症状の特徴
貧血は血液中のヘモグロビン濃度が低下している状態です。ヘモグロビンが減少する原因には、鉄分の不足、ビタミンB12、葉酸などの不足、マクロファージによる赤血球の破壊、骨髄の異常による赤血球の産生低下、遺伝子の異常によるヘモグロビンの異常などがあります。
貧血になると、全身倦怠感(体のだるさ)、めまい、耳鳴り、頭痛、動悸や息切れ、顔面、眼球結膜の蒼白、舌炎、口角炎などの皮膚・粘膜症状、さじ状爪、嚥下困難、異食症などの症状が現れます。
歩いたら疲れやすくなった。顔色が白いと言われるようになった、爪がスプーンのように掘れたような変形をした。氷を食べたくなる、などの症状があるときは、貧血の可能性を考えましょう。
一般的には閉経前の女性の貧血は多く、あまり心配する必要はありません。閉経後の女性の貧血と、男性の貧血は何らかの病気が隠れている可能性があるので詳しい検査が必要です。
西洋医学の治療
ヘモグロビンの減少原因が、鉄分の不足やビタミンB12、葉酸の不足による場合は、それらを補う鉄剤、ビタミン剤、葉酸を処方して、治療を行います。
貧血の原因が赤血球が病的に破壊されること(自己免疫性溶血性貧血など)によっておこる場合は、ステロイドや免疫抑制薬を用いて治療をします。重症の場合は脾臓の除去手術をする例もあります。
漢方医学の治療
漢方医学では、貧血は「血」の不足による血虚の状態と考えます。血の巡りが悪い瘀血や、気が不足した気虚など、様々な原因が合わさって貧血が生じる場合もあります。漢方治療では、症状の改善と、胃腸の働きを強めて鉄の吸収力を上げることを目的としています。
血虚に対してよく用いられるのは、四物湯です。四物湯は単独ではあまり用いられず、四物湯の成分が含まれた芎帰膠艾湯や十全大補湯が用いられたり、四君子湯と併用されることが多いです。また、芎帰膠艾湯は痔出血や過多出血など出血が原因の貧血に効果があるとされています。
気虚の症状がある貧血は、六君子湯や人参湯が用いられます。胃腸の機能を増進する作用があり、鉄欠乏性貧血に効果があります。冷えがあり、胃腸が弱い女性の貧血には、当帰芍薬散が用いられます。
また、造血作用がある人参養栄湯、十全大補湯、補中益気湯、加味帰脾湯、帰脾湯などが用いられます。気力、体力がともに低下している場合の貧血に効果があります。鉄欠乏性貧血の女性に対し、鉄剤単独、人参養栄湯と鉄剤を併用した場合を比べた場合、併用をした方が貧血の改善が高かったとの報告があります。
貧血に対して用いられる主な漢方処方
以下に体力別に用いられる漢方処方を挙げます。
- 体力が中程度の人
- 唇の乾き、肌荒れ、下腹部の冷え、手足のほてり、不眠、月経不順→温経湯
- 血色不良、食欲不振、精神不安→加味帰脾湯
- 血色不良、胃腸虚弱、食欲不振、息切れ、寝汗、倦怠感→帰脾湯
- 出血傾向、冷え、腹痛→芎帰膠艾湯
- 胃腸の働きの低下、食欲不振、胃もたれ、倦怠感→六君子湯
- 体力がない人
- やせ型、血色不良、胃腸虚弱、食欲不振→四君子湯
- 虚弱体質、皮膚の乾燥、血色不良、冷え、月経不順→四物湯
- 病後の体力低下、疲労感、倦怠感、手足の冷え→十全大補湯
- 頭重感、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸、疲労感→当帰芍薬散
- 胃腸虚弱、疲労感、嘔吐、胃痛、腹痛→人参湯
- 病後の体力低下、食欲不振、疲労感、倦怠感→人参養栄湯
- 病後の体力低下、胃腸の働きの低下、食欲不振、倦怠感→補中益気湯
- 体力無関係
- のどの渇き、皮膚の乾燥、血色不良、頻尿→猪苓湯合四物湯
ライフスタイルで注意すること
偏食、過剰なダイエットはしないようにすることが大切です。貧血は自覚症状がないため、定期的に健康診断を受けることが大切です。
参考文献
・NHKきょうの健康 漢方薬事典(主婦と生活社)
・漢方相談ガイド(南山堂)
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)