麻痺の原因と症状と漢方薬

麻痺の原因と症状

 ■麻痺の種類と原因

麻痺とは、脳や脊髄から末梢神経に至る運動神経の障害により、筋肉の随意運動が低下または喪失した状態のことです。このような「運動麻痺」の他に、感覚神経の障害により知覚の消失やしびれが起こる「知覚麻痺」があります。

運動麻痺は発生部位によって次の4つに分類されます。

・単麻痺・・・上肢のうち一肢だけに麻痺がある

・片麻痺・・・身体の右側または左側の上下肢に麻痺がある

・対麻痺・・・両下肢に麻痺がある

・四肢麻痺・・・両側両下肢に麻痺がある

単麻痺・片麻痺は脳血管障害(脳梗塞、脳出血、時にくも膜下出血)によるものが、対麻痺と四肢麻痺は脊髄の障害によるものが主な原因となります。

麻痺の強さや性質による分類もあります。

・完全麻痺・・・完全に運動機能を失った状態

・不完全麻痺・・・運動機能の一部が残っている状態

・頸性麻痺・・・筋肉が硬直して運動機能を失った状態

・弛緩麻痺・・・筋肉が弛緩して運動機能を失った状態

知覚麻痺の原因である、感覚神経の障害を引き起こす疾患には次のようなものがあります。

・多発性硬化症・・・中枢神経系の脱髄(神経の線を守る髄鞘がやぶれ、神経がむき出しになる状態)疾患です。病変部位は中枢神経からの情報が伝わらなくなり、しびれや皮膚感覚の低下、力が入らないなどの症状が起こります。原因は不明ですが、自己免疫によるものといわれています。

・ギラン・バレー症候群・・・末梢神経系に炎症が生じ、脱髄が起こる疾患です。両手両足に力が入らなくなったり、手足の先にしびれを感じたりします。またろれつがまわらない、ものを飲み込みにくいなどの症状が起こることもあります。原因は自己免疫システムの異常と考えられています。カンピロバクターなどの菌に感染したあと、自己免疫の異常が生じ起こるとされます。グロブリン製剤などを用い治療を行う場合もあります。

・糖尿病性神経障害・・・糖尿病によって神経が変性したり、末梢神経が侵される糖尿病の三大合併症の1つです。手足のしびれや痛み、皮膚の表面を虫がはっているような感覚などの症状が起こります。最近ではリリカ®なども出てきて、症状が改善する、という人もいます

・その他の疾患・・・脳腫瘍や脊髄の疾患、甲状腺機能低下症、ビタミンB1欠乏症など

効果的な漢方薬治療と対策

■脳血管障害後の麻痺に効果的な漢方薬

麻痺のある人は、脈診などにより血流の滞り(お血)がみられることが多くあります。このため「血」の通りを良くする治療が基本となり、これらの処方に体調や証に合わせた漢方薬を必要に応じて組み合わせます。

桂枝加朮附湯・・・体を温め全身の血行を良くし、体の余分な水分を除く生薬が配合されています。体内の余分な水分が原因で起こるしびれにも効果的です。体力が低下していて冷えがある人の、関節痛や神経痛、手足や顔面の麻痺などに幅広く用いられる漢方薬です。

疎経活血湯・・・お血を改善して「気」と「血」の巡りを良くする作用があります。体力中等度の人で、むくみなど水毒の症状がある、冷えると症状が悪化するような人に向いています。

■糖尿病性神経障害に効果的な漢方薬

糖尿病とその合併症には様々な漢方薬が用いられますが、その人やその時の体調による「証」を見きわめて処方を選ぶことが大切です。ここでは神経障害の症状がある場合によく見られる証についていくつかご紹介します。

八味地黄丸・・・糖尿病性腎性や下肢の神経障害などに使用されます。腎の熱をつくりだす働きが低下している(腎陽虚)場合が多いので、その状態を改善する漢方薬です。足腰が冷えて下肢にむくみが出たりしびれたりする、足が弱って歩くとすぐ疲れる、腰が痛むなどの症状がある人に向いています。

牛車腎気丸・・・八味地黄丸に、利尿作用のある生薬をさらに加えた処方です。よりむくみや尿量の減少がみられる場合に使用します。牛車腎気丸や八味地黄丸で胃腸障害が出る場合は、胃腸の働きを整える六君子湯を合わせる場合もあります。

桂枝茯苓丸・・・手足などの末梢神経障害がみられる場合、「お血」が原因であることが多くあります。比較的体力がある人のお血による症状に用いる漢方薬です。牛車腎気丸と合わせることで下肢の症状に、桂枝加朮附湯と合わせることで上肢の症状に良いとされています。

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