虫刺されの漢方薬(効果効能・使い分け)

虫さされといえば、夏場の「蚊」をイメージする人が多いとおもいますが、その他ノミやダニ、アブなど人間の血液を栄養にしている虫から、ムカデやハチなど自分の身を守るために「さす」という攻撃手段を持った虫もいます。

特にハチは、蜂毒によるアレルギー反応が出る人がおり、嘔吐や浮腫、蕁麻疹など軽度なものから、刺されて数分でショック状態(アナフィラキシーショック)を起こし、命に危険が及ぶような反応もあります。

虫さされについては、完全に予防することが困難なため、長袖のシャツを着る、虫よけスプレーを身体全体に噴霧するなどして対策します。

刺されて数分で肌に赤みが差し、かゆみや痛み、腫れなどが現れる急性の症状であることが殆どなので、患部を清潔な状態にし、適切な西洋薬を使って治していくことが優先されます。かゆみがある場合は抗ヒスタミン薬、腫れや炎症が強い場合はステロイド外用薬など、薬局で薬剤師や登録販売者に相談して薬を選択しましょう。

但し、皮膚がただれて痛みや強い熱感を伴うようなことがあれば、自己判断せず皮膚科を受診してください。また刺された後に吐き気や喘息のような息苦しさなど体調不良を感じた場合は、アナフィラキシーショックを起こしている可能性がありますので、すぐに救急車を呼ぶようにしてください。

漢方薬に関しては、刺された患部が軽度の症状である場合に有効な外用薬を紹介します。

虫さされにおすすめの漢方薬

 『紫雲膏』(シウンコウ) ◇擦り傷、切り傷、虫刺されなど皮膚の炎症に ‐

紫雲膏の生みの親は、江戸時代の外科医、華岡青洲(はなおか せいしゅう)で、全身麻酔を用いた手術(乳癌手術)を世界で初めて成功させた人物としても有名です。古い医書である「外科正宗」に記載されている潤肌膏に、青洲が豚脂(豚の脂)を加えて改良したものです。

構成生薬の当帰には血を補う「補血」と血の滞りを改善する「活血」の作用があり、軟膏の赤色のもととなっている紫根には解毒の作用があります。これらが相まって傷の治癒力を高めます。またゴマ油、豚脂、ミツロウは皮膚の保湿を高めますが、特に豚脂は皮膚再生にも影響しているといわれています。

現代の再生医療技術でも、豚を使った人間の皮膚や臓器の再生実験などが行われており、世界各地でも実験成功が相次ぎ、同時に大きな議論を起こしています。江戸時代に生きた華岡青洲に、ここまでの考えがあったのかはわかりませんが、潤肌膏に豚脂を加えたのには理由があったに違いありません。

紫雲膏は、肌荒れなど乾燥性の皮膚の不調、やけどや痔核による痛みにも使われますが、ジュクジュクと患部が化膿している状態には適していません。赤紫色の軟膏なので使用する際、衣服が汚れないよう工夫してください。また豚脂が入っているため、独特の匂いが苦手と感じる人もいるようです。ドラッグストアでは1000円以内で購入できるチューブタイプもあるので、気軽に是非試してみてください。

『太乙膏』(タイツコウ) ◇皮膚がジュクジュク湿潤しているとき –

太乙膏は、西暦1100年頃に中国で書かれた和剤局方という書物にある処方を元に作られた軟膏薬です。

紫雲膏と異なり、患部の化膿の有無、傷を負ってからの期間などに関わらず、長い期間使用できる軟膏です。切り傷や虫さされの他、アトピー性皮膚炎などに多いかゆみや床ずれ、やけどなど様々な皮膚の不調にも適しています。

構成生薬の当帰、芍薬、地黄は、いずれも血を補う「補血」の作用があり、皮膚に栄養を与えます。また百芷と桂皮は皮膚表面の湿を取り除く「発表」作用があるため、患部がジュクジュクして、かゆみや痛みを伴う傷などに特に適しています。

太乙膏は薄いクリーム色をしており、その点は紫雲膏より使い易いですが、匂いはやはり独特でスパイシーです。女性より男性の方がこの匂いに抵抗があるようですが、家庭の常備薬として是非薬箱に置いておきたいものです。

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