
この論文は、2017年から2022年までに発表された鍼灸に関するシステマティック・レビュー(SR)とメタアナリシス(MA)を対象に、鍼灸のエビデンスを整理し、その有効性を評価することを目的としています。以前(2005年~2017年)に行われた同様のレビューのアップデート版に相当します。
背景
過去数十年で鍼灸研究の質と量は大幅に向上・増加してきています。多数の疾患や症状に対する有効性が検討されてきています。その反面、研究数が増えすぎて、どの疾患に対してどの程度エビデンスがあるのかを把握するのが難しくなっています。
対象期間:2017年1月1日~2022年12月31日 データベース:PubMed キーワード:「acupuncture(鍼灸)」 絞り込み条件:「systematic review」「metanalysis」
- 評価結果
- Evidence of positive effect(有効性がはっきり示されている):10疾患
例)- 慢性痛(非特異的な腰痛・首痛・肩痛・変形性関節症など)
- 腰痛
- 変形性膝関節症
- 術後の悪心・嘔吐(PONV)
- 片頭痛の予防
- 緊張型頭痛
- がん関連倦怠感(Cancer-related fatigue)
- 更年期障害の諸症状(ほてり・抑うつなど)
- 女性不妊(生殖医療補助として)
- 慢性前立腺炎/骨盤痛症候群(男性)
- Evidence of potential positive effect(可能性が高い):82疾患
- 例:喘息、COPD、アレルギー性鼻炎、うつ病、不眠症、坐骨神経痛、線維筋痛症、糖尿病性神経障害、がん関連の痛みや副作用軽減など、多岐にわたる。
- Insufficient/unclear evidence(エビデンス不十分):86疾患
- 例:肩関節周囲炎、頸部痛、糖尿病全般、パーキンソン病、てんかん、機能性便秘、炎症性腸疾患、統合失調症、PTSDなど。
- No evidence/negative evidence(否定または効果なし):6疾患
- 例:乳児の疝痛、末梢神経障害性疼痛、脳卒中後のしゃっくり、B型/C型肝炎、緑内障、視神経萎縮など。
- Evidence of positive effect(有効性がはっきり示されている):10疾患
- 以前のレビューとの比較
- 2005~2017年頃に発表されたレビューと比べ、「Evidence of positive effect」および「Evidence of potential positive effect」のカテゴリに分類される疾患が増加していることが確認されました。
- 特に、がん関連倦怠感、更年期症状、不妊などは以前のレビューより高いエビデンスレベルに格上げされています。
- 結論
- 2017~2022年に発表されたレビューを総合すると、鍼灸は10の疾患で「有効性の高いエビデンス」が示され、82の疾患で「有効性の可能性」が示唆された。
- ただし、全体としては未確立・不十分・効果なしとされる疾患も多く、さらなる研究が必要とされる。
- 研究の質は確実に向上しており、臨床現場での鍼灸の活用範囲も広がっていくと考えられる。
目次
5. まとめ
- 鍼灸のエビデンスはこの5年間で大きく進展しており、特に慢性痛や頭痛、更年期障害、がん関連倦怠感などで効果がはっきりと示されるようになりました。
- その一方で、エビデンスがまだ不十分な疾患も多く、今後はさらなる高品質の臨床試験を増やすことでエビデンスの精度を高めることが期待されます。
- 本論文は「鍼灸が効く疾患」と「まだ十分に分かっていない疾患」「効果がないか、ほとんど証拠がない疾患」を整理しており、鍼灸に関わる臨床家や研究者だけでなく、保険制度や医療政策に携わる方々にとっても有用な指針となる内容です。