前立腺肥大症とは
前立腺とは男性だけがもつ臓器であり、膀胱の下に位置します。前立腺には精液の一部を作る働きがあり、中には尿道が通っています。
この前立腺が年齢とともに肥大し尿道や膀胱を圧迫することで、尿が出にくいなどの排尿障害を起こすのが前立腺肥大症です。
前立腺肥大症の人の割合は年齢が高くなるほど多くなり、50歳代で2割以上と言われています。前立腺肥大症の原因ははっきりしていませんが、加齢による男性ホルモン分泌の変化が関係していると考えられています。
前立腺肥大症の症状
前立腺が肥大して尿道や膀胱を圧迫している程度により、第1~3期の症状に分けられます。
・第1期(刺激期)
尿道や膀胱が圧迫されることにより、トイレが近い・夜中トイレに何度も起きる、尿が出にくい・勢いがない、などの症状が起こる
・第2期(残尿期)
前立腺の肥大が進んで圧迫が強くなり、尿が出切らずに残尿感がある、急に強い尿意を催す・トイレに間に合わないことがある
・第3期(尿閉期)
尿道がほとんどつぶされたようになり、排尿に非常に時間がかかる、膀胱がいっぱいになって尿が漏れ出てくる、尿が全く出なくなるなど
前立腺肥大症は良性の病気ですが、排尿障害が悪化することで腎機能障害などを起こすことがあるので注意が必用です。実際に、非常にまれなことですが、この症状を放置することで膀胱の機能が永久的に落ちる方や、腎不全で透析になる方がいるので要注意です。(ただし、そういう例は自覚症状があるのに病院に受診せずに放置された例で起こるため、気になる症状があれば必ず泌尿器科で検査をすることが大事です。
前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の症状が比較的軽度であれば薬物療法を行います。薬物療法で効果が不十分な場合や、残尿や尿閉の症状が続いている場合は手術が検討されます。
薬物療法
前立腺に関わる筋肉を緩めて尿道の圧迫を軽減する薬、男性ホルモンの働きを抑えて前立腺の肥大を小さくする薬、尿意切迫を改善する薬などがあります。効果が出るまでの日数や起こりやすい副作用などが異なるので、症状などに合わせて適切なものが選択されます。
手術
多くは尿道から内視鏡を挿入し、電気メスやレーザーを用いて肥大した前立腺を切除する手術が行なわれます。全身状態などにより手術ができない場合は、尿道にステント(管)を留置する応急処置的な方法もあります。
前立腺肥大症に使われる漢方薬治療と対策
加齢に伴って起こる前立腺肥大症は、生命の源である「腎」の低下と漢方では考えます。腎は生殖器系や足腰など下半身の機能や水の代謝に関係しています。また前立腺肥大症による排尿障害は、水や血の流れが悪くなっているためと考えられ、このような状態を改善する漢方薬が治療に多く用いられています。
・八味地黄丸・・・腎の働きを補う代表的な漢方薬です。体を温め、体を滋養し、水の代謝を良くする作用があります。むくみなどがあり利尿作用をより高めたい場合は牛車腎気丸を、冷えはなくほてりなど体に熱がこもる人には六味丸を使用します。
・猪苓湯・・・体内の熱や炎症を冷まし、余分な水分を利尿する作用があります。膀胱炎や血尿など炎症性の泌尿器系疾患によく用いられます。前立腺肥大症による尿量の減少や排尿痛・残尿感などに効果的です。体力があまりなく胃腸が弱い・精神的にイライラするといったタイプの人には清心蓮子飲を用います。
・桂枝茯苓丸・・・血の滞り(お血)を改善する代表的な漢方薬です。比較的体力がある人向けの漢方薬ですが、お血改善の目的で体質を問わず広く用いられることがあります。しみやアザができやすい・冷えのぼせがあるなどお血症状がある人の前立腺肥大に効果的です。八味地黄丸などと併用することもあります。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯・・・血を補って巡りを良くし、体を温め水分の代謝を良くする作用があります。体力があまりなく手足やお腹が冷え、頻尿や下痢があるような人に向いています。