シェーグレン症候群の症状・検査・治療・漢方薬の使い分け

シェーグレン症候群とは

シェーグレン症候群は40歳以上の女性に多く、目、口、鼻など全身の分泌腺が冒されて乾く病気です。自己免疫疾患の一つであり、膠原病(関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)に合併して起こる「二次性シェーグレン症候群」と、これらの合併がない「原発性シェーグレン症候群」に分けられます。

原発性シェーグレン症候群の半数以上は乾燥症状のみで、そのまま特に大きな内臓病変などを起こさずに過ごす方が大半です。しかし時に免疫異常により、内臓に何らかの病変を伴うことがあることと、また少数ですが悪性リンパ腫などを合併する場合のある病気であるため、定期的な通院・検査が必要な病気です。

この病気を発見し、報告したのは、眼科医である Henrik Samuel Conrad Sjögren医師と言われています。1933年に、乾燥症状と唾液分泌の低下、関節痛を持っている方が多くいるという報告を行いました。

漢方領域の関わりとしては、シェーグレン症候群では『何とも言えない怠さ』や『疲れやすさ』、『不安な気持ち』など、病院の医療者の目に見えない症状で困っている方も多くいるため、受診される方も多いです。シェーグレン症候群が疲れやすさや怠さが出てしまう病気であるということは多く報告にあるのですが、そのことはあまり有名ではないため、実際に困っている患者さんが多いです。

シェーグレン症候群の原因

シェーグレン症候群の原因ははっきりと分かっていません。ウイルスなどの環境要因(特にEBウイルスなどの可能性は研究されています)や免疫異常、遺伝的要因、女性ホルモンなどの要因が複雑に関与していると言われています。
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圧倒的に女性が多いこと、閉経期の女性に多いことから、女性ホルモンとの関係が深いとも考えられています。遺伝的要素は発症に何らかの影響があるとされていますが、シェーグレン症候群の家族内発症率は2%程度であり、シェーグレン症候群が遺伝するということではありません。
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シェーグレン症候群の症状と治療

腺細胞(唾液腺や涙腺)からの分泌物低下が基礎となっていますが、人によって症状は様々であり、複数の症状が現れることもあります。対象臓器によっても症状のバリエーションは様々で、シェーグレン症候群の診断を難しくすることがあります。
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対象臓器毎に、いくつか出てくる病気・または合併症を挙げると、下記のように多岐にわたります。

・慢性甲状腺炎
・末梢神経炎
・間質性肺炎
・萎縮性胃炎
・自己免疫性肝炎・原発性胆汁性肝硬変
・慢性膵炎
・間質性腎炎・尿細管性アシドーシス
・悪性リンパ腫

特に甲状腺の病気の合併は良く知られており、橋本病の抗体である抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性を約3割に認め、抗サイログロブリン抗体陽性を約2割に認め、実際に甲状腺機能異常を伴う橋本病を約8%に認め、バセドウ病も2-3%で見られるという報告があります。

シェーグレン症候群そのものに対する根本的な治療はなく、乾燥症状を緩和して生活の質を向上させることが目標となります。エアコン使用時や飛行機の中など湿度が低い環境や、強風・タバコの煙などには注意が必要です。肉体的・精神的ストレスを避けることも大切なことです。

・目の乾燥とそれに対する西洋医学的な治療

涙の分泌減少による目の疲れ、ゴロゴロ感、目のかすみや痛みなどが起こります。通常のドライアイと異なり、目にゴミが入った時やタマネギを切った時、悲しい時などに起こる反射的な涙の分泌も障害されることが特徴です。

それに対し、人口涙液やステロイドの点眼薬を使用したり、涙の鼻側への排出口を閉じる処置、涙の蒸発を防ぐ眼鏡の使用などの対症療法がとられます。涙腺プラグも最近出てきた治療方法で、少ない涙でもとどめておくことで渇きの症状が出にくくなるようにしており、満足度の比較的高い治療方法です。

レバミピド(ムコスタ ®大塚)懸濁点眼液も、最近になり出てきた点眼薬ですが、比較的満足度が高い印象のある点眼薬です。薬の効果をみるための臨床試験も行われており、0.1%ヒアレインと比較し優位性が示された点眼薬です。色が白色であり、その点だけ注意が必要です。ジクアホソルナトリウム(ジクアス®)点眼液も、ムチン産生を促し効果が高いと考えられている点眼薬です。局所の乾燥症状には、これらの点眼薬は有効かつ副作用も少ないため、漢方薬を使用される方でも併用されておられる方が多いです。

ドライアイの確定のための検査

涙液分泌量検査
シルマー1法:無麻酔(基礎分泌+刺激分泌)

