骨粗しょう症という病気の特徴
骨量が減少することで、骨がもろくなり、骨折しやすくなった状態を骨粗しょう症といいます。原因によって、変発性骨粗しょう症と続発性骨粗しょう症に大きく分類されます。
原発性骨粗しょう症は、加齢、閉経、乱れた生活習慣(飲酒や喫煙)が原因でおこる疾患です。
続発性骨粗しょう症は、甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症、性腺機能不全、クッシング症候群などの特定の疾患が原因となっておこる疾患です。
骨は、道路工事に例えるとわかりやすいです。道路は経年劣化で痛んでいきます。年末や年度末になると、道路工事の作業員の方が道路を一旦掘り起こし、新しく作り直すことで、高い強度の道路ができています。骨も同じで、骨を溶かし(骨吸収)、作り直す(骨形成)ことで、頑丈な骨を作ります。
年齢が上がったり閉経を迎えると、このサイクルに乱れが生じます。
骨粗しょう症は、骨代謝のバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回ることで骨量が低下し、骨の組織がスカスカ状態になっていきます。加齢とともに発症率は上昇し、女性は男性の3倍と言われています。
しかし、骨密度の低下は骨折しなければ症状は出てきません。骨粗しょう症自体に自覚症状はなく、進行して、骨量が低下するにしたがい、転倒などで骨折をして初めて気づくことが多いです。
そのため、検診なども利用し骨密度の測定を行うことが薦められます。幸いにも骨粗鬆症検査の放射線被ばく量はとても小さく、胸のレントゲン写真と比べてもさらに小さいと言われているため、積極的に調べてみることを薦めます。
骨粗鬆症に対する西洋医学の治療
西洋医学による治療では、骨粗しょう症の治療(骨密度を挙げる・保つ治療)と並行して、圧迫骨折で引き起こされた腰痛の治療も行われます。
骨粗しょう症の治療は、薬物療法、食事療法、運動療法が中心です。骨の吸収を抑える薬、骨の形成を促す薬、骨の吸収と形成を調整する3種類の薬が用いられます。骨の吸収を抑える薬には、ビスホスネート製剤(ボナロン®やボノテオ®)、RANKL阻害剤(プラリア®)形成を促す薬には、副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチド製剤)があります。また、活性型ビタミンD3製剤も用いられます。
注射薬で骨を強くする治療法(プラリア®・テリパラチド製剤)はより骨密度を上昇させるとして、圧迫骨折の予防として用いられています。
運動療法では、ウォーキングなどで体を動かすことにより、骨の形成が促され、骨を強化します。
食事療法では、骨を形成するカルシウムやマグネシウム、ビタミンDなどが含まれる食材を積極的にとるように指導をするとよいとされていますが、最近ではどれくらいのカルシウムを取るべきなのかで意見が割れています。骨折をしないように日常生活での転倒予防のための適度な運動や、ある程度カルシウムを多く含む食事の摂取をするバランスの良い生活がよいでしょう。
漢方医学の治療
漢方医学では、直接骨の量をふやす治療はありません。体質を改善することによって、骨量が低下しにくい体づくりを目的に治療をしていきます。最近は骨粗鬆症の認知度が上がってきて、治療薬も増えてきているので、漢方薬を考える際には本当に使った方がよいのか、かかりつけ医の先生とよく相談してください。
話を戻しますと、漢方医学的には骨がもろくなるのは、腎の働きが弱くなった腎虚の状態と考えます。まずは、バランスを整える漢方薬を選択し、それから患者さんの症状や生活スタイルに合わせた漢方薬を用いていきます。
骨粗しょう症に対する鎮痛効果や骨量維持効果が期待され、よく用いられているのが、桂枝加朮附湯です。主に関節痛、神経痛に用いられますが、体力が虚弱で手足が冷えてこわばり、尿量が少ない人に効果的です。配合生薬の桂皮、芍薬、大棗、蒼朮は、いずれも鎮痛作用があるとされる生薬です。芍薬や大棗には筋肉の緊張緩和作用もありこわばり症状にも効果があると考えられます。さらに蒼朮には利尿作用があり、体内に滞っている余分な水分を排泄する効果もあります。
牛車腎気丸は、骨密度を改善する効果があると報告されています。体力が中程度以下で疲れやすく、四肢が冷え、下肢痛、腰痛、しびれ、むくみなどに用いられる漢方薬で、特に高齢者の老化減少という目的によく処方されます。配合生薬の大部分を占める地黄には、補血作用、消炎作用、強壮作用があります。また、沢瀉や茯苓の利尿作用によって、体内の余分な水分を排泄することで、むくみを改善し、痛みを緩和します。そして、山茱萸や山薬の滋養強壮作用で、老化によって弱った機能を滋養します。
その他に、痛みを緩和するというよりも体質を改善し、元気をつけるという目的で、十全大補湯や補中益気湯、真武湯を用いることもあります。
骨粗しょう症に対して用いられる主な漢方処方
以下に骨粗しょう症に用いられる漢方処方を挙げます。
- 体力がない人
- 発汗、手足の冷え、手足の関節の痛み→桂枝加朮附湯
- 体力が中程度以下、のどの渇き、高齢者のかすみ目、疲労感、倦怠感、手足の冷え、足のむくみ、精力減退→牛車腎気丸
- 胃腸虚弱、食欲不振、疲労感、倦怠感、寝汗、貧血→十全大補湯
- 虚弱体質、手足の冷え、腰の冷え、疲労倦怠感、腹痛→真武湯
- 虚弱体質、胃腸虚弱、食欲不振、疲労倦怠→補中益気湯
ライフスタイルで注意すること
骨密度が減ってくると、ちょっとした転倒でも骨折をしてしまいます。骨折をして、それ以降寝たきり生活になってしまわないためにも、日常生活での転倒予防のために適度な運動をしたり、飲酒を控えたり、自分で気をつけることが大切です。
参考文献
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)
・漢方薬事典(主婦と生活社)
・痛み・鎮痛の基本としくみ(秀和システム)
・整形外科疾患(成美堂出版)