肩こりの漢方薬 効果効能・使い分け

国民病ともいわれるほど多くの日本人が悩まされているのが「肩こり」です。

厚生労働省の国民生活基礎調査(平成25年)によると、日頃自覚している症状の中で、肩こりが女性の第1位と男性の第2位を占めています。

さらに近年、スマートフォンの普及など生活環境の変化により、肩こりの症状を訴える人が増えています。それに伴い、整体やマッサージ、肩こり解消グッズなどがたくさん出回るようになり、利用したことがある人も多いのではないでしょうか。

しかし、肩こりが一時的に解消しても、すぐにまた肩こりになってしまうというように、慢性的な肩こりを抱えている人が多いのが現実です。

肩こりで鍼灸を受けられる方も多いです。2001年の国民生活基礎調査によると、肩こりの全通院者のうち、マッサージやはり・きゅう、柔道整復などの施術所を受診する患者は59%と報告されています。

鍼灸の臨床では、基礎疾患のない原発性肩こりを治療の対象としています。また、肩こりの原因となる基礎疾患がある場合でも、鍼灸治療が適応することや現代医療との補完的な治療が有効とされているため、基礎疾患のある症候性肩こりにも症状緩和のための治療が行われることがあります。

では、なぜ肩こりの症状が現れるのでしょうか。
このページでは、生活習慣で改善するべき点と、漢方薬により肩こりを改善させるための使い分け、鍼灸院での鍼灸治療を載せています。あなたの肩こりにお役立ていただければ幸いです。

肩こりの原因

肩こりとは、肩の周囲の筋肉が硬くなり、痛みやだるさを伴う症状のことです。

筋肉は使い続けることにより疲労し、硬くなります。

すると、硬くなった部分の血行が悪くなるので栄養が行き届かず、回復が遅れることになります。

この状態が続くことにより肩こりの症状が現れます。

肩こりを起こす原因は人によってさまざまですが、その中でも多いものを挙げてみます。

長時間同じ姿勢をとり続ける

肩の筋肉は約5kgもある重い頭と首を支えているので、何もしない状態でも大きな負担がかかっています。その上さらに、パソコン作業などのデスクワークで少し前かがみの姿勢を長時間とり続けると、肩こりが起こりやすくなります。

体型

猫背、なで型、いかり型など肩の骨格がゆがんでいると、肩の特定の筋肉が疲労しやすくなり、肩こりが起こります。

眼精疲労

目を使いすぎることによって、目の周囲の筋肉が疲労すると首や肩の筋肉にまで影響が及びます。

運動不足ストレス冷え性

どれも血行不良を引き起こす原因となるので、結果的に肩こりにつながります。

肩こりの予防策としては、同じ姿勢を続けないようにこまめに首や肩を動かしながら、筋肉の緊張をほぐすことです。

また、肩こり悪化の予防として目をときどき休ませることを心がけます。

また、運動したり、入浴したりしながら体を温め、血行をよくすることも大切です。

その前に、頸椎の病変などで肩に症状が出る場合があるため、一度は病院で調べてみる必要があることは忘れないようにしていただければと思います。

肩こりの治療方法と漢方薬

ひどい肩こりには張り薬や塗り薬など外用薬を使用することもあります。

しかし、慢性的な肩こりを解消するには、体の中から肩こりになりにくい体質に改善することも必要といえます。そんなときに有効な選択肢の一つのが漢方薬です。

漢方医学では体に何らかの不調が現れるとき、体の構成成分である「気(生命エネルギー)、血(血液)、水(体液)」のバランスが乱れていると考えます。

肩こりは、肩の筋肉や組織に「気」と「血」がスムーズに行き渡っていないために起こるとされており、主に3つのタイプに分けられます。

気と血の流れがうまくいかないための痛み、というのは漢方独特の考え方で、”通じざれば則ち痛み、通ずれば則ち痛まず”と表します。

また、生薬には痛みを押さえる効能のある生薬があり、それらも痛みの改善に作用します。

痛みに効果がある生薬:附子、麻黄、蒼朮、苡仁など
筋のこりに効果がある生薬:芍薬、葛根、柴胡など

たとえば葛根湯は、麻黄が入っているのでどんな体質の肩の場合でも、50%弱の確率で肩こりに効果がある、というように、疼痛に対しての生薬の効果があります。

ただ、漢方の本質は、その人の状態にあった処方で改善させることにあるので、下記にその使い分けを示します。

気滞タイプ:精神的ストレスにより誘発・増強される肩こり(気鬱肩痛)

ストレスなどによって肝がダメージを受けると、全身に気を巡らせる機能が低下し、気が滞ってしまいます。

肩に張るような痛みがありますが、こりが出たり消えたりします。精神不安によるイライラやのぼせが伴う場合には「加味逍遥散(かみしょうようさん)」、「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」が有効です。

頭痛、不眠、イライラ、煩悶感がある肩こりに
体力があまりない⇒加味逍遙散
比較的体力がある⇒柴胡加竜骨牡蛎湯
比較的体力がある⇒黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