  • 異常 5分で5mm未満
  • 再現性低い
  • 涙液層破壊時間

Tear film breakup time: BUT検査

–涙液膜の安定性(ムチン)
異常 5秒以下 正常 10秒以上

角結膜染色の方法

–フルオレセイン

  • 角膜の評価に優れる(球結膜の評価はフィルターが必要)
  • 厚労省基準では角膜に染色あれば陽性

–ローズベンガル

  • SSの特徴である球結膜の評価に優れる
  • 刺激性が問題

–リサミングリーン

  • SICCA推奨
  • 日本では、現状入手困難でルーチンでは施行されていない
・口の乾燥

唾液の分泌が減少することで、水分の少ない食物が食べにくくなる、口が渇いて会話が続けづらい、虫歯が増えるなどの症状が起こります。舌の味覚を感じる部分が委縮して、見た目にも舌が平らになり味がよく分からなくなることもあります。

※唾液分泌能の評価とガムテストの方法

簡易的に唾液分泌を調べる検査に、ガムテストがあります。10分間ガムを噛み続け、その間、口の中に出る唾液を飲み込まないように、すべて紙コップにだして、量を測る検査があります。10分間で10ml以下の場合、唾液分泌の低下が疑われます。

薬物治療としては唾液分泌を促進する内服薬(やうがい薬、副腎皮質ステロイドなどを症状に合わせて使用します。その他スプレー式の人口唾液の使用、口腔内の感染や虫歯を予防するためのうがい薬やトローチなどもあります。乾燥食品・香辛料をさけるなど食事内容の工夫や、プラークコントロールによる虫歯・歯周病対策なども必要となります。

唾液分泌に使われる西洋薬

セビメリン(サリグレン® エボザック®)
ピロカルピン(サラジェン®)

・鼻や喉の乾燥

鼻の粘膜が乾燥して鼻の中にかさぶたができたり鼻出血が起こる、喉や気管支が乾いて咳が出やすくなるなどの症状が起こります。気道粘液の分泌を促進する去痰剤などが使用されます。

シェーグレン症候群とうつ病

シェーグレン症候群では、うつ病や不安障害などとの関連が報告されています。また、ストレスはシェーグレン症候群を発症するリスクとなるかもしれないと考えられています。日本だけに限らず、他の国でもどちらかというと神経質であったり、不安な性格の傾向を持っていたり、心気症や神経性食思不振症の合併も多いと報告されており、うつ病の方も多い傾向にあるとされています。それらの方では、抗α-MSH抗体という抗体の保有率が高いという報告もあり、病気の本体である自己免疫疾患との関連がある可能性が検討されています。

・その他の症状

関節の滑りを良くする組織の障害により関節痛の症状が現れます。シェーグレン症候群では関節の変形はまず起りませんが、関節リウマチ患者ではシェーグレン症候群を合併していることもあり、その場合には関節変形が起こる可能性があります。また、皮下出血班やレイノー現象(冷感により指が白色や紫色になる)が現れることがあります。その他として乾燥による皮膚炎や膣分泌物低下による膣炎、周期的な疲労感や気分の落込みなどがよく見られる症状です。

関節の症状に関しては、基本的には原発性のシェーグレン症候群の場合、関節が変形してしまうリスクは高くないと考えられているため、治療の主体は痛み止め・抗炎症作用薬であるNSAIDsです。海外では、関節炎や皮疹に対してHydroxychloroquine(ハイドロキシクロロキン・プラケニル®)が頻用されますが、保険収載されるとともに使用が増えていくことが予想されています。

どうしようもない体のだるさに対して

シェーグレン症候群の患者さんは、なんとも言えないだるさや検査では証明しきれない神経のしびれ(Small fiber neuropathyなども含め)などの症状で、日常生活に難渋しておられる方も居ます。それに対して、Ann Intern Med. 2014;160:233-242.などのように、リツキシマブを使用するという臨床試験も実施されているほどです。Rituximabは免疫抑制療法として強い免疫抑制を起こす場合があるので、主治医と相談することが最も重要だと考えられます。

※乾燥症状=シェーグレン症候群ではないことに注意しましょう。

乾燥している症状がある=シェーグレン症候群ではありません。他にも乾燥する原因・病気はあります。例を挙げると、

①唾液の分泌が少なくなる –緊張、年齢、抗コリン薬(副作用で渇きが出る薬)の使用

②分泌量があるが、すぐに乾いてしまう –口呼吸、–コンタクトレンズによるドライアイ

③脱水状態–糖尿病などによる高血糖によるドライマウス

これらの状態では、喉が渇いたり眼が乾いたりするため、シェーグレン症候群でなくても似た症状が出る場合があります。診断にも使用される分類基準という基準は、シェーグレン症候群をピックアップするための方法としてはとても優れているため、乾く以外に内臓病変がなければ、それ以上深く調べない場合もあります。

シェーグレン症候群の診断(分類基準)

シェーグレン症候群の診断基準は、いくつかありますのでそれぞれ紹介します。

厚生省改訂診断基準(1999) 4項目中2項目以上

1.生検病理組織検査 口唇あるいは涙腺組織でフォーカス・スコア4mm2 当たり1以上

2.口腔検査でいずれかが陽性
唾液腺造影で Stage1 (直径1mm未満の小点状陰影)以上
唾液分泌量低下(ガムテストまたはサクソンテスト陽性)かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見

