しみ(肝斑)、肌荒れの漢方薬(効果効能・使い分け)

しみや肌荒れ症状の特徴

しみは、色素が皮膚の局所に増加した状態をいいます。そばかす(雀斑)、しみ(肝斑)、老人性色素斑や、ニキビや湿疹、日焼け後に生じるしみもあります。

肝斑は、眼の周囲を除く、頬や額に左右対称に不規則な形で生じる色素沈着です。特に30~40歳の女性に多く生じます。原因としては、女性ホルモンが関係していると考えられ、ピルの内服、妊娠などによって生じることが多いです。

肌荒れは、西洋医学では、なかなか病気としては捉えにくく、明確な定義はありません。体調の低下などによって、皮膚が乾燥したり、つやがなくなる、くすみが出てくる、ガサガサに荒れるという状態を肌荒れと考えます。

しみや肌荒れは、生命には影響がないため、保険適応のある外用薬が少なく、健康保険で治療をする方法は限られています。

しみ、肌荒れの西洋医学の治療

しみ(肝斑)は、健康保険でできる治療はかなり限られています。ビタミンCや、止血作用のあるトラネキサム酸の内服(いわゆるシナトラ、シナール®(ビタミンC)+トランサミン)や、患部を日光にさらさないように指導する程度です。自費による治療では、ケミカルピーリング、ハイドロキノンの塗布、レーザー治療など様々です。

皮膚科では、市販のものより高濃度のハイドロキノン含有の軟膏を使用したりできるところもあると聞きます。

肌荒れには、食事や睡眠が大きく関わっているので、バランスのとれた食事、十分な睡眠を取るように生活の改善の指導をします。

皮膚は内臓の鏡といわれるように、身体の中の状態と皮膚の健康状態が深く関わっています。強いストレスや疲労が続くような生活を送れば自律神経が乱れがちになり、交感神経が高ぶれば不眠となり、身体の細胞修復が上手く行われず、また副交感神経が低下すると、食べたものの消化や栄養吸収、解毒の力が低下してしまうため、それらが皮膚のあれとなって現れます。

肌荒れもしみと同様に、生命への影響が少ないため、なかなか病気とは認めにくく、あまり治療には熱心ではありません。保険治療では、保湿クリームの処方を行う程度です。どちらかと言うと、美容的な側面が強いため、化粧品やエステなどへ走ってしまう人も少なくありません。

しみ、肌荒れの漢方医学の治療

漢方医学では、皮膚だけの局所的な治療ではなく、体質の改善をすることによって全体から治療をしていきます。

しみの原因には、女性ホルモンが関係していると考えられており、女性ホルモンのバランスを整えることが得意としている漢方薬は優れた治療と言えます。

『四物湯』 ◇冷え症で肌の乾燥が強い人に‐

血そのものの量や質が悪く、巡りが悪いため皮膚に十分な栄養が行き届かない状態を漢方では血虚といい、四物湯は血虚の第一選択薬となります。名前のとおり4つの生薬で構成されており、血を補いつつ全身に巡らせることで、皮膚に栄養と潤いを与え、身体の冷えを改善します。ただし、不眠やイライラなど精神的な不調を伴う場合は、四物湯ではなく、他の補血剤を検討することをおすすめします。

著しく胃腸の虚弱な人、食欲不振や悪心、嘔吐がある人は使用を控えてください

温経湯』 月経不順や不眠があるタイプの肌のあれに

くちびるや手のひらから手の先などが、特にガサガサに肌あれする人に温経湯は適しています。体力的にはやや虚弱で、気虚(パワー不足)があり、身体に冷えはあるけれど手のひらにはほてりがあり、月経不順や更年期障害、不眠などの症状を伴うことが多いのが特徴です。

温経湯には、婦人科疾患にたびたび使われる当帰芍薬散や、芎帰膠艾湯、桂枝茯苓丸などの一部分が含まれており、これらは補血(血を補う)や、活血(血の滞りをなくす)の作用があります。また肌や粘膜に水分を与え、手のひらのほてりをとる麦門冬や阿膠、人参などの滋潤剤(肌を潤す生薬)も含まれています。

甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。副作用として消化器症状などが記載されています。

体力がなく、手足が冷え、月経異常があれば、温経湯のほか、当帰芍薬散が用いられます。さらに全身倦怠がある人には十全大補湯で全身の体力回復をすることもあります。

 『桂枝茯苓丸加薏苡仁』 肩こりやのぼせがある人の肌あれとにきびに –

桂枝茯苓丸加薏苡仁は、瘀血(血の滞りがある)を改善する桂枝茯苓丸に、いぼをはじめ皮膚のトラブルを改善する生薬である薏苡仁を加えたものです。

瘀血によって起こる肩こりやのぼせ、頭重感、月経困難症などの婦人科疾患がある人に適しています。体力は充実している人からやや虚弱な人まで幅広く使えますが、身体に冷えがないことがポイントです。

