潰瘍性大腸炎・クローン病の漢方薬|潰瘍性大腸炎・クローン病の原因と症状

潰瘍性大腸炎・クローン病の炎症性腸疾患とは

潰瘍性大腸炎とクローン病は、いずれも消化管に生じる難治性の「炎症性腸疾患」です。以前は同じ病気と考えられていましたが、現在は全く別の病気であることが分かっています。

炎症性腸疾患は、消化器学会から定期的にガイドラインが更新されています。(https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/ibd2020.pdf

一昔前と比べ、TNF-α製剤や新薬であるウステキヌマブ(ステラーラ®)という抗ヒトIL-12/23モノクローナル抗体製剤やJAK阻害薬などの承認もあり、西洋医学の進歩が著しい病気です。

潰瘍性大腸炎

 大腸の粘膜に炎症が生じてびらんや潰瘍ができる病気です。病変は概ね大腸主体になります。

・症状

大腸の粘膜が出血しやすくなり、血便や粘血便、下痢、腹痛などの症状が起こります。良くなったり(寛解)、悪くなったり(再燃)を繰り返すことが多いのも特徴の一つです。

・原因

原因ははっきりしていませんが、免疫反応の過剰によって炎症が起こるものであり、これにはその他の遺伝的要素や環境因子も関与していると考えられています。

・治療法

治療の中心は薬物によって大腸の炎症を抑えることで、軽症~中等度や寛解維持のために使われる薬や、炎症がひどい時に用いられるステロイド、免疫調整剤、新薬である抗体製剤、JAK阻害薬などがあります。その他として、白血球を吸着・除去する治療が行われることもあります。

以前は食事制限の重要性が強調されていましたが、治療薬の進歩により、現在はガイドラインでも、安易に食事制限を強いるべきではないとされるようになりました。

クローン病

消化管に炎症や潰瘍が生じる病気です。潰瘍性大腸炎と異なり、口から食道、胃、小腸、大腸、肛門など消化管すべての部位に起こる可能性があります。小腸の末端部分や盲腸、肛門部に多く発症し、潰瘍が進行すると腸管が狭くなることもあります。病変部位や年齢により分類する、モントリオール分類という分類が用いられます。

クローン病に対しては、潰瘍性大腸炎と異なり栄養療法が重要な役割を持っています。栄養療法は、患者さんに栄養を胃や腸を使わずに別の方法で与える治療です。

栄養療法は、経腸栄養剤という消化吸収をしやすいものを摂取する方法です。例えば消化態栄養剤は、アミノ酸やオリゴペプチドを窒素源とし、脂肪の含有量が少ない経腸栄養剤です。そのため、腸での消化吸収が容易です。

もう少し細かく分類すると、成分栄養剤は消化態栄養剤の一種で、窒素源としてアミノ酸を使い、脂肪をほとんど含まない特徴があります。一方、半消化態栄養剤は蛋白質を窒素源とし、脂肪もある程度含む経腸栄養剤です。

活動期のクローン病に対する様々な経腸栄養剤の治療効果について、多くのランダム化比較試験(RCT)が行われています。これらの研究を総合的に分析したメタアナリシスでは、消化態栄養剤と半消化態栄養剤の寛解導入効果に明確な違いは見られないことが示されています。

したがって、消化態栄養剤と半消化態栄養剤の間で寛解導入効果に明確な違いはないと言えます。ただし、日本では患者の受容性や嗜好などが考慮され、個々の症例に応じて選択されている状況です。

経腸栄養療法はCDに対する寛解導入効果だけでなく、寛解維持にも効果的です。成分栄養剤を摂取して総摂取カロリーの半分を補完すると、食事指導のみと比べて有意に寛解維持効果が高いと報告されています(参考文献10)。ただし、治療への受容性に課題があるとも指摘されています。

欧米では、栄養療法はステロイドと比べて少し効果が低いという研究結果があります。そのため、欧米では主にステロイドという薬を使って治療することが一般的です。栄養療法はステロイドの代わりや、急性期(症状が悪化している時)の栄養補給に使われています。

