越婢加朮湯の特徴
関節の熱や腫れ、痛みを発散する漢方薬です。熱(炎症)と水分調整に用いられるため、熱(炎症)がある、つまり関節の熱や腫れや痛みを発散する効果があります。関節炎に使用されたり、局所の腫れをとるため花粉症(粘膜の腫れ)をとるための漢方薬です。関節リウマチのような関節が腫れる病気が適応になります。
ただし、関節リウマチの治療と漢方薬のページに書かせていただいたように、この薬剤単独でリウマチの治療には使用できません。関節リウマチの治療は西洋薬により大きく発展しており、治療・予後が大きく変わった疾患ですので、漢方だけで治すという姿勢を改め、きちんと薬を使用する方が良い典型的な疾患です。
また、水分調整の作用を持っています。水分調整は、水毒を改善するため、むくみのある例で使用されます。具体的には、腎炎、ネフローゼ、湿疹、夜尿症、花粉症などに用いられます。
中国・漢時代の「金匱要略(キンキヨウリャク)」に記されています。
次のような人に有効です。
- 比較的体力がある
- むくみがある
- 関節が熱を帯びたり、腫れている
- 口が乾く
- 鼻粘膜が赤い
むくみがある方で、強い熱感(または暑がり)があり、冷水を飲みたいと感じられる方で、汗が出るけれども尿量が少ないという方にむいています。
また、関節炎や皮膚炎があり,病変部に炎症(熱感・腫脹・発赤)を伴うというような方に効きやすい漢方薬です。
五苓散と比較した時の使い分けとしては、熱感(熱さ)を伴うような場合には越婢加朮湯が選択されます。
越婢加朮湯の作用・効果
麻黄(マオウ)は、発汗作用があり、熱や痛みを発散します。石膏(セッコウ)は熱をとって体を冷やす作用を、蒼朮(ソウジュツ)は余分な水分を取り除く作用をします。生姜(ショウキョウ)も水はけをサポートします。これらの生薬が組み合わさることにより、体内の熱や余分な水分を発散する効果を発揮します。
朮は、「利水滲湿薬」または「滲湿利水薬」というカテゴリーで、ツムラのものもコタローのものも蒼朮が使われているため、水の除去に効果を持ちます。
変形性関節症に対する越婢加朮湯の効果
関節症状としては、脳卒中後肩手症候群や、変形性関節症(の中で、局所が腫れて押すと痛いタイプで、投与8週間での痛みの低下や歩行能力の改善)という臨床報告も出てきています。
花粉症に対する越婢加朮湯の効果
鼻が浮腫んで鼻水が出ることに加えて、赤みや口の渇きがあるような花粉症に対して、越婢加朮湯が適しています。
スギ花粉症の方51人に対する臨床研究では、越婢加朮湯を使用し66%で有効率を認め、小青竜湯の有効率45%を上回る効果を認めたという報告があります。この研究では、耳鼻科で鼻の粘膜を見ながら適応漢方を検討しています。
耳鼻科に来るような、今腫れて困っているという人では炎症が強いことが多く、それがよく効いた要因では、と推測されています。アレルギー性鼻炎に対する有効性・効果に関しての報告は他にも多数あります。(参考:日本東洋医学雑誌Vol. 60 (2009) No. 6 P 611-616)
慢性じんましんに対する越婢加朮湯追加効果
慢性じんましんに対し、汗の出ない人に葛根湯を用いられますが、それに加えて汗をじっとりとかくタイプのかたには越婢加朮湯(葛根湯+越婢加朮湯)を足すと症状が改善する方がいます。
越婢加朮湯の成分・効能
越婢加朮湯は、下記の6種類の生薬からなります。
- 麻黄(マオウ):マオウ科のシナマオウの茎を乾燥させたもの。薬効は、発汗、鎮咳作用の他、気管支のけいれんを抑制する作用があります。交感神経や中枢神経を興奮させる作用のあるエフェドリン類が含まれていますので、高齢者や心臓病・高血圧のある人には注意が必要です。
- 石膏(セッコウ):天然の含水硫酸カルシウム。薬効は解熱作用、鎮静作用、消炎作用があります。
- 蒼朮(ソウジュツ):キク科のホソバオケラの根を乾燥させたもの。薬効は、「水滞」の改善し体内の水分代謝を正常にする作用があります。さらに、消化機能を高める作用もあります。
- 大棗(タイソウ):クロウメモドキ科のナツメの果実。料理にも使われるナツメの実です。胃腸の機能を整えたり、精神を安 定させ、筋肉の緊張による疼痛や腹痛などの痛みをやわらげる作用があります。
- 甘草(カンゾウ):マメ科の甘草の根や根茎を乾燥させたもの。疼痛緩和の他、緊張を緩める働きがあります。
- 生姜(ショウキョウ):ショウガ科のショウガの根茎をそのまま乾燥させたもの。薬効は、体を温め、消化機能を整える働きがあります。
越婢加朮湯の副作用
体力の充実している「実証」向けの漢方ですので、体の虚弱な「虚証」の人、胃腸の調子の悪い人、また、発汗の多い人には向きません。
麻黄が含まれていますので、不眠、頻脈、動悸、血圧上昇などの副作用が起こる可能性があります。高血圧や心臓病、脳卒中既往など、循環器系に病気のある人は慎重に用いる必要があります。エフェドリン類含有製剤、甲状腺製剤(チラーヂン)、カテコールアミン製剤(アドレナリン、イソプレナリン)、テオフィリン(テオドール)を服用している人で麻黄湯を服用する際は注意してください。
麻黄 1 g中にエフェドリンは約 10 mg 含有されているといわれており、 越婢加朮湯の 1 日量には、60 mg のエフェドリンが含まれる計算になります。これはかなり多い量です。
花粉症の高齢者では、越婢加朮湯の切れ味のよさから、自己判断で多めに飲んでしまう場合があり注意が必要です。また高齢者では血圧上昇などの副作用や下痢などの消化器症状が出やすくなるため注意して使用することが必要です。
また、配合生薬の甘草の大量服用により、浮腫(むくみ)を生じたり、血圧が上る「偽アルドステロン症」と呼ばれる症状がでる可能性があります。複数の方剤の長期併用時など、念のため注意が必要です。肝臓治療薬であるグリチルリチン(グリチロン等)を服用している人は注意してください。
越婢加朮湯の服用方法
ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒によると、通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口服用するとされています。年齢、体重、症状により適宜増減してください。
高齢者には減量したり、胃腸にもたれる場合は減量または二陳湯を併用します。