機能性胃腸症(今は機能性ディスペプシアと呼びます)の漢方薬|機能性ディスペプシアの原因と症状 、鍼灸治療

機能性ディスペプシアとは

機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)とは、内視鏡などの一般的検査で異常が認められないのに、胃の痛みや胃もたれ、食欲不振などの症状を感じることをいいます。以前は「慢性胃炎」などと診断されていましたが、胃粘膜には炎症がないことから「機能性胃腸症や機能性ディスペプシア」と呼ばれるようになっています。2013年に保険病名が収載されてからは、ガイドラインでは機能性ディスペプシアとしてまとめられています。

機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア(FD)(改訂第 2 版)こちらからガイドラインが参照できます。

ディスペプシア(胃もたれ)症状に悩む人は多いですが、その原因がよくわからない場合が多いです。慢性的にこのような症状が現れる場合、それを機能性ディスペプシアと呼びます。この疾患の概念は比較的新しく、病名も難しいため、広く知られていませんでした。

しかし、近年では生活水準の向上とともに国民のQOL(生活の質)への関心が高まり、ストレスが増加している現代社会において、この機能性ディスペプシアの発症と関連していると考えられています。また、2013年5月には機能性ディスペプシアという保険病名が導入され、これも認知度の向上に寄与しています。

このような状況の中、日本消化器病学会では2014年に機能性ディスペプシアに関するガイドラインを発行しました。このガイドラインは機能性消化管疾患ガイドラインの一部として、機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群に分けられ、それぞれに対して独立して作成されました。特に機能性ディスペプシアガイドラインは非常に注目され、他のガイドラインを上回る販売数を記録したと報告されています。

日本消化器病学会は医学・医療の進歩に迅速に対応するために、5年ごとにガイドラインを改訂するというルールを採用しています。改訂作業は数回の委員会を通じて行われ、2021年1月に最終稿が確定しました。これにより、最新のエビデンスに基づいた機能性ディスペプシア診療ガイドラインが提供されることとなりました。

機能性ディスペプシア症の原因

 機能性ディスペプシアの原因ははっきりと分かっていませんが、精神的・身体的なストレスや生活習慣の乱れなどが関係すると考えられています。ストレスによる緊張状態が、胃の運動機能の低下や知覚神経の過敏を引き起こし、胃もたれや胃の痛みが現れるとされています。

https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/fd2021r_.pdfより引用

機能性ディスペプシア症の症状

2016年に改訂された最新のローマⅣ基準7)によれば、機能性ディスペプシアは以下のように定義されています。

機能的ディスペプシアとは、症状を説明できそうな器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、以下の4つの症状のうち1つ以上を持ち、6ヶ月以上前にこれらの症状を経験し、かつこの3ヶ月間に継続している状態を指します。

  1. 食後の膨満感(postprandial distress syndrome;PDS):食後に腹部が膨満感を覚える症状。
  2. 早期満腹感(postprandial distress syndrome;PDS):少量の食事で早く満腹感を覚える症状。
  3. 心窩部痛(epigastric pain syndrome;EPS):胸やけや胃の不快感を含む、心窩部(胃の上部)に痛みを感じる症状。
  4. 心窩部灼熱感(epigastric pain syndrome;EPS):心窩部(胃の上部)に灼熱感を覚える症状。

これらの症状を持ち、他の疾患が原因でなく、かつ一定期間以上継続している場合に機能性ディスペプシアと診断されます。PDSは食後の膨満感と早期満腹感を持ち、EPSは心窩部痛と心窩部灼熱感を持つ場合を指します。このように、機能性ディスペプシアは症状に応じてサブタイプに分類されます。

機能性ディスペプシアの治療

 治療の中心は、症状に合わせた薬物療法となります。低下した運動機能を改善する薬や胃酸の分泌を抑える薬(厳密には酸分泌薬抑制薬は機能性ディスペプシアに保険適応ではないですがガイドラインでは推奨があります)、ストレスを和らげるための抗不安薬などが用いられます。日常生活では、規則正しく食事をとり消化の良いものを食べる、休養や睡眠・適度な運動などでストレスをためないようにするといったことを心がけるのが大切です。

