PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の原因と症状、使用される漢方薬

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは

PCOSとは「多嚢胞性卵巣症候群」という、月経異常やホルモンの分泌異常が起こる病気です。卵巣の中になかなか発育しない小さな卵胞(卵子が入ったふくろ)がたくさんあり(多嚢胞といいます)、排卵が起きにくくなり月経異常や不妊の原因となります。

診断基準は以下の3つを満たすものとされます。

月経異常(無排卵月経、稀発または無月経など)

多嚢胞の超音波所見

血中の男性ホルモン高値、またはLH(黄体ホルモン)高値 ※FSH(卵胞刺激ホルモン)は正常

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の原因と症状

PCOSの原因ははっきりしていませんが、月経異常には男性ホルモンが関与していると考えられています。PCOSで認められる高いLH分泌や、合併症の一つであるインスリン抵抗性(細胞などでインスリンが働きにくくなった状態)により高くなった血中インスリンが男性ホルモンの産生に関与することが分かっています。

血中男性ホルモンが増えることで卵胞の発育が妨げられ、排卵障害による月経異常が起こるとされています。

PCOSの症状は月経異常や不妊のほか、男性ホルモンの働きによる多毛・にきび、肥満などが代表的です。合併症として、乳汁分泌を促進する「プロラクチン」というホルモンの分泌亢進(高プロラクチン血症)やインスリン抵抗性などがあり、これらも不妊の原因となる可能性があります。

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の治療

PCOSの治療は妊娠の希望の有無により異なりますが、いずれも肥満がある場合は食事や運動による減量を行ないます。肥満解消は排卵しやすい状態にするためや、インスリン抵抗性との関係からも大切なことです。PCOSの根本的な治療は今のところなく症状に合わせた対症療法を行ないます。

・妊娠を希望しない場合

女性ホルモン剤や低用量ピルの投与により月経周期を整えます。将来的な妊娠を考えた治療として行うこともあります。肥満やインスリン抵抗性があるケースでは、インスリン抵抗性改善薬(メトフォルミン)の効果が期待できます。

・妊娠を希望する場合

排卵を起こし、妊娠しやすくするための治療を行ないます。経口の排卵誘発剤が第一選択薬になりますが、効果によってはステロイド剤を併用したり、注射剤の使用や手術も検討されます。排卵を起こすことに合わせて、タイミング法や人口授精などを行なうことで妊娠の確率を上げることができます。これらの治療で効果がみられない場合は体外受精がすすめられます。

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)で使用される漢方薬治療と対策

漢方ではPCOSを、卵巣の周りに起きた血や水・老廃物の滞りが原因で排卵しにくくなった状態と考えます。これらの状態を改善し、体調を整えることは合わせて行う西洋的な治療の効果を上げることにも役立ちます。

また不妊の原因となるストレスや冷えを取り除いたり、全身状態を整えることで合併症を改善するためにも漢方薬の効果が期待できます。

当帰芍薬散・・・血を補い、血行を良くして体を温め、体内の余分な水分を排出する作用があります。PCOSのほか月経困難症や更年期障害など多くの婦人科系疾患に使用されています。比較的体力がなく、冷えや水の滞り(むくみなど)・血の滞りがある人に向いています。

加味逍遥散・・・自律神経に関わる「肝」の働きを整えてイライラ・不安感などを緩和し、血の巡りを良くしてのぼせ(または冷えのぼせ)を改善する症があります。体力中程度以下でストレスによるイライラや不眠・不定愁訴などがある人に向いています。

温経湯・・・血行を良くし体を温め、体を潤す力を補う作用があります。PCOSの排卵障害によく用いられる漢方薬です。体力があまりなく、足腰の冷えがある、唇や皮膚の乾燥があるといった人に向いています。

柴苓湯・・・自律神経を整える、炎症を抑える、体内の余分な水分を排出するなどの作用があります。また体内で作られて分泌されるステロイドホルモンと似た働きをもつ漢方薬として知られ、PCOSの排卵障害に有効であった症例が多く報告されています。体力中程度で、みぞおち辺りの張りがややあり、むくみや尿量減少など水の停滞がある人に効果的です。

芍薬甘草湯・・・筋肉の痙攣を抑える作用から、月経困難症やこむら返りなどによく使われる漢方薬です。一方で、高くなった血中の男性ホルモンやプロラクチンを下げる効果が知られていて、これらが原因のニキビや高プロラクチン血症の治療に用いられることがあります。

八味地黄丸・・・生殖機能に関わる「腎」の働きを補う作用があり、卵胞や卵子の発育のための効果が期待できます。冷えがあり疲れやすく、むくみなど水の停滞があり、胃腸が比較的丈夫な人に向いています。

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