癌と漢方

がんの毒素を取り除く、という漢方漢方薬の視点から、清熱解毒作用を持つ漢方薬が利用されることがあります。

漢方を使用する患者さんの中には、「○○という症状に××という漢方が効くと聞いて試してみたいと思って」と仰るかたも見えます。しかし漢方の処方の原則は、全体の評価をした上で最適なものを用いる、ということなので、一症状だけですべてが決まるわけではないことは認識しておきましょう。そして、治療薬剤との兼ね合いもあります。

ただ、こういった症状を改善できる可能性のある漢方を知っておくことと、それを主治医や漢方薬剤師に相談してみることは良い選択肢の一つでしょう。このページでは、癌に関わる各種症状で使われることのある漢方を列挙しています。

本人の自覚症状に寄与しうる漢方がいくつかあるかもしれないと知っておくために、このページが役立てば幸いです。

また、漢方医に相談するに当たっては、現在の自分の病気や病期・治療方法をしっかりと伝えられるよう、症状をまとめておきましょう。

補中益気湯(ほちゅうえきとう)
黄耆、蒼朮、人参、当帰などの生薬が入り虚弱体質や慢性疾患、胃腸機能の減退に用いられますまた体力が低下して全身倦怠や食欲不振の時の回復にも使われます。

衛益顆粒(えいえきかりゅう)
黄耆、白朮、防風などの生薬が入り疲労、倦怠感、汗をかきやすい、風邪を引きやすいなどの虚弱体質に用いられます。身体の防疫力である衛気を養い皮膚や粘膜のバリアー機能を強化し免疫力を高めます。

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
桂皮、地黄、芍薬、センキュウ、蒼朮などを含み、癌に伴う病後や手術後の気力体力を補います。疲労倦怠感や食欲不振にも使われます。

参茸補血丸(さんじょうほけつがん)
鹿茸(鹿の幼角)に杜仲、当帰、竜眼肉、人参などの生薬が入り体力を高め、体を温めます。肉体疲労や、癌になった後の体力低下、食欲不振、冷え性などに使われます。薬理実験で骨髄の造血機能を高める効果も認められています。

麦味参顆粒(ばくみさんかりゅう)
人参、五味子、麦門冬の生薬が体にエネルギーと潤いを与えます。疲労倦怠、虚弱体質、病中病後の回復、血色不良に使用されます。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
黄ごん、山梔子、黄連などの生薬からなり体の中にたまった熱・毒を取り除いて冷ます作用があります。顔面の紅潮やのぼせ、目の充血、イライラやめまい、不眠など体にこもった熱からくる不調や精神の不安定さを取り除く目的で使用されます。

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
地黄、当帰、木通などの生薬からなり、体にたまった余分な水毒を取るのに使われます。充血や腫れむくみ、下腹部臓器の炎症や痛みなどに用いられます。

温胆湯(うんたんとう)
半夏、陳皮、生姜、枳実(きじつ)などの生薬からなり水の滞りを取る働きがあります。胃腸の虚弱、水分代謝の衰えに、また寝つきが悪かったり精神的な不安、動悸などにも用いられます。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
桃仁、大黄、当帰、甘草、などを含み体の熱を冷ます作用とともにお血を改善する働きがあります。腰痛、便秘、頭痛、めまい、肩こり、精神不安、イライラ、生理不順などにも用いられます。

涼血清営顆粒(りょうけつせいえいかりゅう)
地黄、牡丹皮、芍薬、黄ごん、山梔子、大黄などを含み体の熱を冷まして血の巡りを良くする作用があります。便秘、のぼせ、発熱、肌荒れ、吹き出物、食欲不振、腹部膨満など腸内の代謝が鈍り異常発酵した場合などに使われます。

香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)
人参、白朮、茯苓、甘草、半夏、陳皮を使用し、胃腸の機能が低下して吐き気や食欲不振が起こるときは、胃腸を保護する目的で使用されることがあります。

冠元顆粒
瘀血(おけつ)を改善する代表的な漢方薬です。丹参、センキュウ、芍薬、紅花などの生薬からなり、血液をサラサラにして身体の血行を良くする目的で使用されます。。頭痛や肩こり、めまい動悸などの血行不良による諸症状に対し用いられます。。

桂枝茯苓丸
桂皮、茯苓、牡丹皮、桃仁、芍薬を含み、広く瘀血(おけつ)改善に使われます。下腹部痛、肩こり、頭痛、めまい、のぼせで足が冷えるなどの症状や、月経不順などにも使われます。

血府逐お丸
当帰、センキュウ、地黄、桃仁、紅花、枳実、などの生薬を含み、血の滞りを解消し血液循環を良くします。背中の張り、頭痛やのぼせ、動悸の改善目的に使用されます。

逍遥散
当帰、芍薬、白朮、柴胡、甘草、生姜などを含み、甘草の働きを高めてイライラした気分を調整します。ほてり、冷え性、月経不順、更年期障害の改善目的に使用されます。

