顎関節症に使用する漢方薬

顎関節症とは

顎関節とは両耳の穴の前辺りにあり、口を開閉した時に動く関節の部分です。顎関節の間には関節円板という組織があり、食物を噛んだりするときに顎や頭の骨に力がかかり過ぎないためのクッションの役割をしています。この関節円板が何らかの原因でずれたりすることで、口の開閉がしづらくなったり、顎に痛みが起こったりするものを顎関節症といいます。

歯科医の免許で漢方薬の処方が可能なことと、口腔外科の歯科医の中には漢方薬の領域に造詣が深い方も居ることから、漢方薬の使用は少しずつ増えています。

顎関節症の症状

顎関節症とは、原因や状態が様々であっても、顎関節やその周辺筋肉などに障害があるものの総称であり、主に次のような症状が起こります。

・顎の痛み(顎関節痛)

口の開閉時や食事中(特に硬いもの等)などの咀嚼時に、ずれた関節円板がひっかかったり、周囲の組織に炎症が起きたりすることで痛みが生じます。

・口が開けづらい(開口障害)

口が大きく開けられない、口がまっすぐに開かないなどの症状が見られます。口を大きく開けた時、自分の人差し指から薬指までの3本指が縦に入るか、という自己チェック法があります。突然口が開かなくなる場合や、徐々に開かなくなる場合があります。

・顎が鳴る(顎関節雑音)

関節円板のずれや変形などにより、口の開閉時や咀嚼時にカクカクやガリガリといった音がすることがあります。

顎関節症の原因

顎関節症の原因として、日常的な歯の食いしばりや睡眠時の歯ぎしり、不正咬合(噛み合わせの異常)、左右どちらか片方だけで咀嚼してしまう、顎の外傷からの発症、などがあります。

ストレスは食いしばりや歯ぎしりの原因にもなるので注意が必要です。

顎関節症の治療

顎関節症は主に保存的治療で症状の緩和をはかります。医療機関での治療だけでなく、日常生活における顎関節への負担を減らすことも重要です。

硬い食品を避ける、歯の食いしばりや左右どちらかに偏った咀嚼などの癖に注意する、顎の筋肉のストレッチ、などを心がけるようにすると効果的です。頬杖をつく姿勢などは、顎関節症の原因になるので避けましょう。

保存的治療で症状が緩和しない場合は、外科療法が検討されることもあります。

・薬物療法

非ステロイド系消炎鎮痛薬や、筋肉のこわばりをほぐす筋弛緩薬を用いて、顎関節の痛みや炎症を抑えます。

・スプリント療法

プラスチック製のマウスピース(スプリント)を歯に装着することで、食いしばりや歯ぎしりによる顎関節への負担を軽減します。

・その他、噛み合わせの治療、手技による関節円板のずれの修正、ホットパックやストレッチなど

・外科療法

関節内部を洗って痛みの軽減をはかる「関節口腔内洗浄療法」や、関節円板と骨の癒着をはがす手術(主に内視鏡下)を行うこともあります。

顎関節症に使用される漢方薬治療と対策

漢方では痛みの原因は、気(活動エネルギー)や血(血液やその働き)の流れが滞ったことであると考えます。気血の流れを妨げるものには、冷え・湿気・炎症などによる熱、といったものがあります。

また、顎関節症の原因となるストレスは、自律神経の調節などに関わる「肝」の機能低下によるものと考えます。顎関節症にはこれらの状態を改善する漢方薬が効果的です。

葛根湯・・・体表を温めてぞくぞくするような寒さを緩和する、発汗・解熱、首や肩の筋肉の凝りをほぐす、などの作用があります。風邪に使われることで有名な漢方薬ですが、頭痛や耳鼻咽喉科領域の炎症・肩凝り・神経痛など上半身の症状にも効果的です。体力中以上で自然な発汗がなく、首筋や肩などの凝りがある人に向いています。

防已黄耆湯・・・体内の余分な水分を利尿し、関節などの痛みを和らげ、消化器官を整えて気を補う作用があります。筋肉が柔らかい水太りタイプで、足のむくみなど水の停滞があり、多汗傾向がある人に向いています。

白虎加人参湯・・・体の熱や炎症を冷まし、潤いを与えて必要な体液を保つ作用があります。体力があって、ほてりや口の渇きがあり、冷たい水を多量に欲しがるような状態の人に効果的です。

加味逍遥散・・・肝の機能を高めて自律神経の働きを整え、体を温めて血の巡りを良くし、うつ状態を解消する作用があります。比較的体力がなく神経質なタイプで、イライラや不安感・のぼせ・冷えのぼせ・不定愁訴などがある人に向いています。

抑肝散・・・肝の働き過ぎを抑えて、神経の高ぶりを鎮め、筋肉のこわばりを緩める作用があります。神経が興奮してイライラ・不眠などの症状があり、怒りなどの感情のコントロールが効かないという人に向いています。ストレスが高じて体力が低下したり、胃腸の働きが落ちているような場合は、抑肝散加陳皮半夏を使用します。

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