だるい、疲れ易い、全身倦怠感の漢方薬(効果・使い分け)

■いつもだるい・疲れやすいという方に

だるさや疲れがたまっている、疲れが抜けにくいということで病院を受診する、もしくは外来で「だるさ」を訴える方は多いです。国民生活基礎調査では、「体がだるい」症状は人口の5.3%にみられる症状だったと報告されています。腰痛(9.6%)、肩こり(9.3%)関 節 痛(5.9%)、咳や痰(5.6%)の次に多い症状で、かなりの数の方がいらっしゃいます。

医学的な言葉にすると、それは「全身倦怠感」という言葉で表されます。

実際の診療の中では、次の3つのことを考えます。

・診断が付いていない怖い病気が隠れていないか

・いま治療している病気のコントロールが十分でないのではないか

・体質的な要素や証を見ることで、改善できる要素はないか

全身倦怠感の原因・西洋医学的なアプローチ・鑑別疾患

全身倦怠感(だるさ)は、極端に言ってしまえば、どの病気でも出現してくる症状す。そのため隠れた病気があっても、だるさ以外に症状がない場合、診断はとても難しいです。

そこで医療者が考える西洋医学的な診断アプローチとしては、まず急激にでてきたものなのか、を見極めます。急激な全身倦怠感は危ない病気のことも多いからです。

見逃すと危ない病気には、不整脈や診断されていない糖尿病、感染症(感染症の中には咳や下痢などの症状に乏しいものも隠れています)、副腎不全などがあります。

これらの怖い病気には、だるさ以外の症状が全く出てこずに、どの病気が原因か分からず、診断が遅れ、病気が進行して危ない場合が稀にあります。そのため、急に具合が悪く(だるく)なった場合にはまず急性期病院の受診をおすすめします。特にはじめは内科を受診するとよいでしょう。怖い全身倦怠感は、一般的な血圧/脈拍の測定や血液検査・心電図などである程度絞ることができます。ここで貧血の有無も見ることができます。

それらで、ひとまず怖い病気ではないことを確認した場合、だるさが持続してしまうのであれば、だるさを起こしやすい、普通に診療していても見つかりにくい病気を考えます。

全身倦怠感(だるさ)を起こしやすく、見つかりにくい病気の例としては、甲状腺機能低下症があります。甲状腺機能低下症は、甲状腺というところのホルモンは、車でいうとアクセルを踏んだような状態にしてくれるホルモンで、これが足らない場合は活動に支障が出るためだるくなります。血液検査でTSH、FreeT4を測定することで診断できます。

それと忘れてはいけない全身倦怠感の原因としては、癌があります。管理人の場合は自分の外来で説明のつかないだるさがある場合には、全員に年齢に見合った癌検索を勧めています。女性であれば乳がんや子宮癌を加え、胃がんや大腸がんの検査を行ってもらっています。

漢方薬は全身倦怠感(だるさ)をとってくれます。しかし、一方で怖い病気が隠れていた時に、症状が和らぐために発見が遅れるという事態を起こすリスクがあるためそのようにしています。

あとは、うつ病や不安症なども全身倦怠感の原因になります。うつ病やその予備群が全身倦怠感の原因の方はとても多いです。もし精神的な疾患が背景にあるようであれば、抗うつ薬などでだるさも改善する場合があるため精神科や心療内科に通院を進めます。

