■鼻出血(鼻血)
花粉症などのアレルギー性鼻炎や慢性鼻炎などの人はどうしても鼻をかみすぎたり、鼻の中に指を入れたりすることで、鼻の粘膜を刺激し傷つけてしまったり、点鼻薬の使い過ぎで鼻粘膜を弱めてしまうなどで鼻血が出やすくなります。
鼻中隔前部の粘膜は、非常に薄く、また血管が多く分布しているため、少しの刺激でも出血してしまいます。出血は、出血部分を数分圧迫するなど処置すればすぐに止血します。粘膜を焼却する処置も耳鼻科で行われ、筆者の友人が試みたところ著効したという報告もあります。
また鼻炎自体に対する改善を西洋薬や漢方薬で行ったり、鼻を外から刺激しないようにする、マスクをつけて保湿するなど、予め予防対策することもできます。ここでは、外部からの刺激や薬の副作用、鼻炎が無いにも関わらず、鼻出血を繰り返すようなタイプの人におすすめの漢方薬をいくつか紹介します。
鼻出血(鼻血)におすすめの漢方薬
『加味帰脾湯』 ◇胃腸虚弱で貧血気味、神経が過敏な人に-
加味帰脾湯は、顔色が悪く動悸や焦燥感、不眠などの症状があり、虚弱体質で冷えがある人の鼻出血に適しています。
漢方でいう「気虚」状態の人です。「気」が身体の中に充実していなければ「血」を身体の中に留める力が低下するため、出血しやすくなります。
また女性であれば、不正出血や生理がだらだら続くなどの血の変化が現れます。気虚の原因は様々ですが、加味帰脾湯タイプは精神的ストレスからくる胃腸障害によることが多いです。栄養のある温かい血を体内に留めることが出来ないため、「血虚」(簡単にいえば貧血状態)に陥り、息切れや動悸、さらに不眠や精神的疲労が蓄積し、これが悪循環となります。
加味帰脾湯は出血の改善ではなく、まずは気虚の原因であるストレス症状や胃腸障害からアプローチを行います。黄耆や人参などで胃腸を整え、そして「安神」(心を穏やかにする)作用のある竜眼肉や遠志を使い、柴胡や山梔子で身体の中にこもった熱をクールダウンさせることで苛立ちなどの気分を改善します。さらに不足した血を補う当帰や大棗も含まれており、非常にバランスの良い構成となっています。
胃腸症状やストレスが強く無く、出血があるタイプは止血効果のある芎帰膠艾湯も考慮に入れるとよいでしょう。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。また、副作用として消化器症状などが記載されています。
『黄連解毒湯』 ◇赤ら顔で高血圧の人に‐
黄連解毒湯は、身体に強い熱がこもる状態であるため、炎症や充血症状が強く現れるものに対して使われ、鼻血や痔出血など粘膜からの出血にも改善が期待できます。またのぼせや動悸、不眠や苛立ちなど精神神経症状や高血圧にも使われます。目が赤充血する、のぼせて赤ら顔である、胸やけやげっぷが出る、よく興奮するようなタイプに適しています。
4つの構成生薬は基本すべて冷やす作用があるため、身体の中の余分な熱や水分を取り去ることで熱症状や興奮を鎮めます。同じような症状で便秘の人は三黄瀉心湯も考慮するとよいでしょう。
体力のない虚証タイプ、胃腸虚弱な人は使用を避けます。副作用として、肝機能障害、間質性肺炎、黄疸などが記載されているため、服用前に専門家に相談することをおすすめします。
『小建中湯』 ◇緊張と疲労感が強く、お腹の調子が悪い人に‐
小建中湯の「小」と「建」には、身体の中央にある消化器やその機能を建て直し、「気虚」(パワー不足)の状態を改善するというという意味があり、強い緊張や疲労、冷えがある体質虚弱タイプの鼻出血や眼底出血に適しています。
過敏性腸症候群や腹痛で使われる桂枝加芍薬湯に膠飴(麦芽糖)を加えた処方で、甘くて飲みやすいため小児の鼻出血や夜泣き、興奮、体質改善などにも使われます。構成生薬の膠飴には、消化不良を改善して身体に力をつける滋養強壮の効能があり、そして他の生薬との組み合わせによる作用で腹痛を改善します。
このように、小建中湯は鼻出血を直接改善するのではなく、消化器機能衰えによる「気虚」の状態にアプローチすることで鼻出血を改善します。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。
これらの漢方薬が、鼻出血の時に用いられる代表的な処方です。
漢方薬は、本来は証という、漢方的な(東洋医学的な)診方によって使用される薬です。そのため、主治医に相談してみましょう。