アトピー性皮膚炎の特徴
アトピー性皮膚炎は、アレルギー体質の人や、皮膚のバリア機能が弱い人に多く見られる、悪化と軽快を繰り返す慢性皮膚疾患です。
アトピー性皮膚炎で辛い症状のひとつが「痒み」です。体の中からわきあがり、電気が走るように体中に痒みが伝わり、かいてもかいても痒くてたまらず、刃物でかきたくなるような猛烈な痒みが起こります。かきむしる刺激により皮膚に炎症を起こしているため、皮膚をかくと、赤く盛り上がった皮膚が破れて、血液や滲出液が出てきます。かいては皮膚が破れることを繰り返すうちに皮膚は血だらけでボロボロになってしまいます。
10代になると自然に改善する人が多い一方、10代から20代に症状が悪化する人も多く、皮膚が汚くなっていく自分に自信を喪失したり、自己嫌悪に陥る人もいます。
アトピー性皮膚疾患はなかなか治らないのが特徴で、コントロールに苦労し長期にわたって、ステロイド外用薬や抗アレルギー剤などを使う方もいます。
アトピー性皮膚炎の西洋医学の治療
外用剤による治療が主体となります。最も使われているのは、副腎皮質ホルモン含有の外用剤(ステロイド剤)です。ステロイド剤は強さによって以下の5段階に分類され、状態によって使い分けられます。
Ⅰ群(最強):デルモベート、ジフラール、ダイアコート
Ⅱ群(より強い):フルメタ、マイザー、アンテベート、トプシム、リンデロンDP、ビスダーム、ネリゾナ、テクスメテン
Ⅲ群(強い):エクラー、メサデルム、ボアラ、ザルックス、アドコルチン、リンデロンV、ベトネベート、プロパデルム、フルコート
Ⅳ群(やや弱い):リドメックス、レダコート、ケナコルトA、ロコルテン、アルメタ、キンダベート、ロコイド、デカダーム
Ⅴ群(弱い):プレドニゾロン
ステロイド外用薬には、軟膏のほかに、クリーム、ローション、テープなど様々な剤型があります。乾燥しやすい時期には軟膏をつかい、汗ばむ時期はローションやクリームといったように、季節や部位によって使いやすいものを使うのが基本となっています。
湿疹の状態がひどければ、強いステロイド剤を使い、すばやく炎症を抑え、炎症が落ち着いてきたら、弱いステロイド剤で維持する治療法が一般的です。
軽度の発疹や小児、顔へは非ステロイド剤(プロトピック®など)で対応する場合もあります。さらに、皮膚のバリアー層の回復のために保湿剤も重要です。実はアトピー性皮膚炎のコントロールには保湿が最も重要なのですが、きちんと保湿できている人はとても少ないのが現状です。
また、アレルギー反応や痒みを抑えるための抗アレルギー薬も一緒に処方されます。
アトピー性皮膚炎の漢方医学の治療
漢方医学では、皮膚の炎症を抑える漢方薬、あるいは皮膚の再生力などから防御力を高めて皮膚を守る漢方薬を選択します。体力が落ち、防御力が弱っている場合は、体力を補う漢方薬で治療をし、それ以外は皮膚の炎症を抑える漢方薬を中心に治療をしていきます。
さらに、熱証と寒証の体質の区別が重要です。湿疹の部位が熱く、ほてると訴えても、実際の患者さんの体質は熱証ではない場合が多く、その際に誤って清熱剤を使うと、症状が悪化することもあり注意が必要です。局所的に診ず、全体の証をみて漢方薬を選択していかなければいけないのが難しいようです。
体力がありがっちりした体型の人には大柴胡湯、体力があり月経異常や便秘があれば大黄牡丹皮湯が用いられます。皮膚に分泌物が多い場合には体の熱や余分な水を排出する作用のある越婢加朮湯が用いられます。
皮膚に分泌物が多く、夏に悪化する傾向の人には消風散が用いられます。熱感や痒みを抑え、体質を改善するのに働きます。特にジュクジュクした湿疹に効果があります。
また、気力がなく、だるい、食欲がない場合は、体力をつける目的で十全大補湯や補中益気湯を用い、免疫力を上げ体質の改善をはかります。
実際に服用する際には、担当医に漢方薬を使用する旨伝え、現在服用中の西洋薬があれば、飲み合わせの確認を行うとよいでしょう。
また漢方薬の服用と併せて、自分自身の生活習慣を見直すことも大切です。食事は腹八分を目安に、ハム、ソーセージなどの加工食品、えび、青魚、コーヒー、ピーナッツ、チョコレートなど、アレルゲンになり易い食品を避ける、運動して汗をしっかりかく、汗をかいた後は皮膚を清潔に保つなど、出来ることから養生していきましょう。
アトピー性皮膚炎におすすめの漢方薬の詳細と使い分け
『十味敗毒湯』 ◇化膿を伴う急性の炎症に ‐
体質は中等度で、患部がジュクジュクと湿っており、痒みや熱を持つような初期の症状に十味敗毒湯は適しています。構成生薬の独活、防風、荊芥が患部の熱と湿気をとり去り、柴胡や川芎などが化膿を伴う湿疹を改善します。
著しく胃腸の弱い人は使用を控えてください。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。また副作用として、ミオパチー、消化器症状などが記載されています。
『消風散』 ◇慢性化し分泌物が多い湿疹に ‐