飲んでいる薬(抗ヒスタミン薬や眠剤やその他の薬剤)でもだるさの原因になることはありますし、睡眠時無呼吸症候群などもだるさの原因になります。

それらで治せる病気は治します。そしてそれでも解決しない場合、漢方薬を使用し全身倦怠感を改善させるよう選びます。

漢方医学での全身倦怠感(だるさ)の原因と治療

漢方薬では、だるさを次の4タイプに分類します。

1.体を動かす動力が不足する。エネルギー不足やスタミナ切れ。

2.力は有るのに伝達が悪い。気分が落ち込んで動力にならない。

3.生み出すエネルギーに較べ体が重すぎる。肥満や浮腫み。

4.周りの環境のよる。暑い季節の、夏負けなど。

全身倦怠感や疲れ易さに用いる漢方薬

漢方薬の専門用語になりますが、上の1~4の症状は、気虚・気滞・積滯・傷暑と表します。そして、それぞれに対する漢方薬があります。

1、気虚=身体虚弱、スタミナ不足の処方

補中益気湯十全大補湯

2、気滞=うつ気味で気力が湧かない時の処方

柴胡加竜骨牡蠣湯四逆散

3、積滯=肥満やむくみで身体が重い人の処方

浮腫みや水肥りには防已黄耆湯

肥満、脂肪のかたまりには防風通聖散

4、傷暑=夏の暑さ負けの処方

清暑益気湯

それぞれの漢方薬の、漢方的な考え方を解説します。

方意は専門的な話になりますので、もし自分のだるさにあった漢方薬を見たいという方は、弁証のポイントを参考にしてください。

1)補気剤の王様 補中益気湯(出典:脾胃論)

補中益気湯は、体を動かすエネルギー不足やスタミナ切れの状態に使用する漢方薬で、過労や病気の後など、体力が低下し体がだるい方向けの漢方薬です。虚弱な方で疲れやすい人に補ってあげるよう使用します。

・手足がだるい
・声が弱弱しい
・眼に勢いがない
・口の中に唾が多い
・食事の味がなくなる
・熱いものをこのむ
・臍の上の方に動悸をふれる

という症状のうち、当てはまるのが2つ以上あれば補中益気湯が効果を持つ可能性があります。

癌の化学療法の副作用としての全身倦怠感、疲れ、だるさに対しても効果があるとされます。癌による疲労は「陰虚証」の状態とされており、体力低下を補う生薬の人参や黄耆、乾姜、附子などが良いとされ、使用した患者さんの83%で改善したという報告があります。

★漢方医学的な解釈方法・・方意

名前の通り、‘気’の生産の拠点である中焦(脾胃)の働きを賦活し、さらに脾胃の気を肺に上輸して‘天空の清気’(酸素)と結合させ‘元気’を生成させる過程を賦活(活性化)して、文字通り元気を益す薬である。虚弱体質や、過労、病後、ストレスなどで本方の証に陥る者が多い。

★補中益気湯の弁証のポイント

①体がだるい(特に足が重い)
②何もやる気が出ない
③腹部軟弱、臍上に動悸:下腹部が軟弱で、指で押すと容易に陥没する状態。臍(へそ)の上部またはやや左側に、漢方で言う気(体のいろいろな機能を動かすエネルギー)や水(体に有効利用されずに害を成すことになった水分)が逆流していることを意味する。

補中益気湯の効果・効能・副作用・配合生薬

2)気血両虚は十全大補湯(出典:和剤局方)の証

十全大補湯も気力を補う補剤として使用されます。また、免疫能を活性化させたり、手術後の合併症の予防や performance status
の改善という報告があり、薬効薬理として①病後の体力低下に対する作用②手足の冷えに
対する作用③貧血に対する作用④免疫調整作用があげられています。

★方意

補気の基本方、四君子湯に養血の基本方、四物湯を合わせ、さらに肺氣を補う黄耆、心血を養う桂皮を加えた処方で、陰陽気血、内外表裏、総ての虚を補うという意味で十全大補湯と命名された。

脉は沈弱。舌は淡白、腹は軟弱。

★弁証のポイント

①顏色が悪い(貧血)
②皮膚は乾燥傾向
③全身衰弱、消耗が著明

病後、術後あるいは慢性疾患などで、疲労衰弱している場合に用います。

1)全身倦怠感、食欲不振、顔色不良、皮膚枯燥、貧血などを伴う人
2)盗汗、口内乾燥感などを伴う人

に、特によいとされています。

十全大補湯の効果・効能・副作用・配合生薬

3)気が鬱して巡らないときは柴胡加竜骨牡蠣湯(出展:傷寒論)

★方意

少陽病で気鬱を伴う場合。
少陽の枢機が失調して気が全身に行らない結果、普通の少陽病より広い症状が現れる。
全身が重倦い。少陽胆の熱が心に上擾するので煩驚して眠れない。

本来の少陽病に因り胸満(胸脇苦満)と心煩があり、手三焦の失調で小便不利。 胃熱があると讝語や便秘も出る。

★弁証のポイント

①胸満(胸脇苦満):漢方の腹診で、みぞおちから胸のわきにかけて充満した感じで苦しく、肋骨(ろっこつ)の下を押すと抵抗がある症状。
②煩驚(不安、不眠、):ハンキョウと読む。わずらわしいことを指し、何でも気にしてしまい、いろいろと思い悩み、もんもんとしてしまう。驚とは驚くことで、煩驚とは、もだえ苦しみ、イライラとして怒りやすく、神経過敏で外からの刺激に対して過大な反応を示してしまう状態。
③臍上動悸:動悸腹部大動脈の亢進によって、臍上に動悸を認めること。

