尿を漏らすことを遺尿と言いますが、一般的に5~6歳を過ぎても夜間の睡眠中の遺尿を夜尿症と言います。
膀胱の機能や自律神経系が未発達であることや、ストレスなどの心理的な原因が考えられます。
夜尿症は、夜間の尿量と、機能的な膀胱容量から多尿型、膀胱型、混合型の3つに分けられます。
①多尿型:夜間の尿量が250ml以上で量が多いために起こります。抗利尿ホルモンの分泌不足、多飲、塩分過多、不規則な生活などが原因と考えられます。
②膀胱型:膀胱の知覚過敏、膀胱の容量の減少が考えられます。
③混合型:多尿型と膀胱型の混合タイプです。
西洋医学の治療
上記のタイプに基づいた生活指導と治療を行います。
生活指導としては、
①の多尿型には、夕食後の水分の摂取を控えさせます。また塩分を制限します。
②の膀胱型には、日中に排尿を我慢させる訓練をして、膀胱の容量を増やします。
③の混合型は食事指導と排尿抑制訓練の両方を行います。
薬物治療としては、①には、三環系抗うつ薬やデスモプレシンを処方します。
②には、抗コリン薬や三環系抗うつ薬を処方します。
漢方医学の治療
汗かきで冷たいものを沢山飲みたがるタイプには、清熱作用のある漢方薬を用います。
冷えによって多尿になるタイプには、利水作用のある漢方薬を用います。漢方医学では、単なる「おねしょ」を治すだけでなく、全身的な症状を改善するこをを目的とし処方します。
夜尿症のこどもは、寒証や虚証であることが多いです。そのため第一選択薬としては、小建中湯が用いられます。小建中湯は小児の虚弱体質、疲労倦怠、慢性胃腸炎、小児夜尿症、夜泣きによく用いられます。穏やかな発散・発汗作用のある桂皮や体を温める生姜が頻尿や多尿を改善すると考えられています。
虚弱体質で、のぼせや寝ぼけが見られる場合は、桂枝加竜骨牡蛎湯が用いられます。発散・発汗作用のある桂皮、体を温める生姜に加えて、気分を落ち着かせる竜骨、牡蛎が加わっているため、神経過敏になっている場合に効果があります。
常時頻尿が見られる場合は、苓姜朮甘湯が用いられます。体を温める生薬が配合されているため、腰から下が冷えて多尿になる場合に効果があります。
暑がりで水分をよくとるために多尿が見られる場合は、白虎加人参湯が用いられます。石膏や知母や粳米には熱を冷ます作用があり、ほてりを改善して多量に水分を摂取するのを防ぐことで多尿を改善すると考えられています
日中は多くないのに、夜間の尿量が多くなる場合は葛根湯を用います。葛根湯にも穏やかな発汗作用があるため、夜尿症にも効果があります。
夜尿症に対して用いられる主な漢方処方
以下に体力別に用いられる漢方処方を挙げます。
- 冷えがあり、体力がない人
- 腹痛・夜泣きをする→小建中湯
- のぼせ、寝ぼけ、神経質→桂枝加竜骨牡蛎湯
- 下半身の冷え→苓姜朮甘湯
- 体力は中程度、体力がある人
- 日中の尿量が少ないが、夜になると多くなる→葛根湯
- 暑がり、冷たいものを欲しがる→白虎加人参湯
ライフスタイルで注意すること
おねしょがなかなか治らなかったり、おねしょをして失敗しても、あせらず、すぐに怒ったりするのは禁物です。
なかなか治らなくて、親が不安になったり、怒ったりすると、こどもの不安感が増す一方になってしまいます。おねしょはいずれ治る病気であり、気長にゆっくりと構える姿勢が大切です。
普段の食生活でも、夕方以降の水分を制限することも大切です。また、体を冷やさないように、靴下や必要であれば腹巻をして温めることも大切です。
参考文献
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)
・漢方薬事典(主婦と生活社)
・漢方相談ガイド(南山堂)