全身性エリテマトーデス(SLE)の漢方薬

症状の特徴

膠原病は、自己の免疫細胞が全身の組織を攻撃することによっておこる疾患の総称です。原因は不明で、遺伝的要素を背景に、環境要因、内分泌環境などさまざまな要因が重なって生じると考えられています。

膠原病を代表して全身性エリテマトーデス(SLE)があり、自己の抗体や免疫複合体が多臓器に障害をおこす慢性炎症性疾患です。日本では、3万人弱の人がSLEであると推定され、圧倒的に女性が多くかかっています。

症状は、発熱、疲労、倦怠感、蝶形紅斑、円盤状皮疹、光線過敏症、口腔潰瘍、関節炎、腎障害、血液障害、神経障害など様々です。

西洋医学の治療

ステロイド剤、免疫抑制剤、非ステロイド性抗炎症剤が用いられます。

関節炎や発熱には、非ステロイド抗炎症剤が用いられますが、内臓に症状が及んだ場合の治療の中心はステロイド剤です。初期から大量のステロイド剤を投与するステロイドパルス療法という方法が取られることもあります。特に、中枢神経障害、腎臓障害、血液異常には、大量のステロイド剤が必要です。症状が治まれば、ステロイド剤を減らして行きますが、その後も炎症や再燃を防ぐためにも容量を減らした上で長期間に渡って服用をし続ける必要があります。

その他にも、必要に応じ免疫抑制剤も用いられます。厳密にはステロイドも免疫抑制剤の一種類なのですが「免疫抑制剤」という言葉を使うときは、「ステロイド以外の免疫抑制剤」という意味合いでつかわれることが多いです。

ステロイド剤は炎症を抑える効果や免疫抑制効果が強い一方、感染症、胃潰瘍、高血圧、糖尿病、精神症状などの副作用があり、投与が長期になると骨粗鬆症、無菌性骨壊死などの障害が起こる場合もあり注意を要します。

ステロイドを使用するうえで必要なものが、骨粗鬆症の予防です。現在の骨密度がしっかりしていて、骨粗鬆症の基準を満たさないように見えても、「ステロイド使用に伴う骨粗鬆症の治療」に関しては、異なる診断基準が使用されます。そのため、骨密度がある程度あっても、年齢とステロイド投与量などだけでも使用されます(この基準だと、プレドニン7.5mg以上だとどの骨密度でも予防薬を使用します)

参考:ステロイドに伴う骨粗鬆症のガイドライン

漢方医学の治療

西洋薬による治療が優先とされています。全身性エリテマトーデスを漢方薬だけで治療する例は少なく、一般化した処方はほとんどありません。西洋医学的治療をした上で、症状に応じて漢方薬で改善できる自覚症状に対し、使い分けるのが良いとされています。

ステロイド治療で副作用が重い場合は、ステロイドと似たような作用が期待され柴苓湯を併用することもあります。むくみが出ている人や、ステロイド剤の漸減に併用して柴苓湯が用いられることが多いです。

発熱や顔面紅斑、胃部不快感などが生じる活動期には、柴苓湯と黄連解毒湯が併用されます。

紫斑などの皮膚症状が出ている場合は、桂枝茯苓丸が使用されることがあります。口腔潰瘍や皮疹が生じている場合は、温清飲が効果的です。

SLEには精神症状もよく伴うため、うつ傾向には香蘇散や半夏厚朴湯、不安感には酸棗仁湯がよく用いられます。

膠原病・全身性エリテマトーデスに対して用いられる主な漢方処方

 
以下に体力別に用いられる漢方処方を挙げます。

  • 体力のある人
  • 下腹部の抵抗感→桂枝茯苓丸
  • 発熱、顔面紅斑→黄連解毒湯
  • 心悸亢進、焦燥感→柴胡加竜骨牡蛎湯
  • 体力が中程度の人
  • ステロイド剤、免疫抑制剤との併用、むくみ→柴苓湯
  • 口腔潰瘍→温清飲
  • 体力がない人
  • 不安感、不眠→酸棗仁湯
  • うつ症状→半夏厚朴湯
  • 肩こり、頭痛→香蘇散
  • 月経不順、紫斑→当帰芍薬散

 
 
ライフスタイルで注意すること

光線過敏症ではなくても、日光にあたることを控えることがとても大切です。さらに、冷やしすぎないこと、疲労を避けることも大切です。全身性エリテマトーデスの場合は、西洋薬による治療が基本になってきます。そのため、漢方を使うにあたっても主治医に相談の上で使用することが必要です。

参考文献
・NHKきょうの健康 漢方薬事典(主婦と生活社)
・漢方相談ガイド(南山堂)
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)

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