上記のような高血圧の人には「大柴胡湯(だいさいことう)」や「釣藤散(ちょうとうさん)」を用います。

頭痛、不眠、イライラ、煩悶感がある肩こりに加えて
高血圧や便秘を伴う場合⇒ 大柴胡湯
様々な精神症状、不眠が強い場合⇒抑肝散
怒りやすいタイプで高血圧傾向⇒釣藤散(ちょうとうさん)

血瘀(けつお)タイプ:気滞の状態が長く続くと血が滞った血瘀という状態になります。肩が硬くなりチクチク刺すような痛みが伴います。このような症状には血の巡りを改善する「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」や「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」を使用します。

桃核承気湯は、桂枝茯苓丸より体力がある人に向いています。特に赤ら顔で、便秘が強い人で婦人科症状(月経痛や月経不順など)もある女性の肩こりに向いています。桂枝茯苓丸も体力が中等度くらいある方に向いていますが、唇の色が少し紫がかったような人に向いています。

血虚タイプ:血が不足している状態です。肩こりの他に貧血や立ちくらみ、冷えが伴いやすく、このような場合には、血を補う「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」がよく用いられます。

当帰芍薬散を症状から解説すると、血色が良くなく体力が低下した、冷え症体質の女性の肩こりに用います。肩こりだけでなく、月経不順や月経痛、めまいや立ちくらみなどの症状がある場合に効果的です。

これらの、証をあまり考えずに使用できる漢方薬も2つ紹介します。

一つは葛根湯で、相性が良い肩こりは、悪寒、発熱、後頭部痛などを伴う肩こりですが、それ以外にもどのような証の方に用いても、肩こり症状の改善効果が約半数に見られたという報告があり、急性の肩こり全般に向いています。

葛根湯という漢方薬について(肩こりについても記載しています)

もう一つは芍薬甘草湯で、こちらもどのような肩こりでも即効性をもって改善効果があるという報告があります。ただし芍薬甘草湯は長期に飲む薬ではなく、症状があるときに頓服する漢方薬という認識でいる方が良い漢方薬です。

芍薬甘草湯の効果と副作用、頓用で効く理由

長く続き、なかなか改善しない肩こり。これは日常生活でも困ってしまう症状で、特に良くなったり悪くなったりと、なかなか周りに理解されないこともあります。

しかし、体質や状態、原因に合わせて、相応しい漢方薬を取り入れることで、改善を期待できる場合があります。もちろん肩こりになりにくい生活習慣を心がけつつ、適切な漢方薬を利用することで悩みの種となっている肩こりを解消していきましょう。

目次

肩こりと鍼灸

肩こりの症状は主に以下の要素によって引き起こされると考えられています。

  1. 筋交感神経(自律神経)と筋紡錘:筋交感神経は、筋内の血管や骨格筋線維を支配しています。環境や心理的なストレスは筋交感神経の活動を亢進させ、筋の血流量を減少させて筋肉を緊張させることがあります。また、筋紡錘は筋の収縮を感知するセンサーであり、過剰な筋の収縮が肩こりの症状を引き起こす可能性があります。
  2. 運動神経と痛みの神経:肩こりには筋肉の収縮が関与しています。運動神経は筋肉を収縮させる役割を持っており、筋の過剰な収縮が肩こりを引き起こす可能性があります。また、痛みの神経も肩こりに関連しており、筋肉の緊張や血流の障害が痛みを引き起こすことがあります。
  3. 筋血流の障害:何らかの原因により筋や末梢神経に損傷がある場合、持続的な筋血流の低下や筋の過剰な緊張と弛緩不足(筋がゆるまない状態)が生じ、痛みなどの症状が顕著に現れる可能性があります。

鍼灸治療は、局所に刺激を与えることで血流を増加させ、自律神経の調整や筋肉の緊張を緩和する効果が期待されます。これにより、肩こりの改善が見込まれます。また、東洋医学では全身の調整と症状部位の循環改善を目的として治療を行います。そのため、肩や首以外の部位(手足や腹部など)にも治療を行うことがあります。

東洋医学では、肩こりの診断には「証」と呼ばれる病態分類があり、それに基づいて治療を行います。肩こりの証の一例としては、以下のようなものがあります:

  1. 風寒証: 肩こりとともに寒気や発熱がある。風邪の初期症状に似ています。
  2. 気滞証: 鈍い痛みや張り感が部位によって異なり、心理的ストレスによって悪化します。運動や集中することにより症状が緩和することもあります。
  3. 気滞血瘀証: 鈍い痛みや張り感と、限局性の鋭い痛みが同時に現れます。
  4. 肝血虚証: 目を使うと肩こりが悪化し、目の疲れやかすみも伴います。
  5. 肝腎陰虚証: 頸肩部のこわばりと共に、目の疲れやかすみ、乾燥、腰や下肢の疲れや痛み、耳鳴り、難聴などの症状が同時に現れます。

これらの証を判断し、適切な経穴(ツボ)を選んで治療を行うことが重要です。

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