副作用として消化器症状などが記載されています。

抑肝散』 イライラ・興奮しやすい高齢者の肌あれとかゆみ –

人間は、加齢に伴い皮膚表面の表皮がうすくなり、汗腺や皮脂腺の機能が低下するため、水分や皮脂分の分泌も減少します。そのため、皮膚のバリア機能が低下し乾燥や肌があれやすくなります。

こういった高齢者のかゆみは夜間に多くみられるため、かゆみで眠れず不眠の状態が続くこともあり、ストレスをためてしまいがちです。ストレスが身体にかかれば、自律神経を乱すことになり、肌あれやかゆみがさらに増悪することとなります。

抑肝散は、神経の高ぶりを抑え気持ちを安定させることで、ストレスによる皮膚のあれやかゆみを改善していきます。もちろん肌あれの原因を漢方の視点で考え、血虚(身体の血の不足や働きが弱くなっている状態)であれば、四物湯や当帰飲子などを併用し、肌の栄養状態を改善することも必要です。ただし複数漢方薬を服用する場合は、飲み合わせや副作用を必ず確認するようにしてください。

甘草を含んでいるため、他の漢方薬との併用や甘草を含む食品の摂取に注意してください。副作用として消化器症状、ミオパチーなどが記載されています。

大柴胡湯』・『柴胡桂枝湯』女性ホルモンのバランスを整える

しみを直接治療するのではなく、女性ホルモンのバランスを調節する漢方薬や柴胡剤がよく用いられます。柴胡剤は、気・血・水の流れを調節する役割を担う「肝」を整える作用をもちます。便秘、肩こりなどを伴っている場合は、大柴胡湯、のぼせ、食欲不振があれば、柴胡桂枝湯が用いられます。体力がある人には大柴胡湯、ない人には柴胡桂枝湯が効果的です。

また、ホルモンバランスを整える作用のある大黄牡丹皮湯桂枝茯苓丸加味逍遙散も用いられます。3者とも月経不順や月経困難症を改善する効果があり、女性ホルモンのバランスを正常にすることで、月経不順や月経困難症の改善を行い、体質改善を目指します。

肌荒れの場合は、しみと同様に、全身の治療として月経異常、胃腸障害、疲労倦怠に着目して漢方薬を選択していきます。肌の乾燥、のぼせがある場合は、体の熱を発散する作用がある麻杏薏甘湯が用いられます。配合生薬の薏苡仁は皮膚をきれいにする作用があります。

しみ、肌荒れに対して用いられる主な漢方処方

以下に体力別に用いられる漢方処方を挙げます。

  • 体力がある人
  • のぼせ、手足の冷え、にきび、月経不順→桂枝茯苓丸料加薏苡仁
  • 下腹部痛、便秘、月経異常、湿疹、じんましん→大黄牡丹皮湯
  • 頭痛、耳鳴り、便秘、じんましん→大柴胡湯
  • 体力が中程度な人
  • のぼせ、肌荒れ、不眠、皮膚掻痒感、じんましん→温清飲
  • のぼせ、月経異常、肩こり→桂枝茯苓丸
  • 神経痛、皮膚の乾燥、手足の荒れ→麻杏薏甘湯
  • 体力がない人
  • 冷え、手足のほてり、肌荒れ、皮膚掻痒感、しもやけ→温経湯
  • 血色不良、肩こり、疲れやすい、不安、冷え性、湿疹→加味逍遙散
  • 疲れやすい、気力がない→十全部大補湯
  • 冷え、皮膚の乾燥、湿疹、痒み→当帰飲子
  • 頭痛、手足の冷え、吐き気、腰痛、湿疹、しもやけ→当帰四逆加呉茱萸生姜湯
  • 貧血、足腰の冷え、疲労感、湿疹、しもやけ→当帰芍薬散

ライフスタイルで注意すること

「皮膚は内臓の鏡」なので、暴飲暴食や夜更かし、寝不足といった生活を避けることが大切です。さらに、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、皮膚の水分保持をすることが大切です。

参考文献
・漢方薬・生薬の教科書(新生出版社)
・漢方薬事典(主婦と生活社)
・美肌の科学(日刊工業新聞社)
・漢方相談ガイド(南山堂)

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