頭皮は毛穴が特に多く、皮脂や水分の分泌や調整が盛んにおこなわれています。また毛髪で覆われているため、常に湿度の高い状態を保っています。環境を調整する要素の状態に応じて使用を分けますが、分け方は2通りあります。1つは頭皮の状態に応じた使い分け、1つは頭皮の病気に合わせ、その状態ごとに使いわける方法です。前半では頭皮の状態に合わせた使い分けを解説し、後半では病名ごとでよく使われる処方を紹介します。
頭皮は、皮膚の状態・湿度を保つ分泌の状態のバランスにより良い状態が保たれます。頭皮はこうした環境であるため、不衛生にすれば皮脂や汗の汚れでかゆみが現れ、逆に清潔を保つために身体に合わないシャンプーで強力に洗髪すれば、頭皮にとって必要である適度な皮脂や水分までが奪われ、肌を保護する機能が低下した結果、真菌などに感染し皮膚病を起こす場合もあります。
また洗髪後、シャンプーやコンディショナーなどが十分の洗い流せず頭皮に残ってしまえば、頭皮はそれらを異物と判断し防御するため炎症を起こします。紫外線や冬の乾燥、精神的なストレスや疲労、バランスの悪い食事などで頭のかゆみが現れることも決して少なくありません。かゆみや炎症が酷いようであれば、薬局の薬剤師や登録販売者に相談して専用の治療薬を選んで使用することもよいでしょう。
かゆみの対策としては、適度な入浴で頭皮をいつも清潔にしておく、出来るだけ添加物の少ない安全なシャンプーを選ぶ、野外で過ごすときは必ず通気性のよい帽子を被る、白砂糖を使った菓子やチョコレート、揚げ物を控えるなど、身近なことで日々改善できることを積極的に行うことが非常に大切です。その上で、自分の体調や体質に合った漢方薬を選び、しっかり服用すれば改善も早いでしょう。
【頭のかゆみにおすすめの漢方薬】
『黄連解毒湯』 ◇イライラ高血圧タイプのかゆみに –
黄連解毒湯は、普段から身体に熱がこもりやすく、よく顏を赤くして興奮するようなイライラタイプに適しており、日焼けによる皮膚の炎症やかゆみをはじめ、鼻血や痔出血など粘膜からの出血に改善が期待でき、動悸や不眠、苛立ちなどの精神神経症状にも有効です。
頭皮については、皮脂の分泌が多くベタベタしたフケがはりついているような状態で、このタイプの人は普段からお酒を飲みすぎたり、食べ過ぎたりしている傾向があります。
過食によって胃腸に負担がかかり、さらにストレスで気が巡らないため、身体の中に湿気と熱がこもってしまっている状態です。これらを改善するために、黄連解毒湯は強力に身体の熱を冷まし同時に湿気を取り除く4つの生薬で構成されています。同じような症状で便秘の人は三黄瀉心湯も考慮するとよいでしょう。
体力のない虚証タイプ、胃腸虚弱な人は使用を避けてください。副作用として、肝機能障害、間質性肺炎、黄疸などが記載されているため、服用前に専門家に相談することをおすすめします。
『加味逍遥散』 ◇月経によるストレスやホルモンバランスのくずれによるかゆみに ‐
普段から神経過敏でイライラしたり、人から批判などを受けると心が乱れたりするタイプで、疲れやすく、肩こりや月経痛、冷えなどがある人の頭のかゆみに加味逍遥散は適しています。
これらの症状をかかえる人は、漢方でいう「気」(パワー)の滞りと「血」の滞りに原因があると考えられています。構成生薬の薄荷(はっか)が持つ清涼感には、発汗や特に頭部のクールダウンの作用があり、身体の中で滞っている気を巡らせる働きがあります。また柴胡が身体の熱を冷ましイライラを鎮め、牡丹皮のは血流を改善して皮膚に元気を与えます。加味逍遥散は主に女性に使われる漢方薬ですが男性にも使えるので、同じような症状があれば気にせず薬局で相談してみてください。
甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。また副作用として、間質性肺炎や肝機能障害、消化器症状、発疹などが記載されています。
『当帰飲子』 ◇冷え症で皮膚が乾燥しているかゆみに ‐
当帰飲子は、血の不足や働きが弱くなっている「血虚」の状態で、皮膚の血色がなく、乾燥してカサカサしているタイプの慢性のかゆみに適しています。
細かいフケがパラパラ落ちるのは頭皮の乾燥を伴うかゆみです。もともと血虚で皮膚が栄養不足の状態があり、さらにシャンプーのし過ぎや紫外線などのダメージで頭皮に必要な皮脂や水分がうばわれ乾燥してしまうことが原因です。
構成生薬の荊芥と連翹は主にかゆみを取り去り、当帰と地黄は「血虚」の状態を改善し、補中益気湯や十全大補湯などにも含まる黄耆は、皮膚の栄養を改善します。血のめぐりがよくなれば、身体にある冷えも改善されます。
ただし、当帰飲子は頭皮が赤く炎症を起こし、分泌物がでるような皮膚のかゆみには向いていません。
体力のない人、食欲不振や吐き気がある人は注意が必要です。必ず専門家に相談するようにしてください。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。副作用として、ミオパチー、消化器症状などが記載されています。
『白虎加人参湯』 ◇暑い時期、身体のほてりを伴うかゆみに ‐
のどが異常に渇き、舌をみると苔が白く乾燥していて、便秘がちな人のかゆみに白虎加人参湯は適しています。身体に熱がこもり、その熱を逃がそうと大量に汗をかいてしまった結果、体内の水分が失われ皮膚がほてりかゆみが現れます。
漢方の気・血・水でいうと、気と水に問題があるととらえ、水の足りない「津虚」、パワーの足りない「気虚」を改善していきます。白虎加人参湯は頭のかゆみの他、アトピー性皮膚炎や、熱中症や脱水症状にも使われることがあります。構成生薬のひとつである石膏は強力に身体の熱を取り、人参や粳米が身体に潤いを与え元気にします。
胃腸が弱く体力が著しく低下した人、身体の冷えが強い人には向いていません。食欲不振や吐き気がある人は、必ず専門家に相談するようにしてください。甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。副作用として、肝機能異常、ミオパチー、消化器症状などが記載されています。
■病期が原因の頭のかゆみ
頭のかゆみは、下記のような様々な原因で起こってきます。思い当たるものはありますでしょうか?