漢方における放射線治療や抗がん剤の副作用
放射線治療では、のどが渇いたり食欲が無くなったり、これは漢方では熱や炎症が身体の中に生じている状態「熱毒」の状態によってもたらされる症状です。

抗がん剤治療でも、この毒素により発熱やむくみ、吐き気や下痢などの副作用がもたらされます。同じ抗がん剤でも副作用の出方が人それぞれなのは、体質によって熱毒の性格が変わる為です。漢方薬でその症状を和らげる場合には、やはり体質や状態の見極めが必要です。

毒熱と癌、毒熱を取り除くための漢方薬

毒熱は体の中で炎症により熱が発生している状態です。この状態になると正常な体内の水分は病的な水分に変化したり、また血の巡りを滞らせたりして体内に様々な影響をもたらす、と捉えます。

毒熱によってなりやすい癌

白血病
白血病は放射線などの影響を受けて遺伝子が変異すると発病しやすい癌で毒熱との関係が深い癌であると言えます。

悪性リンパ腫
ウイルスや免疫の乱れによってリンパ系が壊れてしまう悪性リンパ腫も毒熱による影響が大きいです。

肝臓がん
肝臓がんの多くは肝炎からの移行であり、毒熱の影響が大きいとされる癌です。

子宮頸がん
ウイルスや細菌感染によって発生する子宮頸がんも毒熱と関係があります。

毒熱は普段からインスタント食品やファストフードが好きであったり、辛い物や熱いものが好き、また空気が悪い場所に住んでいる、出産や授乳経験が無い、便秘がちでおしっこの量も少ないなど排泄が上手くいかないという体質と関連すると言われています。

体に有害な物質を取りこむ環境と排出能力の力の差が毒熱を増長させます。

毒熱を取り除くための清熱剤は消炎、解熱、鎮痛、抗菌、抗ウイルス作用がある寒涼の生薬から構成されています。

清熱解毒剤は長期に使用すると体の「気」を消耗する恐れがありますから正気不足があるときは慎重に使う必要があります。いくつか紹介します。

黄連解毒剤(おうれんげどくざい)
身体に熱をもちのぼせ気味で、イライラする人の吹き出物、胃炎、二日酔い、不眠、高血圧症、動悸、めまい、かゆみなどに用います。毒熱を便や尿とともに排出させる目的で使用されます。比較的体力のある熱証の人の薬で、体が虚弱な人には不向きです。

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
肝火上炎という興奮した状態の赤ら顔、目の充血、目眩、耳鳴り、口苦感、激しい頭痛など顔面に熱症状が出た時に使う漢方です。肝腎の陰液が不足して肝に熱を持った状態なので肝を冷やす生薬を用います。毒熱を便や尿から排出させる機能があり尿路疾患にも効果があります。

生薬

白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)

清熱解毒薬として炎症性疾患に用いられます。解毒作用があり体にたまった毒熱と水湿を取り除きます。特に食道、胃、腸のがんの予防に効果があると言われています。

大黄(だいおう)

体にたまった毒素を便とともに排出する作用があります。便通作用が大変に強いのでお腹が冷えている人や下痢をした水人は厳禁です。

板藍根(ばんらんこん)

風邪やインフルエンザの予防にも用いられる生薬です。抗ウイルス作用があります。

痰湿と癌

痰湿の非常に淀んだものは痰濁と呼ばれ、それらは中性脂肪いコレステロールのようなイメージしていただくと分かりやすいのですが、どろどろとしたものとして血中に入って血流の流れを阻害し癌などの病気の原因にもなります。
なりやすい癌

甲状腺がん
痰湿になると代謝機能が低下して内分泌にも影響を与えます。免疫の低下により甲状腺がんにも罹りやすくなります。

乳がん・子宮体がん
脂肪食の取りすぎで痰湿が溜まると、乳がんや子宮体がんのリスクも増えます。

肺がん
最近増加の傾向にある腺癌は痰湿の影響を受けやすい癌です。

大腸がん
高脂肪の食事を取り続け、腸の機能が衰えると痰湿が溜まり大腸がんにも罹りやすくなります。

痰湿のタイプの方のサインとしては、舌に白から黄色の苔のようなものがべっとりと付いている場合は体に痰湿があるサインとして出てきやすいサインです。

痰湿が体の中に滞ると、食欲不振や吐き気、また食べた後胃もたれを感じることが多くなるなど消化器系の症状として現れやすくなります。

痰や粘り気のあるつば、鼻水なども痰湿の症状です。

若いころと同じように高カロリーでアルコールも同じようにたしなんでいる食生活を送っている人は、それだけで痰湿が溜まりがちです。水太りで高脂血症の症状が見られる人は要注意です。

