長引く腰痛への鍼灸治療

腰痛は、背中の痛みで、肋骨の下からお尻の一番下までの範囲で痛みを感じる症状です。

平成22年の国民生活基礎調査によると、腰痛は日本人にとって最も多い健康問題であり、男性では第1位、女性では第2位の頻度で報告されています。

腰痛は、明確な原因がある場合と、原因が明確でない「非特異的腰痛」に大別されます。

鍼灸施術が適していると考えられるのは、原因がはっきりしない「非特異的腰痛」と、筋肉が痛む「筋筋膜性腰痛」です。実際の腰痛の患者さんの約80%が、鍼灸が有効なタイプと考えられています。

また、腰痛の背景には社会的ストレスや心理的ストレスが関連していることもあり、ストレス緩和の一環として鍼灸施術が役立つ可能性があります。

原因がはっきりしないと整形外科で言われる腰痛
不安やストレスの改善が良い方向に働く腰痛

ただし、腰部椎間板ヘルニアの急性炎症がある場合や圧迫骨折などの状態では、鍼灸施術は避けるべきです。急性の痛みが和らいだ後に鍼灸が有効な場合もあります。まずは整形外科に受診いただき、「怖い病気はなさそう」ということが確認された後、頼っていただければ幸いです。

腰部脊柱管狭窄症の場合、保存療法(手術ではなく様子を見ましょうとなった場合)の腰痛に対して、鍼灸施術が行われることがあります。ただし、神経の圧迫が強い場合(しびれが強い場合や麻痺)は施術が難しいことが一般的です。

神経の末端である下肢に痺れや痛みを感じる場合、鍼灸施術は神経の血流改善により症状の緩和に寄与する可能性があります。

目次

なぜ腰痛に鍼灸治療が有効なのか

1.軸索反射による血流増進(CGRP、NO)ゲートコントロール
2.過剰な筋収縮を引き起こしている神経興奮の緩和(例えば、筋交感神経の抑制や、α運動ニューロンの抑制など、中枢がらみ)
3.鍼によって生じる組織損傷(実験では手技を加えると有効)に起因するアデノシンの放出による鎮痛(局所で痛みを抑える働きがあります。)

鍼灸や漢方は、結果→なぜ効果が出ているか?という結果から始まっている伝統的な方法で、なぜ効果を発揮するかの考察が進んできている分野です。そのため、痛みが取れる理由については、まだ仮説段階です(そこが西洋医学と違って面白いところです)

軸索反射による血流増進という機序

鍼灸による刺激が身体に与えられると、神経系が反応してさまざまな反応が起こります。その中で重要な働きの一つが「軸索反射による血流増進」です。

軸索反射は、神経の刺激が伝わることで起こる反射的な応答のことです。鍼灸による刺激が神経を刺激すると、特にCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)とNO(一酸化窒素)という物質が放出されます。

CGRPは血管を拡張させる作用があり、NOは血管を拡張させるだけでなく、血液の流れをスムーズにする働きも持っています。これによって血流が増加し、組織に酸素や栄養素が適切に供給されるようになります。

血流増進による効果は、痛みの軽減や筋肉の緊張緩和にも関連しています。筋肉の緊張は神経の興奮を引き起こす要因の一つであり、鍼灸によって血流が増加することで筋肉の緊張が緩和されると、神経の興奮も軽減されます。

以上のように、鍼灸による刺激が軸索反射を介してCGRPとNOの放出を促し、血流増進を引き起こすことで痛みの軽減や筋肉の緊張緩和が起こるのが軸索反射による機序と考えられています。

過剰な筋収縮を引き起こしている神経興奮を緩和する働き

鍼灸の刺激は、身体の神経系に作用し、神経興奮の調整に関与するという考え方があります。
特に、過剰な筋収縮を引き起こしている神経興奮を緩和する働きが注目されています。この神経興奮の緩和には、筋交感神経の抑制やα運動ニューロンの抑制など、中枢神経系が関与しています。

まず、筋交感神経の抑制による効果について説明します。筋交感神経は身体の緊張反応やストレス反応を制御する神経であり、過剰な筋収縮や緊張を引き起こし痛みの要因となることがあります。鍼灸の刺激は、神経系に働きかけることで筋交感神経の活動を抑制し、筋肉の緊張や過剰な筋収縮を和らげる効果があります。

α運動ニューロンは、筋肉の収縮を制御する神経です。鍼灸の刺激は、中枢神経系に働きかけてα運動ニューロンの活動を抑制し、筋肉の緊張や過剰な筋収縮を緩和することで痛みを軽減する効果があるという仮説が立っています。

これらの作用によって、鍼灸は過剰な筋収縮を引き起こしている神経興奮の緩和を促し、痛みの軽減が実現されるのです。筋交感神経の抑制やα運動ニューロンの抑制など、中枢神経系の調整が重要な役割を果たしています。

鍼によって生じる組織損傷に起因するアデノシンの放出による鎮痛

鍼灸による刺激により、身体の組織に一時的な微細な損傷を与えることができます。この組織損傷に対する体の反応の中で、痛みに対して重要な働きの一つが「アデノシンの放出」です。

アデノシンは、身体の細胞内で生成される化学物質であり、鎮痛作用を持っています。鍼によって組織が損傷されると、このアデノシンが放出されます。

アデノシンは、局所的に作用し、痛みを抑える働きがあります。具体的には、アデノシンは神経興奮を抑制することで痛みを軽減したり、炎症反応や神経の興奮に関与する物質の放出を抑制し、痛みの伝達を抑制する効果があります。

つまり、鍼灸による刺激によって生じる組織損傷は、アデノシンの放出を促し、局所的な鎮痛効果をもたらします。この効果は、痛みの軽減や炎症の緩和に関与していると考えられています。

以上のように、鍼灸による刺激によって生じる組織損傷は、アデノシンの放出を引き起こし、局所的な鎮痛効果をもたらします。アデノシンは神経興奮を抑制することで痛みを軽減し、炎症反応の抑制にも寄与します。

痛みのモデルを絵でみたい場合は、こちらなどが参考になるかと思います。

腰痛に対する鍼灸治療のまとめ

鍼灸治療は、調べても原因がはっきりしない慢性的な腰痛に相性がよいです。

もしなかなか改善しない腰痛がある場合、一度ご相談ください。

色々なメカニズムが解明されつつありますが、大切なことは機序よりも結果を出して今の症状を和らげることです。

そのお力になれるよう全力でお応えしますので、よろしくお願いします。

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