・接触性皮膚炎
シャンプーや整髪料などが体に合わないと、接触性皮膚炎(いわゆる「かぶれ」)になることがあります。シャンプーなどのすすぎが不完全な場合にも起こることがあります。
・頭ジラミ
頭皮に寄生し、頭皮から血液を吸って生きる昆虫です。刺されると強いかゆみが生じ、髪を調べると頭ジラミの卵が発見されることが多いです。プールや子供同士が頭をくっつけて遊んでいる時にうつることもあります。
・アトピー性皮膚炎
ハウスダストやダニ、食べ物などが原因となり引き起こされる皮膚疾患です。皮膚がジクジクまたはカサカサした状態になり、かゆみを伴う湿疹ができます。ジクジクするタイプは夏場に、カサカサするタイプは冬場に悪化する傾向があります。
・脂漏性皮膚炎
頭や顔、胸など皮脂の多い部位に常在菌が原因で起こる皮膚疾患です。頭皮の赤みやフケが多くなるなどの症状が出ます。かゆみはあまり強くありません。
・乾癬
赤く盛り上がったような発疹ができ、表面はフケのような白っぽい状態になりかゆみが強いです。頭はよく乾癬ができる場所です。原因は遺伝的素因やストレスなどの環境因子が組み合わさって起こるという説が有力です。
効果的な漢方薬治療と対策
漢方薬が特に期待できる疾患について、その使い分けを見ていきましょう。
■アトピー性皮膚炎に使用される漢方薬
・消風散・・・ジクジクと分泌物が多くかゆみがあり、夏場に悪化するタイプのアトピー性皮膚炎に適しています。抗ヒスタミン作用や抗アレルギー作用が認められている漢方薬です。体力中等度以上の人に使用します。
・黄連解毒湯・・・分泌物はそれほど多くなく、赤みやかゆみが強い場合に使用します。比較的体力がある人向けの漢方薬です。
・当帰飲子・・・皮膚が乾燥し、発疹に熱感や赤みがない場合に用いられます。体力がない、貧血傾向といった人に向いています。
・温清飲・・・患部が乾燥して熱感や赤みがあり、かゆみが強い場合に使用します。体力中等度で、顔ののぼせがある人に向いています。
・荊芥連翹湯・・・体力中等度以上で、肌が浅黒いタイプの人に向いています。皮膚に炎症があるような場合に使用します。
■脂漏性皮膚炎に使用される
・十味敗毒湯・・・血行を良くしてかゆみを抑え、炎症を改善します。体力中等度で、化膿しやすい体質の人に向いています。
・黄連解毒湯・・・体の熱を冷まし、炎症を鎮めます。比較的体力があり、のぼせやすくイライラする人向けの漢方薬です。
・荊芥連翹湯・・・細菌の増殖を抑え、炎症を鎮める効果があります。比較的体力がある人に向いています。
・抑肝散加陳皮半夏・・・炎症や熱を取る作用の他ほか神経の高ぶりを鎮める効果もあり、脂漏性皮膚炎を悪化させる要因であるストレスを軽減します。体力がなく、イライラなどの神経症状がある人に向いています。
■乾癬に効果的な漢方薬
乾癬の赤く炎症を起こした発疹の状態から、漢方では「血熱(血に熱をもっている)」の状態と考えます。この血熱を冷ます作用のある処方を主として、皮膚状態に合わせた漢方薬が使用されます。
・黄連解毒湯・・・血熱をとる効果があります。体力がある人に使用します。
・温清飲・・・血熱をとり、肌に潤いを与える効果があります。体力中等度で肌が乾燥する人に向いています。
・当帰飲子・・・乾燥した肌に潤いを与え、かゆみを抑えます。体力がない人に向いています。