効果的な漢方薬治療と対策

漢方薬は、珍しく診療ガイドラインに記載がされています。機能性ディスペプシアに対し、

・六君子湯は有用であり,使用することを推奨する.
 【推奨の強さ:強(合意率 92%),エビデンスレベル:A 】
・六君子湯以外の漢方薬は,有用である可能性があり,使用することを提案する.
 【推奨の強さ:弱(合意率 100%),エビデンスレベル:B 】

①六君子湯は胃運動機能改善を中心とした薬理学的作用が種々解明されており,上腹部症状 に対して汎用されている薬剤である.FD に対する六君子湯の有効性として,胃運動機能改善 作用と上腹部症状との関連性を基軸にして,1993 年以降本邦を中心に多くのエビデンスが示さ れてきた.近年ではプラセボを用いた RCT も行われるようになり,Rome Ⅲ基準の FD 患者 に対して行われた 2014 年の報告では,主要評価項目である 8 週後の自覚症状改善率では有意性 は示されなかったが,副次評価項目での心窩部痛改善に対して有意であることが示された。

という記載があります。

漢方では胃腸のはたらきに関わるのは「肝」と「脾」です。ストレスにより精神活動に関わる肝の働きが失調すると、消化吸収を担う脾の機能が低下するとされています。脾の低下は更にエネルギーである「気」を不足させ、意欲低下や疲労倦怠感などの原因となります。従って機能性ディスペプシアの治療には脾胃(胃腸)を整えることや肝を抑えることが必要であり、こういった作用を持つ漢方薬が有効となります。

人参湯・・・脾を補い整える代表的な生薬「人参」を中心とし、お腹を温めて痛みをとり、消化管内の余分な水を取り除く作用もある漢方薬です。主に体力がなく冷え性で、下痢をしやすいような人に向いています。

六君子湯・・・脾胃の機能を整え、気を補い、体に滞った水の代謝を良くする作用があります。機能性胃腸症では運動不全型の第一選択薬ともされる漢方薬です。最近の研究では食欲改善効果があることも分かっています。

半夏瀉心湯・・・消化吸収を改善し、吐き気を抑え、余分な水を取り除くなどの作用があります。精神的ストレスからくる消化不良などによく用いられる漢方薬です。体力中程度で、みぞおちがつかえた感じや、お腹がゴロゴロと鳴るような症状がある人に効果的です。

安中散・・・脾胃を温めて痛みをとる作用や、気の流れを改善する作用があります。やせ型で冷えがあり、神経の使い過ぎで胃痛や胸焼け・胃もたれなどを起こすような人に効果的です。

抑肝散・・・名前の通り肝の高ぶりを抑え、精神神経症状を改善する代表的な漢方薬です。特にイライラして感情を抑えられなかったり、不眠になったりするタイプの人に向いています。このような抗ストレス作用により、精神と関連する胃腸の働きを改善する効果があります。

補中益気湯・・・脾胃の働きを正常に整え、消化吸収を改善して気を補い元気をつける漢方薬です。体力が弱り疲労感が強いタイプの胃腸虚弱に適しています。

機能性ディスペプシアに関する鍼灸治療

診断基準が出来てきたことにより、研究結果が増えつつあります。

2020年に報告されたRCT(ランダム化比較試験)研究では、200人以上の多数の患者を対象にして、鍼治療がPDS(食後愁訴症候群)の症状の改善に有効であることが示されました。(Yang JW, Wang LQ, Zou X, et al. Effect of Acupuncture for Postprandial Distress Syndrome: A Randomized Clinical Trial. Ann Intern Med 2020; 172: 777-785)

一方で、まだ研究結果の量としては十分ではないことや、日本からの報告は多くないことから、ガイドラインではまだ推奨度は高くありません。

これらの治療を組みわせて、症状が改善するよう見ていく疾患になります。

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