しかし、日本では栄養療法がステロイドよりも効果があるという報告があります。特に腸の病変(炎症や傷など)の改善に優れているとされています。そのため、日本では栄養療法を主な治療方法の一つとして取り入れています。

簡単に言うと、欧米では栄養療法よりもステロイドが優先されているけれど、日本では栄養療法が重要な治療法として考えられています。

・症状

主に腹痛、下痢、全身倦怠感、体重減少などの症状が起こります。直腸などに炎症がある場合は血便、病変が肛門部の場合は痔ろうや肛門周囲膿瘍が起こることもあります。症状は潰瘍性大腸炎のように寛解・再燃を繰り返します。

・原因

原因は不明な点が多く、何らかの遺伝的要素や環境因子が関与し、免疫の過剰によって消化管に炎症がおこるものと考えられています。

・治療法

クローン病の治療は栄養療法と薬物療法を基本に行われます。腸管の炎症を抑え、栄養状態を改善して寛解期を維持する事を目的とします。

栄養療法は前述したように、効果は高いとされる一方で、患者さんからの不満もあるため、その折り合いが大切です。

薬物療法としては、腸管の炎症を抑える薬やステロイド、免疫抑制剤など潰瘍性大腸炎にも使われる薬を症状などによって使い分けます。その他として、クローン病の炎症の原因となる物質の作用を抑える薬物が現在注目されています。また痔ろうを合併している症例に抗菌剤を使用することもあります。

腸管の高度な狭窄や多量の出血、難治性の痔ろうなどがある場合は外科的な手術や処置の対象となることがあります。

漢方薬治療と対策

漢方では潰瘍性大腸炎やクローン病には、脾胃(消化器系)が弱っていることを補助してあげるような役割にとどまります。治療の中心というよりは周辺症状で時々検討されるという状況です。東洋医学的な理論としては、炎症性腸疾患は脾胃が弱ることで「湿(余分な水分)」が生まれ、下痢をする原因となります。また湿に何らかの原因で「熱」を帯びる(湿熱)ことで、激しい炎症や腹痛が起こるとされています。出血や粘血便も熱によってしばしば起こると考えられています。これらの状態を改善するものや、症状に合わせた処方を試みることが主な漢方薬治療となります。

西洋薬が非常に進歩しており、良い薬がでてきているため治療の主体は西洋薬で、漢方薬は補助的に、時に使われるイメージです。

大建中湯・・・お腹を温め消化機能を補う作用があり、消化器症状に広く用いられる漢方薬です。近年では抗炎症作用が明らかとなり、クローン病などの炎症性腸疾患に対する効果が期待されています。

黄連解毒湯・・・熱を冷まし炎症を抑える作用のある生薬で構成されている漢方薬です。炎症や腹痛の症状を引き起こす湿熱を取り除く作用があり、潰瘍性大腸炎などの炎症の活動期に用いられます。

五苓散・・・体の余分な水分をさばく作用がある、代表的な利水剤です。潰瘍性大腸炎などで下痢症状が強い場合に湿を除くために用いられます。あまり体質を選ばず使用でき、小児にも使いやすい漢方薬です。

柴苓湯・・・五苓散と小柴胡湯を合わせた処方です。体の余分な水を除き、熱や炎症を鎮める作用があります。免疫反応を調整する働きがあり、ステロイドの減量・中止のためによく用いられる漢方薬です。

十全大補湯・・・気血を補い、病気などで弱った体を回復させる作用がある漢方薬です。免疫力を改善する効果が知られていて、潰瘍性大腸炎やクローン病の免疫異常を改善する目的で使われます。

黄耆建中湯・・・胃腸が弱く、栄養不足で体力が弱っているような人のために処方された漢方薬で、小児にもよく使われます。脾胃を温めて気を補い、体力や免疫力をつける作用があります。痔ろうのような長引く化膿性疾患における再生・治癒効果があり、クローン病以外にも用いられています。

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