十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)ツムラ6番の効能・効果、副作用

十味敗毒湯の特徴

化膿を繰り返すにきび蕁麻疹(じんましん)アトピー性皮膚炎水虫などに用いられます。また、化膿しやすい人の体質改善としても用いられています。

10種類の生薬が配合されているため「十味」といい、皮膚に溜まっている膿を排毒させるという意味から十味敗毒湯と呼ばれています。

配合生薬に柴胡(サイコ)が含まれているので、柴胡剤の一種です。柴胡剤であるため、ある程度体力のある人に向いています。

西洋医学では、にきび(尋常性挫創)に対しては、患部に塗る外用薬を中心に治療をはじめます。症状が重い場合は、抗菌薬を内服します。抗菌薬を長期に服用すると副作用(特に多いのがめまい)や耐性菌の出現の心配もあるため、漢方薬が役立つことがあります。

華岡青洲家方(ハナオカセイシュウケホウ)に記されています。

次のような人に有効です。

  • 体力が中等度
  • 化膿性皮膚疾患、急性皮膚疾患の初期で、発赤、腫脹、痛みの症状がある
  • 化膿しやすい体質
  • 胸脇苦満の症状がある

十味敗毒湯の作用・効果

防風(ボウフウ)、荊芥(ケイガイ)、独活(ドッカツ)、生姜(ショウキョウ)は、体を温め、体表の毒を除く作用があります。柴胡(サイコ)と甘草(カンゾウ)は、炎症を抑えます。茯苓(ブクリョウ)には、除湿作用があります。川芎(センキュウ)、は、血行を良くしてかゆみを和らげます

膿疱を形成する皮膚疾患や、経験的にじんましん、乳腺炎、アトピー性皮膚炎、ニキビなどに使用されてきた漢方薬で、臨床効果の研究もされています。また急性湿疹、膿皮症、伝染性膿加疹、足白癬(水虫)、白癬、接触性皮膚炎、慢性中耳炎、鼻炎、副鼻腔炎、扁桃炎、リンパ節炎と皮膚だけでなく炎症に対して用いられます。 IL-6を下げる効果も報告されていたり、体質的に膿ができやすいひとに効くことからベーチェット病に応用されることもあります。

ニキビ(尋常性挫創)に対して

臨床試験では、十味敗毒湯のにきびに対する効果は、抗生物質と同等あるいはそれ以上の効果があるとの報告もあります。参考:大熊守也.和漢医 薬学雑誌.1993,10(2) p131

化膿していく傾向を示す皮膚症状を比較的短期間(数週以内)によくさせるように働く処方なので、赤みを帯びた化膿したニキビなどには向いています。

基礎研究も盛んに行われており、十味敗毒湯が持つ抗炎症作用や抗酸化作用などが認められてきており、ニキビに効果がある仕組みとして推定されている機序も多数出てきてます。かつ実際の臨床の場では昔から使用されており、日本の皮膚科学会が作成したニキビのガイドラインである「尋常性痤瘡治療ガイドライン」では、面皰に対してC2、炎症性皮疹に対してC1の推奨度で治療薬として記載されて推奨されています

アトピー性皮膚炎に対して

アトピー性皮膚炎では、毛包炎を合併しているような人では、使用効果があるとされます。皮膚は内臓の鏡と考えられ、心体一如と捉えるためアトピーに対する治療には力が入っています。

ただし、なんとしてもステロイドを避けたい、というのは必要な患者で必要な治療ができないことを意味し、あれた皮膚のかゆみで掻きむしってしまい皮膚が荒れてしまうという悪化の流れを止める必要があり、そのためコントロールが難しい強い炎症がある皮膚病変の場合はステロイド薬や抗菌薬を併用して炎症を抑えるよう考慮することが必要な場合があります。

また、基礎研究の話になりますが、アトピー性皮膚炎はTh2細胞という免疫細胞が強くなりすぎてしまい、体のバランスを崩すのですが、柴胡剤と呼ばれる柴胡を含む漢方薬は、Th2優位の状 態を正常化させるとされており、免疫調整作用があると言われています。

じんましんに対して

原因がはっきりしない慢性のじんましんに有効な場合があります。便秘の場合、下剤を併用するとよいとされています。(一般的に十味敗毒湯を使用する人では、便秘の時に皮疹が悪化することがあり注意とされています)

慢性膿皮症に対して

Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.36 No.4 2012(73)315で慢性膿皮症9例に対し、非常に良好な成績を上げたという報告があります。実際の症例の写真なども掲載されており、一読の価値があります。