3.眼科検査でいずれかが陽性
シルマー試験で 5mm/5分以下+ローズベンガル試験(van Bijsterveld スコア)で 3点 以上
シルマー試験で 5 分間に 5mm 以下+蛍光色素試験で陽性

4.血清検査
抗 Ro/SS-A抗体 あるいは抗 La/SS-B 抗体陽性

アメリカ・ヨーロッパ(AECG)基準 (2002)
一次性:6項目中4項目(但しIV or VI陽性)or III-VIのうち3項目

I: 眼症状:1つ以上
1.毎日、持続する煩わしい眼の乾燥感が3ヶ月以上続きましたか。
2.眼に砂が砂利が入ったような感じが繰り返しありますか。
3.日に3回以上、人工涙液を点眼しますか。

II: 口腔症状:1つ以上
1.口内乾燥感を毎日、3ヶ月以上感じましたか。
2.成人になってから、再発性か、あるいは持続性の唾液腺腫脹がありましたか。
3.乾燥した食物を嚥下するために、頻回に飲み物を飲むことがありますか。

III: 眼の他覚所見:一つ以上
1.シルマー1テストで陽性
2.ローズ・ベンガル試験あるいはその他の色素試験で陽性( van Bijsterveld スコアで4以上)

IV: 病理組織所見:フォーカス・スコア4mm2 当たり1以上

V: 唾液腺障害:一つ以上
1.無刺激唾液分泌量が15分間で 1.5ml 以下
2.耳下腺造影撮影で、主導管には閉塞がなく、びまん性の唾液腺導管拡張(点状、嚢胞状、あるいは破壊性の形状)がみられること
3.唾液腺シンチグラフィで、トレーサー集積の遅延、濃度の低下、および(あるいは)排出の遅延がみられること

VI: 自己抗体
抗SSA抗体 and/or 抗SSB抗体

ACR基準(2012) 3項目中2項目以上
1.  抗SSA抗体 and/or 抗SSB抗体  or  ( リウマチ因子陽性  and   抗核抗体320倍以上

2.  口唇生検でフォーカス・スコア4mm2 当たり1以上

3.  角結膜染色試験(OSS) 3点以上 (0-12点評価) (ここ5年間で、緑内障による点眼薬使用、角膜の手術、眼瞼の形成手術を受けていないこと。)

以下の疾患群を除外すること:
頭頸部への放射線照射、C型肝炎、AIDS、サルコイド―シス、アミロイドーシス、GVHD、IgG4関連疾患

抗核抗体や自己抗体の陽性率

  • ANA(抗核抗体) 80-90%
  • SS-A 抗体50-70%
  • SS-B抗体 20-30%
  • 抗セントロメア抗体 -10%
  • RF(リウマチ因子) 50-60%

このように、抗セントロメア抗体という抗体のように、一見全身性硬化症で出てくる抗体でもシェーグレン症候群の方も居ます。つまり、全身性硬化症のように診断されているものの実はシェーグレン症候群という方も居るので注意が必要です。

効果的な漢方薬治療と対策

漢方でシェーグレン症候群は、顕著な「陰虚(体に必要なうるおいが不足している状態)」の状態と考えられます。虚弱体質や慢性疾患などで体力が低下している人によく見られる証で、体を潤し滋養するための漢方薬が中心に用いられます。また自己免疫疾患を生命の根源的な力が破綻している状態ととらえ、「腎」の働きを良くすることが効果的とされます。

黄連解毒湯・・・水の不足により起こる患部の熱感や炎症を鎮める作用があります。目が乾くことで起きやすい充血や炎症をとるのに効果的な漢方薬ですです。体力があり、のぼせやイライラがあるような人に向いています。

麦門冬湯・・・口の乾きに最も使われている漢方薬です。乾いた状態を潤す生薬が多く配合されている他、気を補って体に元気をつける作用があります。咳や気管支炎に対する処方では、喉がカサカサして乾いた咳と少量の粘った痰が出るような症状に効果があります。

人参養栄湯・・・不足している気と血を補うことで、枯渇している水を潤す作用があります。咳を鎮める作用もあります。体力を消耗し体が冷えているような時によく使われる漢方薬です。

 
八味地黄丸・・・腎の働きを補う代表的な漢方薬です。足腰が弱ったり痛む、頻尿があるなど「腎虚」がある場合の口渇に、麦門冬湯と併用すると効果的との報告があります。手足や腰などの冷えがあり、胃腸虚弱でない人に向いています。冷えがなく胃腸が弱いタイプの人には六味丸を、むくみが強いなど水の巡りが悪い人には牛車腎気丸を使用します。

温経湯・・・血の巡りを良くして体を温め、体を滋養して潤すなど多くの作用があります。シェーグレン症候群による皮膚の乾燥に用いられることがあります。血の不足と滞りによる症状に効果がある漢方薬で、生理不順や更年期障害など女性の病気に良く使用されます。

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