柴胡加竜骨牡蛎湯の特徴
比較的体力はあるが、神経質で精神的に不安定な人や、高血圧や動脈硬化症、慢性腎不全の症状に伴う、動悸や不眠などの症状に用いられる漢方薬です。
みぞおちから肋骨下部が強く張って苦しく「胸脇苦満」という症状と、へその上あたりに拍動をともなう症状が「柴胡剤」を処方する診察のポイントとされています。
イライラ症状は、東洋医学でいう「気」の異常や、「肝(カン)」の乱れとらえます。柴胡加竜骨牡蛎湯には精神安定作用があるため、神経衰弱症やてんかん、ヒステリーなどにも使用されます。
中国・漢代の「傷寒論(ショウカンロン)」に記載されている処方です。
次のような人に有効です。
- 比較的体力はある
- 神経質、精神不安がある
- 動悸、不眠、便秘などを伴う
精神を安定させる他の漢方薬は、
■神経質で不眠、動悸、腹部に動悸があり虚弱な体質の人は、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)を用います。
■神経質で不眠、腹部に力がなく、体力が虚弱な人は桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)を用います。
■肝気が高ぶり、神経過敏で興奮しやすく、へその脇に動悸がある人は抑肝散(ヨクカンサン)を用います。
■神経症状が激しく、狂躁状態、よくあくびをする人は甘麦大棗(カンバクタイソウトウ)を用います。
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柴胡加竜骨牡蛎湯の作用・効果
柴胡(サイコ)と黄芩(オウゴン)はイライラを解消し、精神を安定させる作用があります。
竜骨(リュウコツ)、牡蛎(ボレイ)、大黄(ダイオウ)は熱をさまし、精神を安定にする作用があります。
茯苓(ブクリョウ)は、体内の余分な水分を排泄し、胃腸を整え、精神を安定させる作用があります。
桂皮(ケイヒ)は気を巡らせる作用があります。
半夏(ハンゲ)、生姜(ショウキョウ)は胃腸を温めて、吐き気を止める作用があります。
人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)は胃腸の働きを強め、体力を増進する作用があります。
薬効試験では、血圧降下作用や動脈硬化の抑制作用、神経興奮を抑える作用(そのためパニック障害に使用する場合もあります)、また抗けいれん作用などが報告されています。
男性不妊症に対しての効果
男性不妊症に、柴胡加竜骨牡蛎湯が使用されます。特に気うつとよばれる状態(感情が不安定、ドキドキしたり、イライラ、不眠などがある)という方に使用します。不妊症であることにイライラが募ってしまい、それが原因で行為自体がうまくいかない、という方などに使用されます。男性更年期障害(LOH症候群)の治療にも使用されています。
男性の不妊症では、20歳代~40歳代の働き盛りで、体力もある方で向いているとされます。小宮医師が2010年に報告した39人の不妊症男性患者を対象にした柴胡加竜骨牡蛎湯の研究では、治療効果として濃度と運動率が評価されており、治療効果が見られたと報告し、妊娠率は21%と報告しています。
機序としては、柴胡加竜骨牡蛎湯を投与したネズミで、精巣上体細胞で蛋白合成促進が認められている、ということからなにかしら影響を与える可能性があると考えられています。
更年期女性のうつに対する効果
更年期のうつ病に柴胡加竜骨牡蛎湯が使用されます。もともと更年期のうつ病は、ライフイベントとのかかわりが大きいです。具体的には、子供関連のことや、夫婦関連のことや、家族関連のことなど、家庭環境の変化などがしられています。とくにイライラが強い時に瞼がピクピクするような症状や、不安が強い方に向いています。
のぼせや動悸に対する効果
もともと少し体力はあるがっちり目な人で、気持ちが落ち着かず、急にのぼせや動悸がでてきてしまう、という方に向いています。
うつ・抑うつ・不眠に対する効果
うつに対して頻繁に使用される漢方薬の一つが柴胡加竜骨牡蛎湯です。体格が比較的よく、がっちりした人で不安を感じるうつに対して使用されます。
柴胡加竜骨牡蛎湯の成分
柴胡加竜骨牡蛎湯は、11種類の生薬からなります。(ツムラ漢方には、大黄(ダイオウ)は含まれていません。)
・柴胡(サイコ):セリ科のミシマサイコの根を乾燥させたもの。薬効は、「熱」を冷まし、「気」のうっ滞を除く作用があります。
・竜骨(リュウコツ):古代大型哺乳類の化石化した骨。炭酸カルシウムが主成分です。薬効は、中枢神経抑制作用があります。
・牡蛎(ボレイ):イタイボガキ科のカキの貝殻。薬効は、鎮静作用、鎮痛作用、収れん作用、制酸作用があります。胃酸過多、胃痛、寝汗、動悸、夢精、精神不安、不眠などの症状に効果があります。
・黄芩(オウゴン):シソ科のコガネバナの根の周りを除いて乾燥させたもの。薬効は、「熱」を冷ましながら、「水(スイ)」の滞りを除く作用があります。みぞおちのつかえや、胃の不快感、膨満感、下痢の症状を改善します。
・大黄(ダイオウ):タデ科のダイオウの根茎を乾燥させたもの。便秘を改善する作用、「気血(キケツ)」の過剰状態を解消して、「熱」をさます作用があります。
・半夏(ハンゲ):サトイモ科のカラスビシャクの塊茎を乾燥させたもの。薬効は、「水(スイ)」の代謝障害を改善し、「気」の巡りを調節します。嘔吐、悪心、めまい、頭痛などを改善する作用があります。
・人参(ニンジン):ウコギ科のオタネニンジンの根をそのまま、または湯通しして乾燥させたもの。薬効は消化機能を高め「気」の生成を増して、体力を回復させる作用があります。
・茯苓(ブクリョウ):サルノコシカケ科のマツホドの菌核を乾燥させたもの。余分な水分を排泄させるとともに、胃腸を整え、精神を安定する作用があります。
・桂皮(ケイヒ):クスノキ科のニッケイの樹皮または枝を乾燥させたもの。「気」の巡りを整え、発汗によって体表の毒を除く作用があります。解熱作用、鎮静作用、血行促進作用、抗血栓作用があります。
・生姜(ショウキョウ):ショウガ科のショウガの根茎をそのまま乾燥させたもの。薬効は体を温め、消化機能を整える作用があります。
・大棗(タイソウ):クロウメモドキ科のナツメの果実。料理にも使われるナツメの実です。薬効は、胃腸の機能を整えたり、精神を安定させたり、筋肉の緊張による疼痛や腹痛などの痛みをやわらげる作用があります。
柴胡加竜骨牡蛎湯の副作用
虚弱体質の人や軟便、下痢のある人には適していません。大黄には下痢作用があり、下痢作用は個人差があるため症状が出やすい人はいます。体力が落ちているときも症状が出やすくなることがあります。
大黄には、便を出す作用の他に、子宮収縮作用や骨盤内臓器の充血作用がありますので、妊娠中の方が服用すると、流産の原因になる可能性があります。服用の際は医師とよく相談してください。
間質性肺炎や、肝障害を起こす場合もあります。
柴胡加竜骨牡蛎湯の服用方法
ツムラ柴胡加竜骨牡蛎湯エキス顆粒によると、通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用するとされています。年齢、体重、症状により適宜増減してください。