掌蹠膿疱症に対して

掌蹠膿疱症は、海外では乾癬という病気のように扱われるのに対し、日本では別の病気として分けられており、治療戦略も異なってきます。漢方薬も治療戦略の一つに入り、掌蹠膿疱症においに対して十味敗毒湯を使用し、特に体力のある人において50%で改善し、自覚症状も70%で改善したという報告があります(ただし実証といってタイプが合っている方のみ)  参考:漢方と最新治療 5巻1号 Page69-74(1996.02)

酒さに対して

顔面の皮膚が敏感になり赤みや湿疹がでる酒さに対して、十味敗毒湯を使用し著効するという報告があります。ただ、赤みに対しては非常に効果がある一方、湿疹に関しては治りきらずほかの治療を併用する必要がある場合があります。参考:漢方医学 (0288-2485)39巻1号 Page61-64(2015.03)

その他、脂漏性湿疹や膿疱性乾癬、乳腺炎などにも使用されることがあります。

十味敗毒湯の成分・効能

十味敗毒湯は、10種類の生薬からなります。

中には、十味敗毒湯に含まれる生薬が樸樕(ぼうそく)ではなく、その代わりに桜皮(おうひ)を使用している場合もあります。現在では、「樸樕(ぼうそく)が含まれる十味敗毒湯」と「桜皮(おうひ)が含まれる十味敗毒湯」の二種類があります。

荊芥(ケイガイ):シソ科のケイガイアリタソウの全草また花穂。薬効は、弱い解熱作用、鎮痒作用、抗菌 (抗結核) 作用があります。

防風(ボウフウ):セリ科の多年草・ボウフウの根。薬効は、解熱作用があります。

川芎(センキョウ):セリ科のセンキュウの根茎を湯通ししてから乾燥させたもの。薬効は「血(ケツ)」と「気」の巡りをよくし、体のバランスを整えます。鎮静作用、鎮痛作用、補血作用、強壮作用があり、頭痛やのぼせ、貧血、月経異常などの婦人病に用いられることが多いです。

・独活(ドッカツ):ウコギ科ウドの根茎。薬効は、発汗作用、鎮痛作用、解毒作用、抗潰瘍作用、鎮静作用、血管収縮作用があります。

柴胡(サイコ):セリ科のミシマサイコの根を乾燥させたもの。薬効は、「熱」をさまし、「気」のうっ滞を除く作用があります。

桔梗(キキョウ):キキョウ科キキョウの根。薬効は、鎮咳作用、去痰作用があります。

甘草(カンゾウ):マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させたものです。薬効は、疼痛緩和作用や、緊張をゆるめる作用があります。

・樸樕(ボウソク):ブナ科クヌギの樹皮。薬効は、解毒作用、鎮咳作用があります。血液の停滞、循環障害、皮膚の化膿性疾患、打撲のうっ血などに用いられます。

茯苓(ブクリョウ):サルノコシカケ科マツホドの菌核。薬効は、利尿作用、健胃作用があります。また、浮腫、めまい、胃内停水、精神安定のために用いられます。

生姜(ショウキョウ):ショウガ科のショウガの根茎をそのまま乾燥させたもの。体を温め、消化機能を整える働きがあります。

十味敗毒湯の副作用

体がひどく弱っている「著しい虚証」の人には適していません。また、食欲不振や吐き気、嘔吐や下痢など、胃腸の弱っている人は慎重に用いる必要があります。

川芎は胃腸障害を起こすおそれがあるとされ、副作用として胃腸症状(腹痛、下痢、嘔気、嘔吐、食欲低下など)に注意が必要です。発疹、発赤、そう痒、蕁麻疹等の報告もあります。

また、配合生薬の甘草の大量服用により、浮腫(むくみ)を生じたり、血圧があがる「偽性アルドステロン症」と呼ばれる症状がでる可能性があります。複数の方剤の長期併用時など、念のため注意が必要です。

また、まれな副作用ですが腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis)とよばれる、おなかの静脈が石灰化をおこすことで、血流障害が起こるという病気の報告があります。日消誌 2014;111:61―68の報告では、平均内服期間は 15.8 年と長く、長期の漢方薬内服が発症に関与する可能性があると報告しています。漢方の中でどの成分(生薬)が起こしやすくしているかはわかっていません。

妊娠・授乳に対しては、添付文書上は妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとなっているため、主治医と相談が必要です。

十味敗毒湯の服用方法

ツムラ十味敗毒湯エキス顆粒によると、通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用するとされています。年齢、体重、症状により適宜増減してください。

吸収や効果を期待する場合には、一般に微温湯にて服用するとよいとされています。悪心・嘔吐などの消化器症状があって飲みにくい場合は、そのまま冷服すると症状が和らぐとされています。

また、効果を得られやすくするために考えるべきこととしては、十味敗毒湯は化膿性炎症をとる漢方ですので、ニキビ跡や色素沈着だけが残るような場合まで改善したときには、処方を変更したり併用に切りかえる、といったきめ細やかな対処がより望ましいです。

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