葛根湯の特徴
かぜの時に用いられる、昔からなじみの深い漢方薬の一つです。非常に応用範囲が広く、家庭の常備薬に入っていることも多い漢方薬です。
風邪などを発症して数日以内に使用する漢方薬ですので、【風邪のひきはじめに葛根湯】の言葉通り、風邪のひき始めの前半に飲む漢方薬です。
長引く風邪症状に関しては不向きで、その際には柴胡剤と呼ばれる柴胡の入った漢方薬の方が向いています。
⇒風邪の時期・症状に合わせた漢方薬の使い分け
⇒柴胡を使用する漢方薬
葛根湯は、悪寒(寒気で震えてしまうような感覚)の強い風邪の初期で頭痛があり、くびの筋肉が張ったような痛みや肩こりを伴う場合で特に効果があります。
葛根湯が効果を持つのは風邪の時だけではありません。炎症の初期症状に作用するので、中耳炎、神経痛、乳腺炎やじんましんにも応用されています。
西洋の風邪薬と違い、葛根湯には眠気成分が含まれていません。これは風邪薬としての葛根湯の持つ大きなメリットです。むしろ交感神経を刺激する作用がある麻黄(マオウ)が含まれているので、眠気が冴え、仕事中や車の運転中、勉強中などでも安心して服用することができます。
1.風邪の初期に使うと効果的
2.風邪の後半には、他の漢方薬が向いている
3.くびのや肩の「こり」を伴う場合に特に向いている
4.眠気成分が含まれていない
また、葛根湯は炎症に対する作用だけではなく、肩こりの漢方薬としても好んで使用される薬剤です。葛根湯の肩こりに対する研究では、肩こりのある80人を対象に葛根湯を投与したところ、どのような証(漢方薬の処方の仕方の基本になる考え方)であっても、45%以上の方で症状が改善した、という報告がされています。
参考:痛みと漢方2:21-24,1992 より
肩こりに使用される他の漢方薬の使い分けはこちらのページを参考にしてください。
中国・漢時代の傷寒論(ショウカンロン)に記されています。
次のような人に有効です。
- 比較的体力がある人
- 胃腸が丈夫な人
- 悪寒、発熱がある
- くび、肩、背中のこり、こわばりがある
- 頭痛、咳、喉の痛みなどかぜ症状の初期
ちなみに、葛根湯は地域医療で処方される漢方薬ランキングで、芍薬甘草湯・大建中湯に次いで処方率3位の漢方薬とされています。
葛根湯の作用・効果
葛根湯は7つの生薬のうち、葛根(カッコン)・芍薬(シャクヤク)が筋肉の張りを抑える作用をします。そして、麻黄(マオウ)と桂皮(ケイヒ)が発汗を促して気の流れを改善する作用があります。
最近の基礎研究では、葛根湯を使った実験で抗炎症作用が確かめられました。したがって、風邪に限らず、中耳炎、扁桃炎、乳腺炎など、炎症が起こってから熱がでるような急性の病気の初期に広く使われています。
首の痛みと肩こりの葛根湯の効果
炎症が起きた初期症状に加えて、発熱がなくても、くび、肩や背中が緊張している場合にも有効です。
筋肉の緊張によって起こるといわれている緊張型頭痛や、肩こりの治療でもよく処方されています。
実際に、くびから肩、腰にかけて張ったような筋肉の張りを訴えていた患者さんが二週間ほど服用したところ、くびのこりが解消され、痛みが軽減したとの報告があります。
ツムラの添付文書では、肩こりのある80人を対象に2週間から8週間、毎日飲むように治療したところ、31人(約78%)が痛みの改善があった、と記載されています。
痛みを抑える治療として『鎮痛剤(痛み止め)を飲むだけでは、痛みが取れない』という方や、鎮痛剤の副作用が心配な方、シップや電気治療をしても痛みが和らぐのは一時的だという方で、葛根湯を使用し効果があったと驚いて報告下さる外来の方を経験することもあります。
慢性蕁麻疹に対する葛根湯の効果
慢性じんましんに対し、汗の出ない人に葛根湯を用いられますが、それに加えて汗をじっとりとかくタイプのかたには越婢加朮湯を足すと症状が改善する方がいます。
葛根湯が効いてくるまでの時間
漢方薬がどれくらいの時間で効き目が表れるのかという質問をいただくことも多いですが、葛根湯が効果が出るまでの時間は、早い人だと数分から数十分で効果が出る人も居ます(総合診療 vol.26 no.3 2016 – 3 より)
葛根湯の成分
葛根湯は、下記の7種類の生薬からなります。
- 葛根 (カッコン):マメ科のクズの根の周りを除いて乾燥させたもの。薬効は、発汗作用、解熱作用、鎮痛作用、うなじや背中のこわばりを治す働きがあります。
- 麻黄 (マオウ):マオウ科のシナマオウの茎を乾燥させたもの。薬効は、発汗、鎮咳作用の他、気管支のけいれんを抑制する作用があります。交感神経や中枢神経を興奮させる作用のあるエフェドリン類が含まれているため、高齢者や心臓病・高血圧のある人には注意が必要です。
- 桂皮 (ケイヒ):クスノキ科のニッケイの樹皮または枝を乾燥させたもの。 薬効は、「気」の巡りを整え、発汗によって体表の毒を除く働きがあります。解熱作用の他、鎮静作用、血行促進作用、抗血栓作用があります。
- 芍薬 (シャクヤク):ボタン科のシャクヤクの根を乾燥させたもの。薬効は、血行を良くする作用があります。さらに、筋肉のけい れんを鎮め、鎮痛作用があります。
