バセドウ病とは
バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることにより、新陳代謝が異常に活発になるために様々な症状が起こる病気です。甲状腺機能亢進症の代表的な原因とる病気であり、20~30代の女性に比較的多く見られます。(女性と男性の比率は、10対1~3とされています)
バセドウ病の原因
バセドウ病は自己免疫疾患の一つです。何らかの原因で甲状腺が異物とみなされ、作られた抗体(TSHレセプター抗体)が甲状腺を刺激することで、甲状腺ホルモンが過剰に作られます。
甲状腺ホルモンには新陳代謝を活発にする働きがあるため、過剰になると体のエネルギーを浪費し消耗が大きくなってしまいます。このような免疫の異常が起こる原因ははっきりしていませんが、遺伝的素因や精神的ストレスなどの要因が関係すると考えられています。
また喫煙はバセドウ病の発症や悪化のリスクを高くすることが知られています。
バセドウ病の症状
バセドウ病の主な症状は次のようなものですが、症状の現れ方には年齢や個人により差があります。またバセドウ病を放置すると、高血糖や骨粗鬆症、不整脈や心不全などの心臓病、甲状腺クリーゼ(甲状腺機能のコントロール不良時に起こりやすく、高熱・頻脈・意識障害などの症状が突然現れる)などの合併症を起こすことがあります。
生命に関わる症状もあるので、治療で甲状腺ホルモンをコントロールすることは非常に大切です。
新陳代謝が活発になることによる症状
・動悸、息切れ
・暑がり、多汗
・疲れやすい
・指先や手足、体のふるえ
・体重減少、食べている割に太らない
・イライラ、不眠
・その他、下痢、月経不順、皮膚の痒み等
甲状腺の腫れ(甲状腺腫)
甲状腺全体が腫れて大きくなります。若い人のバセドウ病に多く見られ、首の前側が広がって首が太くなったように見えることがあります。
バセドウ眼症
眼球突出やまぶたの腫れ、白目の充血、目が大きくなったように見えるなどの症状が現れることがあります。バセドウ眼症は個人差があり必ずしも多く見られる症状ではありませんが、まれにものが二重に見えたり視力障害が起きたりすることがあります。
視力の異常や物が2重に見える症状は、バセドウ病によって大きくなった外眼筋や眼窩の脂肪組織によって、視神経が圧迫されて起こる症状であり早急な治療が必要です。その場合の初期治療はステロイドパルス療法で、それで多くは改善しますがそれでも改善しない場合は手術が必要なこともあります。
甲状腺視神経症は、甲状腺機能の数値が必ずしも異常値でない場合もあるため診断が遅くなることがあるのが注意点です。抗体検査をします。
バセドウ病の診断と治療
主に血液検査(血液中の甲状腺ホルモン量やTSHレセプター抗体の測定)や、エコー検査(甲状腺の腫れなどを調べる)によりバセドウ病が診断されます。放射性ヨウ素を用いたアイソトープ検査を行なう場合もあります。
治療は血液検査の結果や甲状腺腫の大きさ、年齢や通院の頻度などを考慮して適した方法が選ばれます。
バセドウ病の薬物治療
甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬)を服用し、甲状腺ホルモンの量をコントロールします。最初は用量を多くし、徐々に減量した後維持量を継続します。
適切な量を服用していれば症状は落着いてきますが、自己判断でやめずに服用を続けることが大切です。薬物治療は長期になる場合もあり、副作用のチェックも含め定期的な経過観察が必要となります。
アイソトープ治療
放射性ヨウ素を服用し、甲状腺の細胞を壊して減らすことで甲状腺ホルモンの分泌量を少なくする療法です。効果には個人差があり、細胞が減り過ぎて甲状腺の機能低下を起こす場合もありますが、その場合は甲状腺ホルモン剤で比較的容易にコントロールできます。
現在妊娠中や授乳中の人には行なわれませんが、将来子どもをもつことへの影響はなく、放射性ヨウ素によるがんなどの心配もないことが統計により分かっています。
手術療法
甲状腺の一部または全部を外科手術で切除する方法です。効果が短期間で現れ、一部切除の場合は術後服薬の必要がなくなる場合もあります。しかし適切な切除量の見極めは困難であり、手術後バセドウ病の再発や逆に機能低下症になることもあります。また首に多少の傷跡が残ることや入院が必要などの点も考慮し、手術療法が適しているかどうか検討されます。
どの治療も効果が高く、年齢や将来の妊娠計画によっても治療方法を変えていきます。約2-3年治療を行うと、3割で寛解に至るとされます。
バセドウ病に使用される漢方薬治療と対策
先に断っておきますが、バセドウ病の治療は非常に進歩して確立されたものがあるため、治療の本体は西洋治療で上記に挙げた治療です。きちんと専門医を受診し、治療計画を立てる必要があります。
漢方の領域ではバセドウ病は、「陽(活動的、熱をもっている等の状態)」が過剰になっていて、暑がりや多汗・興奮などを引き起こす病気と考えます。
陽が過剰になる原因には、陽が強すぎること、お互いにバランスをとっている「陰(静的、冷えている等の状態)」が弱いこと、陰陽ともに弱りバランスを失っていることなどがあります。
またストレスなどにより、精神状態に係わる「心」や、自律神経に関わる「肝」に熱が発生することで、イライラや不眠といった症状が起こりやすくなります。これらを改善する漢方薬を用いることで、症状を落ち着かせたり治療薬以外の西洋薬の減量などの効果が期待できます。
・柴胡加竜骨牡蛎湯・・・体内の熱を冷まして陽が強い状態を抑え、ストレスなどによるのぼせやイライラ・不眠・不安などの症状を改善する作用があります。比較的体力があり、神経質でみぞおち辺りに張りがあるような人に向いています。体力が弱いタイプの人には桂枝加竜骨牡蛎湯を用います。
・白虎加人参湯・・・体にこもった熱を冷まし、熱による渇きを潤す作用がある漢方薬です。体力があり、ほてりや口渇がある、熱で体液が不足して脱水傾向があるといった人に向いています。バセドウ病で強い口渇を訴える例によく効くことがあります。
・炙甘草湯・・・気(活動エネルギー)や血(全身を栄養する)を補い、陰(潤し冷やす働き)を補う作用があります。動悸や疲労感が強いバセドウ病によく用いられます。バセドウ病の症状が長引いて消耗し、口渇や便秘など乾燥した状態にある人に向いています。
・加味逍遥散・・・血を補い、体の熱を冷まし、肝における気や血の巡りを良くする作用があります。バセドウ病による月経不順に伴う、のぼせやめまい・肩こり・頭痛などの症状に効果的です。比較的体力が弱く神経不安やイライラ・不定愁訴などが起こりやすいタイプの人に向いています。
・抑肝散・・・肝の機能を調節し、神経の高ぶりを抑える作用があります。神経興奮やイライラ・不眠などの症状が強い場合に効果的です。