普段から胃腸が弱く水分代謝が滞る為体内に余分な水分や老廃物が溜まっている状態の痰湿タイプでは、性質的に吐き気がしやすい、体が重い、むくみやすい、食欲不振といった症状がでやすくなります。胃腸が原因で生まれた痰湿は治りにくい癌などの病気の原因になるとされ「怪病に痰多し」と古くから恐れられていました。

痰湿を取り除くにはまず、消化吸収の力を高め代謝を上げることが大切で、そのために生活の改善や食の改善が必要です。

生活改善として、代謝アップの為には適度な運動を毎日の生活に取り入れることが大切です。最初は散歩やウォーキングなど歩く事から始めましょう。家でラジオ体操やダンベル体操などを行うのも効果的。無理をせず毎日行えるスポーツを見つけましょう。

食養生として、脂っぽいものや美食に偏った生活を続けていたり水分摂取の取りすぎなど、長年の食習慣が原因となり、消化吸収・排泄が出来なかった飲食物が老廃物となって体に滞ることが痰湿の原因になるため、まずそれらの食習慣を改め、痰湿を外に出す作用のある食べ物を積極的に取りましょう。

胃腸がもともと弱い体質の場合暴飲暴食をしていなくても痰湿が溜まっている場合があります。この場合は正気不足の漢方も参考に消化吸収を高める工夫をしていきましょう。

気滞と癌

ストレスが沢山ありすぎることによって身体全体のエネルギー「気」の巡りが悪くなります。こんな状態を「気滞」と言います。

気滞になると自律神経の働きがスムーズに行かなくなり精神的に不安定な状態になります。こうなるとますますストレスに弱くなり、体の機能も乱れ癌にかかりやすい体にもなってしまいます。気滞は忙しくホルモンのバランスが崩れ出す時期の40代女性に多い症状です。乳がんの発生が40代から増えるのも気滞の関係が大きいと考えられます。

気滞と関係の深い癌

胃腸の癌
気滞によって消化や九州の力が弱まってくると潰瘍や癌が発生しやすい粘膜の状況が作られやすくなります。

乳がん
癌の好発部分であるわきの下は気の通り道でもあります。精神状態とも深くかかわる部分で乳がんとストレスには深く関わりが有る事が解っています。

肝臓がん、胆のうがん
肝臓や胆嚢は気の巡りと深く関係していて、気滞の乱れから生理機能もつられて乱れることにより病気に罹りやすくなります。

甲状腺がん
気滞が続くと内分泌の機能にも影響が出て、異常が起こりやすくなります。

漢方と癌による落ち込みや精神症状に対して

漢方は精神状態も整えるために使用されるものもあります。実際に癌に苦しんでいる患者さんは、表に出す方出さない方がみえますが、癌になってしまった失意や、治療や副作用のつらさ、病気への不安や恐怖心などにも悩まされ、気持ちが落ち込んだり不安定になることが多いようです。
精神的なストレスとか落ち込み、などの不安定な気持ちは、漢方領域では、「気」の流れが乱れ気の滞りを起こしてしまった状態と捉えます。ですから気の流れを良くすることでストレスの解消や精神状態を安定に向かわせるよう、漢方薬を使用することがあります。

また癌になると瘀血(おけつ)が起り、栄養が行き渡らないと精神的にダメージを受け、不眠などの原因にもなります。瘀血(おけつ)を改善する事でも身体のバランスを整え心理状態のバランスも整うことがあります。

コラム

癌は漢方だけで治せるのか?

漢方だけで治ると断定できる癌はありません。ただし診断に至る前の前癌病変や、小さい癌は、自分の免疫細胞が駆除している場合があることをご存知でしょうか?
最近では、PD-1阻害剤という免疫細胞に働きかける薬剤が、がんの治療に用いられるといった、免疫と癌の関係がホットトピックです。

そういった視点からは、漢方薬により免疫力が上がったり、癌を抑制する生薬と併用することで癌が改善に寄与する可能性はあるかもしれません。
将来、そういう効果が証明される漢方が出てくるかもしれません(現時点では西洋医学の代わりにはなりえません)。

しかし、各種の癌で、PS(全身状態・平たく言えば健康度合)と予後(将来の見通し)が変わることから、たとえば便秘で食欲が落ちて栄養が悪い方で、大建中湯などの漢方と相性が良い場合、それを使用することで栄養状態が良くなるなど、間接的な効果(それは統計などでは表しにくいかもしれません)が起こりうるかもしれません。

副作用がなければ、栄養や元気さなど全身状態が悪い状態と、良い状態を比較すると、良い状態の方が良いということは異論の少ないところだと思います。そういった視点から、漢方のみの使用では無く、手術や抗がん剤、放射線などの一般的な治療との組み合わせによって例えば全身状態相乗効果で治る確率が上がるかもしれません。

癌は漢方だけでは治りません。しかし、もしかしたら、助けになるタイミングはあるかもしれません。これは西洋医であり、漢方も使う医師としての一意見です。

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