下痢症状の特徴
下痢とは、便中の水分量が多くなり、便の状態が柔らかくなることを言います。便の硬さによって、軟便、泥状便、水様便と呼びます。腸管内の水分が多くなったり、水分の吸収が不足すると下痢が起こります。腸の蠕動運動の亢進によっても下痢が起こることもあります。
下痢には急性と慢性があります。急性の下痢の場合は、細菌やウイルスなどの感染による中毒、急性膵炎、アレルギー症状などが考えられます。
慢性の下痢の場合は、1ヶ月以上もつづく場合があります。ガン、潰瘍性大腸炎、クローン病、甲状腺機能亢進症や、胃腸の働きの低下、ストレスなどが原因として考えられます。
下痢に対する西洋医学の治療
感染性腸炎の場合には、整腸剤などを使用し様子を見ます。止瀉薬(下痢止め)を使用すると菌が体にとどまると考えがあり、感染性腸炎の場合には下痢止めは使用しません。ウイルスの場合は経過観察をし、細菌性腸炎の場合は免疫の弱い状態の方や高齢者では抗生物質を使うことがあります。
感染性でなければ、軽度の下痢ではタンニン酸アルブミンや天然ケイ酸アルミニウムの止瀉薬を用います。
下痢症状が中程度になると、塩酸ロペラミドなどの腸運動抑制薬や殺菌薬を用います。また、乳酸菌製剤で腸内の乳酸菌を増殖させて、腸内環境を改善させます。
高度の下痢や急激な下痢で口からの服用ができない場合は、輸液によって、水分や電解質の補正を行います。
過敏性腸症候群による下痢症状の場合は、食生活の指導やストレスの緩和を一緒に行います。薬物治療では、腸の痙攣を抑える副交感神経遮断薬を用いたり、腸管の過敏性を抑制する薬を用います。場合によっては、抗不安薬や抗うつ薬を用います。
漢方医学の治療
細菌性の下痢は、西洋薬の抗菌薬を中心に治療をします。
細菌性以外の下痢は、胃腸の弱い人や冷え性の虚証の人に多く見られる症状なため、お腹を温めて、腸の動きを整える漢方薬で治療をしていきます。女性の場合は、血の巡りをよくする作用のある漢方薬や気を巡らす作用のある漢方薬がよく用いられます。
具体的には、胃腸が弱いために慢性的な下痢になる人で、西洋薬のタンニン製剤や乳酸菌製剤で効果がない人には、半夏瀉心湯が用いられます。冷えがあり、下痢によってさらに体力が消耗されてしまう人には真武湯や人参湯がよく用いられます。胃腸が虚弱で、水様性の下痢や小児の消化不良には啓脾湯が適しています。
過敏性腸症候群では、女性で妊娠中の人の場合、西洋薬は飲めない場合が多いため、漢方薬を治療に漢方薬を用いることがあります。下痢型や下痢便秘交互型の過敏性腸症候群には、桂枝加芍薬湯が第一選択薬として用いられます。お腹が鳴ったり、心窩部の圧痛がある場合は、半夏瀉心湯や大建中湯が用いられます。神経質でストレス性の下痢の人には半夏厚朴湯が用いられることもあります。
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便秘に対して用いられる主な漢方処方
以下に症状別に用いられる漢方処方を挙げます。
- 感染性の下痢
- 便意が何度もあり、口が渇く→大承気湯
- 悪臭がする便→大黄牡丹皮湯
- 悪寒・発熱・腹痛がある→葛根湯
- 胸脇苦満、悪心、食欲不振→大柴胡湯
- 胃腸が冷える、胃もたれ、みぞおちの痛み→桂枝人参湯
- 腹痛、膨満感→桂枝加芍薬大黄湯
- 慢性の下痢
- みぞおちが痛む、腹が鳴る→半夏瀉心湯
- 顔色が悪い、冷え性→真武湯
- 顔色が悪い、冷え性、心窩部の痛み、食欲不振→人参湯
- 虚弱体質、消化不良、水様便→啓脾湯
- 腹痛、残便感→桂枝加芍薬湯
- 腹が鳴る、冷え性→大建中湯
- 過敏性腸症候群体
- 腹痛、腹が張る→桂枝加芍薬湯
- 口内炎、腹が鳴る→半夏瀉心湯
- 気うつ症状→香蘇散
- 神経質、不安→半夏厚朴湯
ライフスタイルで注意すること
暴飲暴食はしない、食事時間を規則正しくする。火の通ってないものや生ものに注意をする、身体を冷やさない、ストレスを貯めないことがとても大切です。
参考文献
・NHKきょうの健康 漢方薬事典(主婦と生活社)
・漢方相談ガイド(南山堂)
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)
・薬の図鑑(knowledge)