せん妄の原因と症状
せん妄とは、環境の変化や疾患や薬物など何らかの原因で一時的に脳の機能が失調し、注意力の散漫や自分のことが分からなくなるなどの症状が起こることをいいます。
高齢の方や、認知症のある方が入院(体調不良+環境変化)をきっかけにしてせん妄になることが多いです。早期に適切な治療をすることで回復することが多いですが、せん妄の状態が長くなると、夜間に興奮し日中に寝ているためリハビリが進まず、弱ってしまうため早期の対応が必要です。
重症化すると生命に関わる場合もあるので注意が必要です。この場合は、単なるせん妄だけでなく、もともとせん妄になるきっかけになる病態が重症の物を見落としているケースもあるため、全身状態の評価を忘れてはいけません。
このページでは、せん妄のポイントと、せん妄の際に使用される漢方薬につき解説します。
せん妄の症状
せん妄では以下のような症状が急に起こり、数時間~数日続くのが一般的です。1日の中で症状の変動が見られ、夕方や夜間に悪化することが多いです。
・ぼんやりする、意識がもうろうとしている
・話のつじつまが合わない
・自分のことや、今いる場所などが分からない(見当識障害)
・最近のことが思い出せない(記憶障害)
・ないはずのものが見える(幻視・幻覚)、実際の出来事と違うことを言う(妄想)
・興奮、不安、抑うつなど情緒の不安定
これらの症状により、転倒・転落・徘徊・誤嚥などの危険や、自分や周囲の人が怪我を負ってしまう、点滴を抜いてしまったりして疾患治療に支障をきたす、などの危険もあるので対策が必要になります。
せん妄の原因
せん妄の発症には様々な因子があり、もともとせん妄を起こしやすい心身状態に、環境などの刺激が加わることによって引き起こされると考えられています。
・脳の機能が低下しやすい要因
加齢、認知症、脳神経疾患の既往など
・脳の機能に影響を及ぼす可能性がある要因
身体疾患(脳神経疾患、循環器系疾患、呼吸器系疾患、代謝異常、等)、脱水、疾患治療のための薬物など
・環境要因
入院など生活環境の変化、寝たきり、睡眠リズムの乱れ、視覚・聴覚刺激の過剰または遮断(眼鏡や補聴器が合わないと起こりやすい)、心身的なストレスなど
せん妄の治療
せん妄の治療にはまず要因を取り除くことが必要です。脱水や低血糖・感染症など引き金となった状態の改善、疾患の治療、不眠の解消などの対策をできるだけ行います。
またストレスを緩和し、身近な人や気心が知れた人が付き添う、いつも使っているものを手元に置く、など安心できる環境を作ることが重要であり予防の効果もあります。
薬物治療としては、抗精神病薬や抗不安薬・睡眠導入剤などを症状に応じて使用することがあります。ベンゾジアゼピン系の睡眠剤でせん妄となってしまうときに、オレキシン受容体遮断薬(ベルソムラ)などを使用するケースもあります。
効果的な漢方薬治療と対策
せん妄における漢方薬治療では、発症時の症状を緩和し回復を助けること、また不眠を解消したり体力をつけたりすることで発症を予防する、などの効果を期待し選択します。
興奮や抑うつなどは、情緒や自律神経の安定に関わる「肝」の働きに関係します。また、せん妄を起こしやすい要因である加齢は、生命の源である「腎」の働きの低下に関係があります。その他、「気(元気・気力などの生命エネルギー)」や「血(血液とその働き)」のバランスをとることは、体力低下や不眠の解消に役立ちます。
・抑肝散・・・肝の過剰な働きを抑え、興奮やイライラなどを落ち着かせる作用があります。怒りの感情が抑えられないなど「神経の高ぶりがある」ことが使用目標であり、せん妄の興奮状態や認知症の周辺症状だけでなく、小児の夜泣き・イライラからくる不眠、などによく用いられます。高齢者では胃腸が弱い人も多く、その際には抑肝散加陳皮半夏を使用すると、よりトラブルが少なく使用できることもあります。
・柴胡加竜骨牡蛎湯・・・肝の働きを整え、気持ちを落ち着かせてイライラやうつ状態を改善する作用があります。比較的体力があり、みぞおちの辺りが張る感じがある、ストレスでイライラ・不安感・不眠などの症状がある人に向いています。
・酸棗仁湯・・・精神を落ち着かせ、心身を滋養し、穏やかな眠りへと誘う作用があります。体力があまりなく、心身が疲労して寝つきが悪いような人に向いています。
・帰脾湯・・・胃腸の調子を整え、気や血の不足を補い、精神を落ち着かせる作用があります。日頃から胃腸が弱く、疲労倦怠感や貧血傾向がある、精神的ストレスで動悸や不安・不眠などがある人に向いています。
・八味地黄丸・・・腎の働きを補う代表的な漢方薬です。体を温め、滋養し、体内の水の巡りを良くする作用があります。体力が弱く冷えがあり、頻尿・尿量減少などの泌尿器症状や、足腰の冷え・痛みなどの下半身の症状がある人に効果的です。
・十全大補湯・・・気と血を補い、体を温め、低下した体力を回復する作用があります。疲労感など気の不足と、皮膚の乾燥や貧血傾向など血の不足が同時に見られる人の、体力や免疫力の回復に幅広く使用されます。