坐骨神経痛の漢方薬 原因と症状による漢方薬の使い分け

■坐骨神経痛とは

腰から足にかけて伸びている「坐骨神経」が、何らかの原因で圧迫されたり刺激されたりすることで生じる神経痛のことです。坐骨神経は腰椎下部と仙骨の神経からはじまり、骨盤からお尻の筋肉の下や太ももの裏側を通り、足の先まで伸びている長い神経です。お尻から太ももの裏側にかけて痛みやしびれを感じるケースが多いのですが、人によりかかとや足先まで広範囲に症状が出ることもあります。

■坐骨神経痛を起こす主な原因と症状

腰椎椎間板ヘルニア

 腰椎の骨と骨の間でクッションの役割をする「椎間板」の一部がはみ出し、坐骨神経を圧迫することで痛みやしびれが生じるものです。若年者の坐骨神経痛の原因として多く見られます。とくに、脊椎の中で下のほう(下部腰椎であるL4/5やL5/S1)にヘルニアがあると起こりやすくなります。

腰部脊柱管狭窄症

 背骨には脳からの神経の通り道である「脊柱管」という隙間があります。この脊柱管が老化による骨の変形などが原因で狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれ、麻痺などが起こります。高齢者の坐骨神経痛の原因となることが多い病気です。

腰椎すべり症

腰椎が前や後ろに「ずれて」しまい脊柱管が狭くなる病気で、腰や下肢の傷みやしびれといった脊柱管狭窄症と同様の症状が出ます。女性の閉経に伴う骨粗鬆症が原因で起こることが多いです。

梨状筋症候群

梨状筋とはお尻の奥にあって、仙骨と大腿骨の付け根の部分をつなぐ筋肉です。梨状筋が原因で生ずる痛みを梨状筋症候群と言い、梨状筋の圧迫による坐骨神経痛もこれに該当します。原因としてはお尻の打撲などのケガや、スポーツによる筋肉の使い過ぎ、長時間のデスクワークでお尻を圧迫し続けることなどがあります。

■一般的な治療法

・薬物療法・・・坐骨神経痛の痛みやしびれに対しては、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)や神経性の疼痛を治療する薬を使用します。その他筋肉の緊張を和らげる薬や、血流を改善する薬を症状緩和の目的で使用することもあります。

・神経ブロック療法・・・局所麻酔薬を用いて痛みが神経を伝わるのをブロックします。神経やその周辺に局所麻酔薬を注射する方法や、痛みを引き起こすポイントになっている筋肉に直接注射して痛みをとる方法があります。

・リハビリテーション・・・痛みを取り除き、身体機能を向上させてQOL(日常生活の活動性)の改善をはかるための療法です。ストレッチや筋力を強くするための運動のほか、痛みを和らげるための温熱療法、痛みを伝える神経の働きを抑える電気刺激療法などがあります。

・外科的療法・・・手術以外の治療であまり改善が見られない場合などに、神経の圧迫を取り除く手術が検討されることがあります。

坐骨神経症に対する効果的な漢方薬治療と対策

漢方では坐骨神経痛は、「血の巡りが悪い」「水や気の停滞」「冷え」が原因と考えられます。また冷えが血行を悪くし水をたまりやすくするなど、一つの原因が他の原因を引き起こしていることもあります。

疎経活血湯・・・血の停滞(お血)を改善し、気や水の巡りを良くして神経痛などを改善します。夜間など冷えや湿気があると痛みが出やすい場合に効果的です。特に腰から下の傷みに効果がある漢方薬で、坐骨神経痛の他腰痛などにもよく使われます。

五積散・・・体にたまった「気・血・水・寒・食」の五つの病毒(五積)を治すことから名前が付けられた漢方薬です。体が冷えて気血水の流れが悪くなる痛みや胃腸の不調を改善します。また足は冷えるが頭はのぼせるという症状(冷えのぼせ)にも効果的です。胃腸が弱い人の関節痛や神経痛によく使われる漢方薬です。

桂枝茯苓丸・・・血の巡りを良くする作用があり、お血が原因の坐骨神経痛やしびれを改善します。女性の更年期障害に伴う痛みや冷えのぼせにも効果的です。比較的体力がある人に向いています。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯・・・体を温める作用を強めた配合になっていて、気血の流れを良くし、冷え性に伴う諸症状を改善する代表的な漢方薬です。特に腰から下肢の冷えが強く痛みを訴える坐骨神経痛に効果的です。

芍薬甘草湯・・・筋肉の緊張を緩和する効果があり、つっぱるような痛みがある場合によく効くといわれています。即効性があるので、急な強い痛みに頓服で使用することもあります。

牛車腎気丸・・・牛車腎気丸は、成分がκオピオイドという部分に作用し、痛みをとる作用があるとされています(参考:J Pharmacol Sci 96:115-123, 2004)。足のむずむず感や痒みにもきいてくるため、坐骨神経の痛みと足のムズムズ感、痒み(かゆみ)を伴っている場合などに向いています。

八味地黄丸・・・高齢の人で疲れやすく、腰や四肢の冷えがあり腰や坐骨神経が痛む場合に効果的です。腰と関係が深い「腎」の働きを補う作用があり、坐骨神経痛の他にも高齢者の様々な腰痛に使われる漢方薬です。地黄・山茱萸は滋養強壮作用があり、沢瀉・ 苓は浮腫改善作用をもつとされ、地黄・牡丹皮は微小循環の改善効果があります。

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