- 甘草 (カンゾウ):マメ科の甘草の根や根茎を乾燥させたもの。薬効は、疼痛緩和作用、緊張を緩める作用があります。
- 大棗(タイソウ):クロウメモドキ科のナツメの果実。料理にも使われるナツメの実です。薬効は胃腸の機能を整えたり、精神を安定させ、筋肉の緊張による疼痛や腹痛などの痛みをやわらげる作用があります。
- 生姜(ショウキョウ:ショウガ科のショウガの根茎を乾燥させたもの。薬効は、体を温め、消化機能を整える作用があります。
葛根湯の副作用
体の虚弱な人、胃腸の調子の悪い人や発汗の多い人には向きません。服用すると、倦怠感が生じる場合があります。
麻黄が含まれていますので、葛根湯を飲んだ後に不眠、発汗過多、頻脈、動悸、血圧上昇、頻尿などの副作用が起こる可能性があります。高血圧や心臓病の既往歴のある人は注意が必要です。
麻黄を含む他の漢方薬、エフェドリン類含有製剤、MAO阻害薬(フェネルジン、トラニルシプロミン、イソカルボキサジドなど)や、カテコールアミン製剤、キサンチン系製剤(後述するテオフィリン製剤)を服用している人の併用は注意してください。
また、配合生薬の甘草(主な成分はグリチルリチン酸)の大量服用により、むくみが出たり、血圧が上る「偽性アルドステロン症」と呼ばれる症状がでる可能性があります。甘草が含まれている他の漢方薬や、グリチルリチン酸を長期で服用する際は注意が必要です。
その他、一般的によくある副作用としてはツムラの葛根湯インタビューフォーム(添付文書のようなものです)からも確認できますが、薬を出す製薬会社が作る公的な書類で、信頼性が最も高いものから引用したものを下記に記載します。
黄疸 | 肝機能酵素の数値が悪くなり、 AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、γGTPの値が悪くなる場合がある |
過敏症 | 皮膚病変として、ぶつぶつや発赤が出る場合がある |
消化器 | 食欲低下、胃の不快感、悪心(気持ち悪さ)、嘔吐が出る場合がある |
こう記載されています。
葛根湯と注意するべき相互作用
葛根湯とテオフィリン製剤の併用に注意
テオフィリンの作用としては、ホスホジエステラーゼ阻害作用によりc─AMP濃度を上昇させることで、エフェドリン同様に気管支拡張作用と心筋興奮作用として働きます。
しかし、テオフィリンは同時に中枢興奮作用(神経の活動を亢進させる作用)をもっています。併用により興奮作用が強くなりすぎてしまった場合に全身痙攣などを起こした報告があります。
その他、麻黄を含んでいる漢方薬との併用は注意が必要です。また、モノアミン酸化酵素阻害剤との併用も注意が必要です。
妊娠中・授乳中に使用できるか?
葛根湯は、妊娠中に禁忌とされる生薬である、巴豆(ハズ)、牽牛(ケンゴ)、商陸(ショウリ)、三稜(サンリョウ)、水蛭(スイテツ)などは使用されておりません。しかし、妊娠中に注意した方がよいとされる成分である大黄、麻黄、牛黄のうち、麻黄が含まれているため、かかりつけの医師としっかりと相談してから指応する方が良いでしょう。
授乳に関しては、一般的には問題ないとされています。文献によっては麻黄が入っている漢方を授乳婦に投与する際は少し気を付けた方が良いと考える報告もあるため、授乳中に使用する薬はかかりつけの医師に相談してみるとよいでしょう。
実際には、特に葛根湯は急性乳腺炎での使用経験も多く、つまり乳腺炎になるような授乳中の方に多く使用されている経験があるため使用しやすいと考えられています。乳腺炎に対する報告では、使用し始めてから2.3週で乳腺の腫れや痛みが改善した、という例が報告されています。
葛根湯の服用方法・飲み方
ツムラ葛根湯エキス顆粒は、通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用します。年齢、体重、症状により適宜増減してください。
葛根湯をうまく効かせるために大事なことは、飲むタイミングと飲み方です。
基本的には、風邪の急性期に用いる薬ですので、発病後1~2日目に服用するのが最も効果的です。
また、多くの漢方薬の飲み方で湯で溶かす方が良いタイプのものが多いのですが、特に風邪の時には体を温めることが重要であるため、お湯で溶いて服用し、温かい食事、暖かい服装で過ごすことが重要です。なかなか効かなかったという方の中には、水で飲んでいて効果が不十分・・という方もいらっしゃいます。
葛根湯が売っている場所
葛根湯は、病院やクリニックで処方してもらい使用することができるほか、薬局でも売られています。【満量処方】と表紙に書いてあるものは、病院で処方されているものと同じ葛根湯になります。コンビニで販売しているかどうか、ですが、葛根湯は第2類医薬ですので、登録販売者の登録を行っていれば処方できる(薬剤師は必要ない)ことになりますが、扱っているコンビニは少ないです。
葛根湯の保存方法
葛根湯の製剤の中で、水分が7%を超えると、変色したり変性したりする可能性があるため、チャック付きのビニール袋や気密性の高いところに保存し、直射日光を避け湿気の少ない涼しいところで、乾燥剤と一緒に保存するのが適切です。