体質は中等度で、症状が広がり慢性化し、かゆみの強い人に消風散は適しています。分泌物の多い湿疹で、舌をみると全体に赤く、わずかに黄色い苔があることが特徴です。
夏の時期に特に症状が増悪するケースがありますが、自宅でも外出先でも冷房完備された現代では例外が多く、またステロイド外用薬を用いている場合は症状が抑えられているので、症状をみて使う漢方薬を選ぶことは困難です。
こうした場合は、漢方の専門家に相談することをおすすめします。消風散は13種類の生薬で構成され、患部の熱を冷ます、痒みを止める、膿や分泌物を排出する、血を補うなどの多様な作用でアトピーの辛い症状を改善します。
胃腸虚弱な人や冷えが強い人には不向きです。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。また副作用として、ミオパチー、消化器症状などが記載されています。
『白虎加人参湯』 ◇身体のほてりと皮膚の熱感、口の渇きがある人に ‐
体質は中等度~やや虚弱で、のどが異常に渇き、舌をみると苔が白く乾燥していて、便秘がちな人に白虎加人参湯は適しています。身体に熱がこもり、その熱を逃がそうと大量に汗をかいてしまった結果、体内の水分が失われ皮膚がほてりかゆみが現れます。
漢方の気・血・水でいうと、気と水に問題があるととらえ、水の足りない「津虚」、パワーの足りない「気虚」を改善していきます。白虎加人参湯はアトピー性皮膚炎の他、熱中症や脱水症状にも使われることがあります。構成生薬のひとつである石膏は強力に身体の熱を取り、人参や粳米が身体に潤いを与え元気にします。
胃腸が弱く体力が著しく低下した人、身体の冷えが強い人には向いていません。食欲不振や吐き気がある人は、必ず専門家に相談するようにしてください。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。副作用として、肝機能異常、ミオパチー、消化器症状などが記載されています。
『温清飲』 ◇皮膚を掻きこわしてしまう人に ‐
温清飲は、身体の熱を冷まし炎症を抑える「黄連解毒湯」と血を補い栄養を皮膚に与える「四物湯」を合わせた薬です。体質は中等度で身体に冷えがあり、皮膚をかくと粉がこぼれ掻きこわして出血してしまうような人で、女性であれば月経困難、月経不順、冷えなどを伴う場合に適しています。
また不眠症や神経症などの精神的な症状にもよいとされています。構成生薬の黄連、黄芩、黄柏、山梔子は身体の熱を冷まし皮膚の炎症を抑え、地黄や当帰は血を補い、身体を温め全身へ巡らすことで皮膚への栄養状態をよくします。
温清飲は胃腸虚弱の人にはおすすめできません。副作用として、肝機能障害、黄疸、消化器症状が記載されています。
『抑肝散』 ◇ストレスで悪化する症状に ‐
ストレスで皮膚症状が悪化する場合は、抑肝散を試してみるのもよいでしょう。体質は中等度からやや虚弱で、ストレスによる不眠などの症状がある人にも適しています。
抑肝散は名前のとおり「肝」の高ぶりを「抑える」「散剤(生薬を粉砕した薬)」であり、主に精神症状に用いる漢方薬のひとつです。漢方では五臓という考えがあり、身体の機能や働きを「肝」「心」「脾」「肺」「腎」の5つに分け、互いがバランスを保っている状態が良いとされています。
興奮して怒りやすいようなイライラタイプは、「肝」が失調しバランスを崩してしまっている状態ととらえます。抑肝散はこの肝の失調を改善することでイライラ気分や怒りを鎮めます。
甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。副作用として、間質性肺炎、肝機能障害などが記載されています。
アトピー性皮膚炎に対して用いられる主な漢方処方一覧
以下に体力別に用いられる漢方処方を挙げます。
- 体力がある人
- がっちりした体型、便秘がち→大柴胡湯
- 分泌物が多い、口が渇く→越婢加朮湯
- 体力が中程度の人
- 分泌物が多い、夏に悪化する→消風散
- 皮膚が乾燥する、のぼせ→温清飲
- 皮膚乾燥気味、手汗がでる→荊芥連翹湯
- 熱感が強い、イライラする→黄連解毒湯
- 体力がない人
- 倦怠感、疲れ、体力がない→十全大補湯
- 気力がない、食欲がない→補中益気湯
ライフスタイルで注意すること
アトピー性皮膚炎は漢方薬だけで治療をしてもすぐにはよくなりません。アレルゲンの除去や、スキンケアなども重要です。アトピー性皮膚炎でダニ反応が陽性な人がほとんどです。室内からカーペットを除去したり、ふとんをよく干したりとダニを増やさないことが大切です。
そして保湿です。お風呂上りの数分以内に保湿をする習慣はできていますか?保湿は、「湿度を保つ」だけなので、からだが一番潤ったお風呂上りに保湿剤を使用し、夜を過ごすのがとても重要です。
参考文献
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)
・漢方薬事典(主婦と生活社)
・漢方薬指導ガイド(南山堂)
・アトピー性皮膚炎(小学館)