肩こり・五十肩と呼ばれる症状の特徴
肩こりは、筋肉(具体的には項から頸部、背中の僧帽筋にかけて)が緊張してこわばったような張り感・こり、重苦しさ、痛みなどの不快な自覚症状をいいます。「肩こり」という言葉は、日本独特の表現です。
肩こりの原因は、
①筋肉の発達が不良、筋肉の使いすぎ、悪い姿勢、
②高血圧、低血圧、消化器疾患などの内科的な疾患に伴うもの
③自律神経失調症などの精神的な不調によるもの
④眼の使いすぎによるもの
⑤聴力障害など耳鼻咽喉によるもの
⑥歯のかみ合わせの不具合などによるもの
などが考えられます。
五十肩は、昔は四十肩とも呼ばれていました。医学的には、肩関節周囲炎と呼ばれます。肩を動かした時に痛みが生じたり、動かしづらくなるのが特徴で、40歳から50歳代によく見られる慢性症状です。痛みの程度は、夜寝返りをうてないほど痛みが強い場合から、なんとなく動かすと痛みを感じる場合と症状は様々です。原因は肩関節の周囲にある腱板や関節包に炎症がおこることによっておこりますが詳しい発症メカニズムは不明です。
五十肩に対する西洋医学の治療
肩こりも五十肩も重大な基礎疾患がない場合は、消炎鎮痛剤の内服薬や外用薬、中枢性筋弛緩薬、抗不安薬が用いられます。湿布や軟膏などの外用薬は「気休め」程度にしかならない場合が多いです。
肩の運動制限がある場合や、痛みの症状が強いときは、圧痛点(トリガー・ポイント)の注射や鍼灸・リハビリ・マッサージなどの理学療法が行われます。
五十肩に対する漢方医学の治療
肩こりは様々な体調不良から生じることが多いため、漢方医学では、陰陽、虚実、気血水の状態をみて治療をしていきます。冷え性かほてり性か、不眠やうつ症状、イライラなど精神的に不安定な面がないかどうか、下痢や便秘など消化機能はどうか、月経痛や月経不順などの不調はないかなど、全身の状態をみます。
筋肉の緊張が強い場合は、筋の緊張を緩める作用のある柴胡や葛根、芍薬が含まれている漢方薬を用います。痛みが強い場合は、鎮痛作用のある麻黄、葛根、柴胡、朮、薏苡仁、独活、防風、防已、当帰が含まれている漢方薬を用います。
肩の使いすぎによる肩こりには、葛根湯を用います。急性の肩こりで頓服薬として用いられます。肩こりで冷え性が強い場合は、体を温める作用が追加された葛根加朮附湯が適しています。慢性副鼻腔炎が原因で肩こりが生じる場合は、葛根湯加川芎辛夷が効果的です。寝違いなどで起こる肩こりには、芍薬甘草湯が用いられます。女性に対しては、月経痛、月経不順などに伴って起こる肩こり症状には、体力がない人には当帰芍薬散が。体力が中程度の人には、桂枝茯苓丸や加味逍遙散、体力のある人には桃核承気湯が用いられます。
五十肩に対しては、鎮痛に対する治療が中心になります。痛みが急に起こり、肩に熱や腫れが生じる急性炎症症状がでる場合もあります。鎮痛効果のある麻黄、葛根、柴胡、朮、薏苡仁、独活、防風、防已、当帰が含まれている漢方薬が主に用いられます。体力の有り、熱を帯びた痛みがある場合は、越婢加朮湯が用いられます。麻黄が含まれていますので、長期にわたって服用するのには適しません。
肩こり・五十肩に対して用いられる主な漢方処方
以下に体力別に用いられる漢方処方を挙げます。
<肩こり>
- 体力がある人
- 急性症状、痛みがある→葛根湯
- 痛みがあり、冷え性体質である→葛根加朮附湯
- 便秘症状がある、イライラ→桃核承気湯
- 月経痛、月経不順がある→桂枝茯苓丸
- 体力が中程度な人
- 更年期障害がある、月経不順、月経痛がある→加味逍遙散
- 消化器が弱い→桂枝加葛根湯
- 体力がない人
- 冷え性→桂枝加朮附湯
- 月経不順、月経痛手、低血圧、立ちくらみ→当帰芍薬散
<五十肩>
ライフスタイルで注意すること
通常の肩こりや五十肩は温めると、血流がよくなり痛み症状などが緩和する場合が多いです。蒸しタオルや入浴で体を温めるのが効果的です。
参考文献
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)
・漢方薬事典(主婦と生活社)
・漢方相談ガイド(南山堂)