擦り傷や切り傷をつくってしまった場合は細菌などの感染を防ぐために、まずは傷口を水で丁寧に洗い流します。次に傷口を乾燥させないように湿潤環境を維持できるタイプの絆創膏やシートなどで処置をします。
こうすることによって傷口を治すために身体から出てくる滲出液で皮膚を湿った状態に維持することで傷の治りを早くします。
ただし、深い刺し傷や切り傷、動物などに噛まれた傷、出血がなかなか止まらない場合や、糖尿病などで免疫力が低下している人、別の疾病で免疫を抑制する薬を服用している人は、自己判断せず病院を受診することをおすすめします。
特に、古い金属(錆びた釘)や、猫に嚙まれた傷などは特別な対処が必要であるため、必ず病院を受診してください。
普通に対処できる擦り傷や切り傷は、治癒に時間がかかる人とかからない人、傷口もスッキリきれいになる人と傷口が残ってしまう人と様々です。それらは個々が持っている自然治癒力の差と言えるでしょう。
「傷の治りも遅いし、普段肌の調子もよくない。そういえば風邪も引きやすいな・・・」という人は、身体の中から体質改善することを考え、日々の食生活や運動の見直しをしつつ、自分に合った漢方を選択することをおすすめします。ここでは、患部に直接塗る漢方の軟膏薬を紹介します。
擦り傷・切り傷におすすめの漢方薬
『紫雲膏』(シウンコウ) ◇擦り傷、切り傷のファーストチョイス ‐
紫雲膏の生みの親は、江戸時代の外科医、華岡青洲(はなおか せいしゅう)で、全身麻酔を用いた手術(乳癌手術)を世界で初めて成功させた人物としても有名です。古い医書である「外科正宗」に記載されている潤肌膏に、青洲が豚脂(豚の脂)を加えて改良したものです。
構成生薬の当帰には血を補う「補血」と血の滞りを改善する「活血」の作用があり、軟膏の赤色のもととなっている紫根には解毒の作用があります。これらが相まって傷の治癒力を高めます。またゴマ油、豚脂、ミツロウは皮膚の保湿を高めますが、特に豚脂は皮膚再生にも影響しているといわれています。
現代の再生医療技術でも、豚を使った人間の皮膚や臓器の再生実験などが行われており、世界各地でも実験成功が相次ぎ、同時に大きな議論を起こしています。江戸時代に生きた華岡青洲に、ここまでの考えがあったのかはわかりませんが、潤肌膏に豚脂を加えたのには理由があったに違いありません。
紫雲膏は、肌荒れなど乾燥性の皮膚の不調、やけどや痔核による痛みにも使われますが、ジュクジュクと患部が化膿している状態には適していません。赤紫色の軟膏なので使用する際、衣服が汚れないよう工夫してください。また豚脂が入っているため、独特の匂いが苦手と感じる人もいるようです。ドラッグストアでは1000円以内で購入できるチューブタイプもあるので、気軽に是非試してみてください。
『太乙膏』(タイツコウ) ◇傷口の炎症や湿潤が強いとき –
太乙膏は、西暦1100年頃に中国で書かれた和剤局方という書物にある処方を元に作られた軟膏薬です。
紫雲膏と異なり、患部の化膿の有無、傷を負ってからの期間などに関わらず、長い期間使用できる軟膏です。擦り傷切り傷のほか、アトピー性皮膚炎などに多いかゆみや床ずれ、やけどなど様々な皮膚の不調にも適しています。
構成生薬の当帰、芍薬、地黄は、いずれも血を補う「補血」の作用があり、皮膚に栄養を与えます。
また百芷と桂皮は皮膚表面の湿を取り除く「発表」作用があるため、患部がジュクジュクして、かゆみや痛みを伴う傷などに特に適しています。太乙膏は薄いクリーム色をしており、その点は紫雲膏より使い易いですが、匂いはやはり独特でスパイシーです。
女性より男性の方がこの匂いに抵抗があるようですが、家庭の常備薬として是非薬箱に置いておきたいものです。