柴胡加竜骨牡蠣湯の効果・効能・副作用・配合生薬

4)肝気鬱結、肝気犯脾の基本処方 四逆散(出典:傷寒論)

★方意

肝気鬱結して情志が条達しないため、抑鬱、イライラ、胸脇部の脹痛が生じる。肝気が脾に横逆すると、腹痛、腹滿、下痢、腹皮拘急を生じる。少陰の枢機が失調して陽氣が裏に鬱滯させられると、内熱外寒(眞熱仮寒)の証候を呈す。

★弁証のポイント

①肝気鬱結(胸脇苦満、抑鬱):精神的ストレスによる感情抑うつの状態で、多くの病気の原因や憎悪因子となる。漢方的解釈で、気のうっ滞は瘀血(気滞血症)を引き起こしたり、消化器系に影響して全身の機能低下をもたらす。

②肝脾不和(脇痛、腹痛、下痢):ストレスや緊張などの感情的因子で誘発され、肝の機能が不十分だと、怒りやストレスで生じた心理的なエネルギーが処理されないまま肝に鬱積して肝の疏泄作用全体を阻害する。その結果、肝が脾の働きを調節するという機能も妨げられて、脾は正常に働かなくなり、痙攣性の疼痛、気滞による腹満、腹痛、或いは便通異常など種々の消化器症状を惹き起こす。

③陽気内鬱(眞熱仮寒):手足が冷たいが胸腹は熱い・寒けがするが衣服は着たくない・煩渇・のどの乾き・口臭などの症状。

四逆散の効果・効能・副作用・配合生薬

5)浮腫みや水肥りには防已黄耆湯(出典:金匱要略)

★方意

水肥りに用いる。太陰病、裏寒虚証用薬方。ブクブク肥り、色白で多飲、多汗し息切れし易いタイプの人。脉は浮で弱、数のことが多い。舌は湿潤して無苔か薄い白苔。

★弁証のポイント

①ブヨブヨした肥満(風湿身重)
②多汗:よく汗をかく
③下肢浮腫傾向:足のむくみ

水太り傾向の人で疲れやすい場合に適しています。

防已黄耆湯の効果・効能・副作用・配合生薬

6)肥満、脂肪の塊りには防風通聖散(出典:宣明論)

★方意

臓毒を治す。体質的に陽盛内熱の者が外からの風邪を外感し、内に熱が鬱して表裏ともに実証を呈した証である。そのため、悪寒発熱、目の充血、口渇咽痛、欬嗽粘痰、濃尿、便秘等を呈し、脉浮滑、舌質紅、苔黄厚である。雑病では中年肥満で体に毒が蓄積した者を治す解表、清熱、攻下兼備の方剤。

★弁証のポイント

①肥満(食毒):漢方では肥満は陰・陽の体質によって分けられている。陽肥満の多くは食毒体質の実証と気鬱体質の一部になる。過食傾向での肥満や、栄養の吸収効率が非常に高くて同じカロリーをとっても太りやすいタイプに適しています。一方陰肥満という、寒がりで基礎代謝が低く、カロリーを消耗しにくいタイプに対し防風通聖散を用いると肝臓障害を起こすので要注意。

②のぼせ、充血
③太鼓腹、便秘:太鼓腹とは、中年男性によく見られるお腹がプクーと突き出した太り方。

防風通聖散の効果・効能・副作用・配合生薬

7)夏バテの予防と治療は清暑益気湯(出典:医学六要・温熱経緯)

★方意

盛夏、特に高温多湿の暑熱に因って大量に発汗し、気と津液を消耗して、口渇し、食欲減退、倦怠無力、衰弱羸痩、少氣、下痢などの気陰両虚証を呈す者を保養治療する。

★弁証のポイント

①夏バテによる食欲不振
②口渇、多汗、全身倦怠
③心煩:胸苦しさ、煩悶感を指す。

清暑益気湯の効果・効能・副作用・配合生薬

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