神経因性膀胱とは、脳から膀胱や尿道につながっている神経が何らかの原因で障害され、尿を膀胱に溜めたり排尿したりする機能が正常に働かない状態を言います。
膀胱が尿でいっぱいになったことを脳に伝える信号や、尿道の緊張を緩めて排尿を促す脳からの命令の伝達が上手くいかないため、尿が貯まっているのに尿を出したいと感じなくなり、貯まった尿頻尿や尿漏れ・尿が出ないなどの排尿障害が起こります。
■神経因性膀胱の原因
神経因性膀胱は、病気やけがによって排尿に関わる神経が損傷されることで起こります。
・交通事故などによる脳や脊髄の損傷
・腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症
・脳梗塞、脳出血
・パーキンソン病
・糖尿病性神経障害
・子宮がんや大腸がんなど骨盤内手術による末梢神経の損傷
など、神経の障害により、「膀胱が貯まったから尿を出そう」という信号の連絡に障害が出ます。
神経因性膀胱の症状
神経因性膀胱の症状は損傷された神経の場所によって異なります。仙髄より中枢に近い側の神経が傷害された「上位型」と、抹消側の神経が傷害された「下位型」に分類されます。
主に上位型では膀胱が過敏になり頻尿や残尿感・失禁などの蓄尿障害が、下位型では膀胱が弛緩して尿意を感じにくくなり尿が出にくい・膀胱がいっぱいになって漏れ出てくるなどの排尿障害が起こります。
多量の残尿や尿の逆流により、膀胱炎・腎盂腎炎などの尿路感染や、腎機能障害が引き起こされることがあるので注意が必要です。
尿が膀胱でパンパンになると、腎臓で尿を作る直後のところまでパンパンに膨らみ、水腎症という状態になってしまってもなかなか自覚症状はありません。しかし、約3か月もすると腎臓の機能は大分落ちてしまいます。そのため、早めに腹部超音波などの検査をし、水腎症があれば外科的な処置が必要となることを覚えておきましょう。
神経因性膀胱の治療
頻尿などの蓄尿障害には、膀胱の異常収縮を抑える薬の使用・膀胱や尿道を支えている「骨盤底筋」を鍛える体操・排尿間隔を長くするための膀胱訓練を行います。
尿が出にくいなどの排尿障害には、膀胱の収縮を促進する薬や尿の出口の締まりを緩める薬の使用・排尿時に下腹部を圧迫して排尿を助ける訓練・カテーテルを使用した導尿などの治療を行います。
神経因性膀胱で使用される漢方薬治療と対策
東洋医学では排尿に関わりが深い臓器は「腎」です。腎には尿を作り、また異常に漏れ出てしまうことがないようにする働きがあります。
膀胱の働きは腎にコントロールされているため、腎の機能低下は蓄尿障害や排尿障害を起こす原因となります。また体内の余分な熱と水分が結びついたもの(湿熱)が、膀胱に入って機能を低下させていることもあります。
その他、「気(活動エネルギー)」が不足することで臓器の機能低下が起こっている場合は補う漢方薬(補気剤)が効果的です。
・八味地黄丸・・・体を温める力をつけ、水分の代謝を良くし腎の働きを助ける作用があります。体力があまりなくて疲れやすく、主に腰から下が冷える、胃腸は丈夫であるといった人の泌尿器症状や腰痛に用いられます。足のむくみやしびれがある場合などは、余分な水を除く生薬を更に加えた牛車腎気丸を使用します。
・清心蓮子飲・・・上半身の熱や炎症を冷まし、精神を安定させ体内の余分な水分を利尿する作用があります。体力が弱く神経を使ってイライラするタイプの人で、下半身が冷えて頻尿や残尿感・排尿痛などの症状がある人に効果的です。また八味地黄丸では胃腸に負担がかかるという人に試すこともあります。
・猪苓湯・・・体内の熱や炎症を冷まし、余分な水分を利尿する作用があります。排尿困難や残尿感などのほか、膀胱炎や尿路結石などによく用いられます。下腹部に手を当てるとやや熱感があるような場合に使用します。比較的体質を問わず使用できる漢方薬です。
・補中益気湯・・・胃腸の調子を整え、消化吸収力を高めて気を補う作用があります。また内臓などの筋肉の緊張を高める作用があり、弛緩した膀胱に対する効果が期待できます。補気剤として様々な処方と組み合わせても用いられる漢方薬です。