痛みに対する漢方薬

漢方薬の視点から見た、痛みの原因

「通ゼザレバ則チ痛ミ 通ズレバ則チ痛マズ」

あらゆる痛みの原因は何らかの原因で経絡の気血の流通が阻害あるいは閉塞させられることから生じる。と考えます。

漢方薬の東洋医学では、痛みとしびれは別のものとしてとらえます。「痛ム者ハ寒気多キ也。寒有ルガ故ニ痛ム也。其痛マズシテ不仁スル者ハ、病久シクシテ入ルコト深ク栄衛ノ行渋リ、経絡時ニ疏トナルガ故ニ通ゼズ。皮膚栄セザルガ故ニ不仁ト為ル。」『素問』痺論篇 第43

というように、痺証(痛み)と痿証(不仁・しびれ)は別物である。寒冷は疼痛(痺証)を増強させる。風寒湿の邪は長期に深部に客すと、痺証(痛み)と共に、痿証(不仁・しびれ)を生じる。

目次

神経痛に使われる漢方薬の処方

三叉神経痛の痛みに使う漢方薬

1.風寒型:葛根湯、川芎茶調散、桂枝加朮附湯

2.風熱型:清上防風湯、立効散、越婢加朮湯

3.肝火上炎証:竜胆瀉肝湯

肋間神経痛の痛みに使う漢方薬

1.気滞:大柴胡湯、柴陥湯

2.瘀血:通導散、四逆散合桂枝茯苓丸

3.寒飲:当帰湯、人参湯、大建中湯

坐骨神経痛の痛みに使う漢方薬

1.寒痺:八味地黄丸、当帰四逆加呉茱萸生姜湯

2.湿痺:苓姜朮甘湯、麻杏薏甘湯、薏苡仁湯

3.瘀血:疎経活血湯、桂枝茯苓丸、桃核承気湯

関節リウマチの痛みに使う漢方薬

1.風寒湿痺:桂枝加朮附湯、*甘草附子湯,*鳥頭湯

2.風湿痺:薏苡仁湯、防已黄耆湯

3.湿痺挟熱:越婢加朮湯(実証)、桂枝芍薬知母湯(虚証)

4.瘀血:桂枝茯苓丸、疎経活血湯、*身痛逐瘀湯

5.気血両虚:大防風湯、*独活寄生湯

※神経痛(痺証)と関節リウマチ(歴節)はの証は大体共通しています。

*印はエキス製剤が無い処方

変形性関節症の痛みに使う漢方薬

1.風水証:防已黄耆湯(腎虚には牛車腎気丸、瘀血には駆瘀血薬を併用)

2.湿熱証:越婢加朮湯(瘀血には通導散等併用)

3.瘀血証:桂枝茯苓丸、疎経活血湯

4.気血両虚証:大防風湯

痛みに使う、代表的な6つの漢方薬処方を解説します。

1)桂枝加朮附湯(出典:吉益東洞)
★方意

病位は表寒裏証。桂枝湯に朮と附子を加えたものであるから、腹証は桂枝湯に似てやや水毒の証を加う。表証では腹証に著変が認められないのが特徴である。脉は浮弱または細。舌は著変がない。淡ときに薄い白苔。

★弁証のポイン
①関節変形などのない関節痛、筋肉痛、神経痛
②手足の冷えに伴う疼痛

桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)が使用されます。

2)疎経活血湯(出典:万病回春)

★方意

経絡中の滞血をめぐらし風湿を去るの意。

瘀血と水毒と風寒を兼ね、筋肉、関節、神経に疼痛を発するもの(特に下半身)に用いる。病位は太陰病。裏寒虚証。脈は沈弱 一定しない。舌は湿潤無苔。

★弁証のポイント

①筋肉や関節、神経の痛み
②冷え症
③朝起床時に疼痛が著しい
④下腹部に瘀血の証:下腹部にうっ血や血行障害など、血の流れの滞り症状がある。

という場合に疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)が用いられます。

3)薏苡仁湯(出典:明医指掌)

★方意

手足の流注(多発性ロイマ)、疼痛、麻痺不仁、以て屈伸し難きを治す。関節腔、組織中の浸出液の停滞を治し、筋肉の緊張を緩和し血液循環障害を治す。虚実錯綜証。脉は浮滑あるいは弦。舌は寒湿中間、白苔をみとめる。

★弁証のポイント

①関節の腫脹疼痛、熱感:関節が腫れて痛み、炎症がある状態。
②四肢疼痛、運動障害:手足の痛み、運動障害
③経過は慢性:慢性的に痛みや腫れがある状態。

というような、腫れを伴う痛みには薏苡仁湯(ヨクイニントウ)が用いられます。

4)大防風湯(出典:和剤局方)

★方意

歴節病が慢性に経過して、体力・栄養状態共に減退して、気血両虚となり、筋力が低下したため運動障害や下肢の麻痺をきたした証を治す処方である。脉は沈細で弱。舌は気血両虚を現し舌質淡、苔は薄。

★弁証のポイント

①羸痩、虚弱、無力:衰えてやせる、体が弱く病気になりやすい、体力や勢力などがない。という体質
②四肢倦怠、歩行障害:手足が疲れてだるい、歩けない状態。
③関節腫脹(鶴膝風):関節が腫れ上がる状態、鶴膝風(かくしつふう)結核性膝関節炎およびこれに類するもの。

という方には大防風湯(ダイボウフウトウ)が用いられます。

5)桂枝芍薬知母湯(出典:金匱要略)

★方意

風湿の邪が筋肉や関節に侵入停留し関節の腫脹や疼痛を生じ、続いて気血が虚して全身が十分に栄養されないので、四肢の羸痩と陰虚内熱を発した。四肢の肉が落ちてやせ細り、関節部だけが目立つ、鶴膝風という独特の外観を呈する風湿歴節の一型である。

★弁証のポイント

①関節の腫脹と疼痛
②発熱、関節発赤、疼痛:関節の皮膚が赤くなる、痛みがある。
③鶴膝風の外観

6)防已黄耆湯(出典:金匱要略)

★方意

水肥りに用いる。太陰病、裏寒虚証用薬方。ブクブク肥り、色白で多飲、多汗し息切れし易いタイプの人。脉は浮で弱、数のことが多い。舌は湿潤して無苔か臼い白苔。

★弁証のポイント

①ブヨブヨした肥満(風湿身重)
②多汗:よく汗をかく
③下肢浮腫傾向:足のむくみ

という人に防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)が用いられます。

主な参考文献:

弁証図解 漢方の基礎と臨床(高山宏世編著、日本漢方振興会 三考塾)

腹証図解 漢方常用処方解説(高山宏世編著、日本漢方振興会 三考塾)

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