吐き気への鍼灸と東洋医学的な考え方

東洋医学では、吐き気があり吐物が出ないものを「嘔」、吐物があるものを「吐」というように分け、昔から嘔吐という名称で治療を行っていました。

東洋医学では、吐き気は身体のバランスが崩れた結果として現れる症状と捉えられます。特に、気(き)、血(けつ)、津液(しんえき)の循環の乱れが関与していると考えられています。また、吐き気は「胃(い)」や「脾(ひ)」といった消化器系の臓腑の問題に関連することが多いとされています。

鍼灸治療の基本的な考え方

鍼灸治療では、吐き気を緩和するために全身のエネルギーの流れ(気血の流れ)を整えることを目指します。特に、次のような目的で治療を行います。

  • 胃気を整え、正常な消化機能を回復させる。
  • 肝の気を調整し、ストレスや情緒の影響を軽減する。
  • 脾胃を補い、消化器の働きを強化する。
  • 痰湿を取り除き、身体の余分な水分を排出する。

中脘(ちゅうかん)(任脈)
胃の中心部に位置する経穴で、胃気の調整に重要です

足三里(あしさんり)(足陽明胃経)
消化器全般の不調に対応し、胃の気を調整する効果があります。全身のエネルギーを補う作用もあります。

内関(ないかん)(手厥陰心包経)
吐き気や嘔吐に対して最もよく用いられる経穴。気の流れを調整し、胃の機能を整える作用があります。

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エビデンス

婦人科手術後の患者様への鍼灸施術では、内関(ないかん)への鍼刺激(置鍼あるいは鍼通電)では、制吐薬(吐き気止めの薬)と同じ程度の効果があると報告されています。また、抗がん剤治療による吐き気・嘔吐も抑えられることがしられています。

多くの論文では、内関(ないかん)への鍼刺激が使用されています。

内関の基本情報

  • 経穴の位置
    内関は、前腕の内側に位置する経穴です。手首の横シワ(手関節掌側横紋)の中央から肘方向に向かって、指2本分(約2寸)上のところにあります。正中を走る2本の筋肉(長掌筋腱と橈側手根屈筋腱)の間に存在します。
  • 所属経脈
    手厥陰心包経(しゅけついんしんぽうけい)に属し、心包(しんぽう)という臓腑と深い関わりがあります。心包は心臓を保護する役割を持ち、東洋医学では感情の調整や気血の循環に影響を与えるとされています。
  • 主な作用
    内関は、「絡穴(らくけつ)」および「八脈交会穴(はちみゃくこうえけつ)」の一つです。特に気の流れを調整し、心と胃のつながりを整える役割が強調されています。

症例別治療法

吐き気の原因によって治療方針が異なります。以下にいくつかの例を示します。

  • ストレス性の吐き気
    肝気の犯胃が原因の場合、太衝や内関を中心に治療を行います。ストレスの緩和を重視し、必要に応じて頭部や肩甲部の緊張を緩める補助的な鍼灸を追加します。
  • 食べ過ぎや冷えによる吐き気
    胃気の上逆や痰湿が原因と考えられる場合、中脘や足三里、公孫などを用いて胃腸の働きを回復させます。必要に応じて温灸を併用し、冷えを取り除きます。
  • 慢性的な吐き気
    脾胃虚弱や腎陽虚が疑われる場合、脾胃や腎を補う治療を行います。内関、足三里、中脘に加え、腎兪(じんゆ)や関元(かんげん)を用いることが多いです。

東洋医学では、吐き気に関しては東洋医学的な評価で、体調を判断し、症状の原因となりうる要素にも注意しながら、吐き気を直接和らげるツボへ刺激します。

もし、嘔気がなかなか改善せず、なんとか改善させたい、という場合、是非当院にご相談ください。

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