運動亢進作用を示します。
含まれている生薬には、蒼朮に含まれるアトラクチロジンが胃を刺激し、ショウガにあるジンゲロールはグレリン分解を押さえます。また陳皮・甘草では脳でのグレリン分泌を抑えるとされます。
六君子湯の成分・効能
六君子湯は、下記の8種類の生薬からなります。
・蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ):キク科のホソバオケラ(白朮はキク科のオケラ)の根を乾燥させたもの。薬効は、「水滞」の改善し体内の水分代謝を正常にする作用があります。さらに、消化機能を高める作用もあります。
・茯苓(ブクリョウ):サルノコシカケ科のマツホドの菌核を乾燥させたもの。薬効は、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。
・人参(ニンジン):ウコギ科のオタネニンジンの根をそのまま、または湯通しして乾燥させたもの。薬効は、消化機能を高め、「気」の生成をますことにより、体力を回復させる作用があります。
・半夏 (ハンゲ)::サトイモ科のカラスビシャクの塊茎を乾燥させたもの。薬効は、水分の停滞や代謝障害の改善作用や、鎮吐効果(吐き気止め)があります。
・陳皮 (チンピ) :ミカン科のウンシュウミカンなどの成熟果皮を乾燥させたもの。薬効は、「気」をめぐらし、整える作用があります。胃もたれ、嘔吐、食欲不振、かぜの症状の改善に用いられます。
・大棗(タイソウ):クロウメモドキ科のナツメの果実。料理にも使われるナツメの実です。薬効は、胃腸の機能を整えたり、精神を安定させたりする作用があります。
・生姜(ショウキョウ):ショウガ科のショウガの根茎をそのまま乾燥させたもの。薬効は、体を温め消化機能を整える作用があります。
・甘草(カンゾウ) :マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させたもの。薬効は、疼痛緩和の他、緊張を緩める働きがあります。
六君子湯の副作用
配合生薬の人参により、のぼせ、湿疹、蕁麻疹、皮膚炎の悪化などの症状があらわれる可能性があります。
また、配合生薬の甘草(主な成分はグリチルリチン酸)の大量服用により、むくみが出たり、血圧が上る「偽性アルドステロン症」と呼ばれる症状がでる可能性があります。甘草が含まれている他の漢方薬や、グリチルリチン酸を長期で服用する際は注意が必要です。
六君子湯の服用方法
ツムラ六君子湯エキス顆粒によると、通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用するとされています。年齢、体重、症状により適宜増減してください。
基本的に漢方エキス製剤は、お湯に溶かしてから服用すると良い効果が期待されます。